↓ 《代案の提出》
20 G:筆者の意図と読み手の理解がうまく反映されたか 《検証》
《 》で示したことからわかるように、この学習は、PISA 型読解力の「統合・解釈」
と「熟考・評価」の両方の要素を満たしている。つまり、なぜわかりにくいのかを複数の 箇所の事例をもとに一般化し、またその書き方について、形式の熟考・評価をしているか
25 らである。さらに、代案を出しそれを検討するという、発展事項もここには含まれている。
何気ない違和感でさえ、連鎖する問いとなるのである。
4.8 他者の読みを推論する(1)
筆者の意図や目的を推論することと、授業において他の人がつぶやいたことや意見に対
30 して、なぜそう考えたのかを読むことは本質的に同じ目的を持つ。とくに稿者は、後者の 学習を取り入れることを、高等学校における評論文を教材とした授業で積極的に取り入れ たいと考えている。
PISA の読解力の問題では、たとえば公表されているものでは、次の問題がこれに該当 する。
35
【芝居は最高に関する問3】
ある読者が言いました。「城に招かれたことについて、三人の中では、たぶんアダムが 一番わくわくしていると思う。」
このような意見を言うとしたら、どんな理由をあげたらよいでしょうか。文章の内容に基
40 づいて、理由を書いてください。
(国立教育政策研究所、2010、p.89)
この問いは「統合・解釈」の問題であるが、テストという条件から、やや回答のしかた が絞り込まれてしまっている。この問題を授業で扱うならもっと縛りが減って、次のよう
5 な問い方が可能となろう。
【問3】
この文章を読んだ山田さんが、「城に招かれたことについて、三人の中では、たぶんアダムが一番わく わくしていると思う。」といいました。さて、山田さんは、なぜそう思ったのでしょう。
10
場合によっては、このような推論を、学習者がもっている知識と関連づけて回答するこ ともあり得るが、そのような場合は、厳密には PISA では「熟考・評価」に分類されるこ とになる。
さて、他者の解釈の理由を、本文に基づきながら、また時には自分の既有の知識を関連
15 づけながら読んでいく学習は、授業では比較的設定しやすく意義のある学習である。なぜ なら、他者の解釈を読むという学習は、言語的な抵抗が少なく、また他者理解や相互コミ ュニケーションにとっても有効だからである。
しかし、稿者の知りうる限り、このような学習を取り入れている高等学校の先行実践は 高等学校においては見られない。「あなたの考えについてあなたが理由を述べてください」
20 という学習はあっても、「あの人の考えについてあなたが理由を述べてください」という 学習はないのである。
では、ここで、今年度の「水の東西」の授業を例に、その実践理論の展開をみてみたい。
本年度1学期、問いを立てる学習をはじめたときのことである。ある生徒が「なぜ教科 書会社はこの教材を載せたのか」という疑問を持った。そこで稿者は「では、なぜAさん
25 は、このような疑問を持ったのでしょう」という質問を全員に投げかけてみた。
まだ、導入期であるから、人の感覚なんてわからないよ、という反応もあった。すると、
しばらく待つと、ある学習者から「Aさんはきっとこの文章を快く思っていないのではな いか」という解釈が出た。そこで、次に「では仮にAさんが快く思っていないとするなら、
それはどんなところからだと考えられるでしょうか、具体的に指摘しあってみましょう」
30 という課題を出しつなげていった。
この議論はその後、かなり深まりを見せ、最終的には、「筆者の日本びいきが、たとえ ば○○のところに感じられて、そういった押しつけがましさがいやなのではないか」とい った分析まででた。Aさん自身は、もともと、この文章を教科書に載せる意味があまりよ くわからなかったようであり、みんなの議論を聞いて、自分のもやもやがすっきりしたと
35 語っていた。
このような、他者の解釈、あるいは感覚的な反応を、読み取り推論することは、関連性 や因果を他者に自己移入して考えるということである。敷衍して考えれば、この学習は、
実生活においても、たとえば他者の気持ちに直面したとき「なぜそう考えたのか」と考え、
慎重に吟味する姿勢を育むであろうし、それはある意味では争いを回避したり、他者理解
40 を促進するレッスンともなり得る。たとえば、ある場面で、自分に対して怒りをぶつけて
きた人がいたとする。そのときに相手に対してすぐに怒りをもって「反応」するのではな く、「なぜこの人は怒っているんだろう」と冷静に観察することができれば、争いの程度 が、少し緩和できるであろう。この考え方は、熟議や対話によって戦争を回避するという 政治的な問題解決の場面でも活かされている。
5 他者の読みを推論するには、結果的に自分を一旦ニュートラルにせざるをえない。それ は自己を対象化し、相対化することでもある。自分の中のスタンダードと向き合い、既存 の当たり前を問い直し、結果的にメタ認知を促すのである。
4.9 表出から表現へ
10 クリティカル・リーディングの到達点は、批評する学習活動である。具体的には、学習 者自身が問いを立て、その問いを学習者相互の話し合いによって解決を図る。
たとえば、本年度、2 年生の現代文の授業で次のようなやりとりがあった。教材は、東 京書籍「現代文」所収の「環境問題への視点」(中村桂子)である。
グループで問いを立てる話し合いをした結果、次のようなつぶやきが、ある学習者から
15 問題として提起された。
S:「いきなり『愛の遺伝子』の例をだされてもわかりにくいことない?」
筆者は、科学万能主義に対する警鐘を鳴らし、その例としてこの「愛の遺伝子」の例を
20 挙げていたのだが、授業のやりとりの中で、このつぶやきのように、何人かの生徒が同じ ように唐突でわかりにくいと感じていることが分かった。そこでまず、S さんが、どこか らそう感じたかをみんなで考えた。次に、なぜ筆者はこの例を用いたのか、その意図を推 論しあい、その効果を考えた。さらにその次に、文脈を崩さずもっと他にいい例は無いの か代替案について考えを出し合った。
25 このような話し合いの過程を経て、「筆者は遺伝子の専門家だから日常的によく分かる 例なのだろうけれど、もし、一般の読者を想定しているのなら配慮がもっとほしい」とい った結論が出た。また、代替案として、「血液型の例を入れるといい」、「マイナスイオン の例がいい」という意見がだされ、そのあと、それらが入れ替えに耐えうるかどうかにつ いて検証を試みた。
30 ここでは、学習者の違和感を出発点として問いを立て、分析し、代替案を考えるという クリティカル・リーディングの一つのモデルが見られる。はじめにつぶやいた学習者は、
はじめの一歩をつくる人として、この学習をはじめる上で貴重である。一方、そのつぶや きを皆にわかるように解釈し、説明することを試みている学習者たちも、つぶやきという 表出を表現に昇華させる意味で貴重である。名付けるならば、前者はクリエイティブ・リ
35 ーダー、後者はクリエイティブ・フォロアーということができよう。
従来の授業であれば、教科書に掲載されている一流の書き手の文章を「いじる」ことな ど考えられないことであろう。しかし、こうして評論文と対等に向き合い、なんとなく気 になる部分について、なぜ気になるかをみんなで考え、さらによいプランはないかを考え ていくことが、結果的には、生徒の興味関心をおおいに引き出す学習活動となる。先に述
40 べた通り、問題解決の過程を透明化することは、学習者の参加意欲を高めるのである。
学習者の「なんとなく」を捕まえ、悶々として言葉にできないことを、説得力あること ばへと昇華させること、つまり表出を表現へと昇華させることは、概念を明確化するとい う意味からも、このあとに来たるべき、書く活動の下準備ともなるはずである。
5 【図E】
曖昧模糊としたつぶやき 他者への説得性があることば
○a ○b ▲
ハイパー○
10
■a ■ b
ハイパー■
*a.b.▲の要素を必要に応じ融合
15 《情緒と論理の融合》
表出
から表現 へ
4.10 レトリックに着目する
20 文章を批評する態度を育む読みに関しては、参考となる複数の研究者の先行研究がある。
ここでは、代表的な例を示したい。
鈴木(2006)は、受け身的な読み手から積極的な読み手になるための留意点を示してい る。積極的な読み手とは「論の展開や理由付けの確かさにも気を配りながらテクストを読 める人」であるという。(鈴木、2006、p.88)
25 鈴木が示した「積極的な読み手」の留意点とは次の通りである。
(1)テクストの目的(purpose)を知る
(2)テクストの「論調」(tone)を知る
(3)テクストの「構造」(structure)を知る
30 (4)テクストの「読み手」(reader)を知る
(5)テクストの「筆者のペルソナ」(persona)を知る
(6)テクストの「補足資料」(supporting materials)を知る
(7)テクストの「レトリック戦略」(strategies)を知る
(鈴木、2006.b、p.88-94)
35
鈴木の解説を参考に、7 つの「知る」を評論文のクリティカル・リーディングに当ては めていくと、次のように読み替えられるであろう。