第 Ⅲ 章 新たな生活習慣病予防の保健医療サービス体系を構築するための方 策
4 住民及び民間企業・団体等の役割
ヘルスプロモーション活動を推進するにあたっては、ヘルスプロモーショ ンの責任を個人、コミュニティ・グループ、保健の専門家、保健医療機関と 政府が分かち持っておりそれぞれに協働体制を求めている。
企業は、労働者の健康の保持増進のみならずコミュニティの形成において も大きな役割を担っている。つまり、休日等には企業の敷地や施設を開放し たり、ともに健康に関するイベント等を開催したりすることで地域とのかか わりが可能である。このような交流がソーシャル・キャピタルの醸成につな がり、そしてコミュニティが活性化する要因となる。
一方、健康増進法第
25
条の受動喫煙防止について、本年2月に厚生労働 省から今後の受動喫煙対策の基本的方向性として、多数の者が利用する施設 についてはこれまでの分煙からさらに踏み込んで全面禁煙の方向性が出され た61)。これに対しては、個人も責任を分かち持つ必要がある。つまり、喫煙策を 講じている施設のチェックや講じていない施設を拒否することも必要であ る。
また、各種団体や
NPO
等も生活習慣病の知識の普及や健康相談、健康教 育の実施等を分かち持つことが求められる。特に母子保健や学校保健におい ては独自に生活習慣病予防の普及啓発を実施するといったことや市町村、学 校と協力して健康診査や健康相談等を実施していく必要がある。このように、住民や企業、各種団体は生活習慣病の予防のためにそれぞれ に課せられる役割を果たしていくことになる。それぞれが役割を果たしてい くために最も重要なものとして市町村における保健医療計画があり、その計 画そのものを個人、コミュニティ・グループ、保健の専門家、保健医療機関 と行政が協働で策定し、そして協働体制を構築していく必要がある。
おわりに
元来、人の健康は個人の嗜好や生活習慣と密接に関連するもので、どのよ
うな日常生活の行動様式を取ろうと、それは、原則として憲法で、「基本的 人権」として保障されている。そのため、
2002
年(平成14
)に公布された 健康増進法では、第2条で健康増進は個人の責務として努力規定に止めてい る。このように、ライフスタイルの選択は個人が選択し自己決定するものであ る。しかし、反面、社会を構成する一員である以上個人の健康は社会全体に 影響を与えることになる。
したがって、社会全体で健康増進を支援する必要があり、特に公的責任は 大きいといえる。
そのなかでも、生活習慣病は、ブレスローの研究62)からもわかるように 遺伝的要素や特異な場合を除き、発症を予防することが相当可能な病気であ るため、発症予防の施策が重要である。しかし、日本においては、健康診断 といった医学的なスクリーニングを主体とした施策を中心としており、パ ターナリズムを生み出している可能性も否定できない。その結果、人々も健 康診断で細部まで検査することが安心につながるというように、人びとの意 識のなかに健康診断至上主義の部分が生じているといえる。その背景とし て、人々の専門家依存の傾向があることが考えられる。一方、保健医療学の 問題としては健康診断の有効性に関する検証のデータが少ない63)というこ とに加えて、施策においても医学モデル優先型の施策であることが要因とい える。
生活習慣病は社会経済要因、環境要因が大きいことが指摘されており、格 差社会が広がる中で生活習慣病の健康格差も広がってきている状況にある。
しかし、健康診断至上主義の課題及び限界、社会経済要因、環境要因を踏ま えての公的責任としての保健医療提供体制については今後の検討課題とした い。
(付記)
本稿は、
学位(社会福祉学博士、
2008
年9月)論文である「健康を支援する保健医療提供体制の再構築 −生活習慣病予防機能を中心として−」の一 部である。
注
1)
プライマリ・ヘルスケアとは、人びとにとって不可欠なヘルスケアで、
それは実践的で科学的な根拠があり、しかも社会的に受け入れ可能な方法 と技術に基づいていることである。そしてすべての地域の人びとが十分 に参加できて、だれもが享受でき、また入手可能な費用でできることで、
プライマリ・ヘルスケアが目指すのは人びとの自立と自己決定である。
Elizabeth T. Anderson, Judith Mcfarlane: COMMUNITY AS PARTNER, Lippincott Willams & Wilkins, pp.13-14.
2)
湯浅資之他「プライマリ・ヘルス・ケアとヘルス・プロモーションの 共通点・相違点の考察」『日本公衆衛生誌』日本公衆衛生学会、
Vol.48.
No.8
、723
頁、2002
年。3)
桝本妙子「「健康」概念に関する一考察」『立命館産業社会論集』第
36
巻第1号、128
頁、2000
年。4)
山元幹夫監訳『ヘルス・フォーオール』
1995
年、垣内出版株式会社、9頁。
5)
山元幹夫監訳、同上、
11-12
頁。6)
湯浅資之他「プライマリ・ヘルス・ケアとヘルス・プロモーションの 共通点・相違点の考察」『日本公衆衛生誌』日本公衆衛生学会、
Vol.48.
No.7
、513
頁、2002
年。7)
湯浅資之他「プライマリ・ヘルス・ケアとヘルス・プロモーションの 共通点・相違点の考察」『日本公衆衛生誌』日本公衆衛生学会、
Vol.48.
No.8
、720-726
頁、2002
年。8)
山元幹夫監訳、前掲、
12
頁。9)
湯浅資之他、前掲、
Vol.48. No.8
、720
頁。10
)島内憲夫訳『ヘルスプロモーション
WHO
:オタワ憲章』1995
年、垣内出版株式会社、
8-10
頁。11
)島内、同上、
8-10
頁。12
)リチャードG、ウイルキンソン著、池本幸生・片岡洋子・末原睦美訳
『格差社会の衝撃』書籍工房早山、
2009
年、2頁。13
)近藤克則『健康格差社会』
2005
年、医学書院、21
頁。14
)荒木紀代子「健康を支援する保健医療提供体制の現状と課題」(第Ⅰ 報)『社会関係研究』熊本学園大学社会関係学会、
2010
年、89
頁。15
)河野正輝「社会保障法の目的理念と法体系」日本社会保障学会編『講 座・社会保障法第1巻
21
世紀の社会保障法』2001
年、法律文化社、21-29
頁。16
)井上英夫「医療保障法・介護保障法」日本社会保障学会編『講座・社 会保障法第4巻
21
世紀の社会保障法』2001
年、法律文化社、12-13
頁。17
)河野正輝、前掲。
18
)島内憲夫
1987
/島内憲夫・助友裕子・高村美奈子2004
(改編)ヘルス プロモーション学会(
http://www.jshp.net/HP̲kaisetu/kaisetu̲head.
html
)2008/2/16
19
)荒木紀代子、前掲、
114-115
頁。20
)島内憲夫「小さな健康哲学」『健康管理』社会保険出版社、第6号、
2009
年、20
頁。21
)藤内修二「健康日本
21
の推進にみるヘルスプロモーションの実践」『保 健の科学』杏林書院、Vol.52. No.6. 371
頁、2010
年。22
)荒木紀代子、前掲、
89
頁。23
)藤原武男「ライフコースアプローチによる胎児期・幼少期からの成人 疾病予防」『保健医療科学』国立保健医療科学院、
Vol.56. No.2. 90
頁、2007
年。24
)夏川周介「農村医療にかけた佐久病院の
60
年」『日本農村医学会雑誌』日本農村医学会、