3.1 はじめに
近年,高度経済成長期に建設された道路橋は建設後50年を超え,老朽化した橋 梁の維持管理が重要な課題となっている 3.1)。とくに,橋梁部材の中で車輌の重量 を直接受けるRC 床版の損傷が著しい。RC床版の損傷は,首都圏の場合は交通量 の増加や重車輌の走行による疲労損傷が主である。また,積雪寒冷地域では大都 市圏のような交通量の増大による疲労損傷と異なり,主たる原因は疲労と凍害,
あるいは融雪剤の散布による塩害と凍害が複合され,その損傷はかなり著しい。
その損傷状況は,アスファルト舗装に覆われた RC 床版上面に滞水した融雪剤の 融解水が輪荷重走行により,かぶりコンクリートがスケーリングや骨材化(以下,
土砂化とする)している。この上面損傷に対しての橋梁点検は,アスファルト舗 装(以下,舗装とする)が舗設されていることから,舗装の打換え時や舗装にポ ットホールが見られた時点で発見され,事後的に補修や補強法が施されてきた。
したがって,損傷が確認された時点では,既に床版上面コンクリートがスケーリ ングし,さらに進展すると土砂化に至る場合が多い。
一方,RC 床版の上面損傷に使用する補修材には,超速硬セメントを用いた超 速硬性無収縮モルタルや超速硬コンクリートなどの超速硬性セメント系材料が一 般的に用いられているが,これらの材料は床版上面損傷に対する補修材として開 発された材料ではないことから,薄層施工となる補修において早期に「割れ」や
「ひび割れ」が発生している。また,補修法においても従来工法では既設 RC 床 版の補修範囲に直接補修された補修界面で「はく離」などの再損傷が生じ,再補 修した事例も多い。よって,RC 床版の上面損傷に適した補修材および耐疲労性 の向上が図れる補修技術の開発が急務となっている。
そこで第 3 章では,RC 床版の上面損傷に用いるセメント系補修材として「割 れ」や「ひび割れ」を抑制するために超速硬セメントに繊維を配合した繊維補強 セメントを用いた繊維補強セメントモルタルおよび繊維補強セメントコンクリー トを提案する。この繊維には塩害の影響を受けない高強度のポリビニルアルコー ル繊維(High strength polyvinyl alcohol fibers PVA: )を用い,既設RC床版の静弾性 係数と同等にするとともに靱性を高め「割れ」を抑制した PVA 繊維補強低弾性 Polyvinyl alcohol fiber reinforced low elasticity polymer ポリマーセメントモルタル(
: )を基本として,各種試験を実施し,性能を検証する。補 cement mortar P.PCM
修法は補修界面の削り作業において既設床版の上面に発生する微細なひび割れを 補修し,コンクリート表面を強固にする浸透性接着の塗布,さらには補修材との 付着力を高め「はく離」を抑制するために高耐久型エポキシ接着剤(以下,付着
用接着剤とする)を塗布する薄層補修法を提案する。実験においては,従来のポ リマーセメントモルタル(Polymer cement mortar PCM: ),本提案する2タイプの 繊維補強ポリマーセメントモルタル(P.PCM-48 45, )および P.PCM に骨材を配
PVA Polyvinyl alcohol
合した 繊維補強低弾性ポリマーセメントコンクリート(
: )を用いてサイクル補 fiber reinforced low elasticity polymer cement concrete P.PCC
修を施し,輪荷重走行疲労実験により耐疲労性の検証を行い,RC 床版の薄層補 修法の実用性を評価し,予防保全型維持管理計画における補修対策の一助とした い。
3.2 道路橋RC床版の損傷状況および補修法 3.2.1 RC床版上面の損傷状況
床版の上面損傷は,舗装に覆われ,不可視であることから,橋梁点検にお RC
, 。 ,
いては損傷が顕在化した時に発見され 事後的な補修が行なわれてきた ここで 道路橋 RC 床版の上面損傷の一例を写真- 3.1に示す。RC 床版の上面損傷は,舗 装にポットホール(写真-3.1 1( ))やひび割れ(写真-3.1 2( ))が発生し,舗装を 撤去すると床版上面はスケーリングしている(写真- 3.1 3( ))。これは,雨水など が舗装のひび割れから床版上面に浸入し,供用車輌の輪荷重走行により RC 床版 上面のコンクリートからセメント成分が滲出することで,部分的に土砂化した箇 所では舗装の支持力を失い,ポットホールとなる。また,舗装から侵入した雨水 が RC 床版の貫通ひび割れを介して,下面に漏水・遊離石灰や錆汁が沈着してい る。とくに,積雪寒冷地域の RC 床版上面は,凍結・融解により長期間湿潤状態 となることから輪荷重の走行を繰り返すことでセメント成分が滲出し,土砂化に 至っている事例が多い。したがって,床版上面損傷の点検においては 「舗装の異, 常」を早期に発見することが重要となる。また,舗装にポットホールやひび割れ が著しく発生している箇所は舗装を撤去し,詳細に点検する必要がある。
( )ポットホール1 ( )ひび割れ2 ( )スケーリング3 写真-3.1 RC床版の損傷状況の一例
3.2.2 RC床版の上面損傷に対する補修法
床版の上面損傷に対する補修事例を写真- に示す。また,従来の補修材
RC 3.2
を用いて薄層補修した場合の「割れ」の状況を写真-3.3に示す。
( )上面劣化1 ( )脆弱部除去2 ( )補修3 写真-3.2 RC床版の補修法
写真-3.3 薄層補修における割れ
床版の上面損傷における部分補修法は,舗装にポットホールやひび割れの RC
, , ( )
発生が見られた場合 舗装を切削し スケーリングしている部分 写真-3.2 1( ) の脆弱したコンクリートを除去(写真- 3.2 2( ))し,超速硬性無収縮モルタルや 超速硬コンクリートなどのセメント系材料で補修を行い(写真- 3.2 3( )),養生後 に防水工が施されてからアスファルト混合物が舗設される。
3.3 薄層補修に用いるセメント系補修材の提案 3.3.1 補修材および接着剤の必要性および要求性能
(1)低弾性補修材の必要性
床版の上面損傷に使用されている補修材には超速硬性セメントモルタル,
RC
超速硬コンクリート,メチルメタクリレート樹脂接着剤やエポキシ樹脂系の補修 材も使用されているが,取扱いの簡便さなどから超速硬性無収縮モルタルや超速 硬コンクリートが使用されている場合が多い。この超速硬性無収縮モルタルは橋 梁の支承と橋座の高さ調整の充填に適用され,流動性と超速硬性を有する高強度 で静弾性係数も大きい材料である。一方,既設 RC 床版の静弾性係数は道路橋示 方書・同解説(以下,道示とする)3.2)において,設計基準強度 24N/mm2 において
,設計基準強度 では と記載されている。このた 25.0kN/mm2 30N/mm2 28.0kN/mm2
め,輪荷重の影響を受けるRC床版上面の薄層補修(厚さ20~30mm 程度)に静 弾性係数の大きな補修材を適用した場合,既設 RC 床版と補修材との静弾性係数
割れ
の違いから,供用後の交通車輌による輪荷重に対して異なる挙動となり,薄い補 修材には写真- 3.3 に示すような,割れやはく離が早期に発生している。また,
従来の薄層で施工されている補修材は靱性の低下により損傷が加速化されている と考えられることから,補修材には RC 床版コンクリートの静弾性係数と同等程 度であることが求められる。よって,低弾性のセメント系材料の開発および割れ RC にくく耐疲労性の向上が図られる補修材の開発が急務となっている なお 既設。 , 床版の静弾性係数(設計基準強度 30N/mm2 で 28.0kN/mm2)以上の静弾性係数を 有する補修材を高弾性補修材とし,同等あるいは同等以下を低弾性補修材と定義 する。
( )補修材に求められる性能2
床版の上面劣化に対する補修法における施工条件として,交通量の多い道路 RC
橋では,交通規制が 7 時間から 9 時間以内である。この時間内での補修作業に要 する時間を8 時間程度として,補修材の要求性能は材齢 3 時間で道示3.2)に規定す るコンクリートの設計基準強度 24N/mm2 以上を発現できる材料が要求される。よ って,薄層補修材として,超速硬繊維補強セメントモルタルや超速硬無収縮モル タルなどが使用されている。一方,地方公共団体が管理する道路橋 RC 床版の補 修においては,8 時間施工に用いる補修材の使用も可能であるが,これらの材料 は可使時間が短いことから熟練した技能者の確保が必要となる。また,高速道路 橋と比較して交通量が少ない路線では 1.0 日(24 時間)程度の交通規制の基で補 修工事が計画されている事例もある。よって,材料の要求性能としては材齢12 時 間で道示に規定するコンクリートの設計基準強度 24N/mm2 以上発現できる性能が 求められている。
また,交通規制が 8時間および 24時間施工に用いる補修材は「割れ」を抑制す る材料であることも要求性能の1つである。よって,本補修材の性能としては従 来の補修材に発生する早期の割れやひび割れを抑制する目的で PVA 繊維を配合 し,靱性を高める必要がある。さらに,従来の補修材の静弾性係数は 40kN/mm2
以上であり,既設 RC 床版の静弾性係数は設計基準強度 24N/mm2 で 25kN/mm2 で あることから補修材と差異が生じている。そこで,本提案する補修材の静弾性係 数は既設 RC 床版コンクリートと同程度を目安とした低弾性の補修材とする。ま た,道路橋 RC 床版の上面補修材は橋面防水材との付着が重要であり,防水プラ イマーとの付着強度を道路橋床版防水便覧(以下,防水便覧)3.3)より,0.6N/㎜ 2 以 上とすることが要求される。
3.3.2 補修材の配合条件および材料特性
( )補修材の配合条件1
安藤ら3.4)は,RC 床版の上面補修に用いる専用補修材料として超速硬性繊維補 強ポリマーセメントモルタルを開発し,性能試験が実施されている3.5 ,3.6) )。その 結果,初期強度発現性は材齢 24 時間で 27.2N/mm2 であり,補修が終了するまで に30時間以上を要することから 日以上の連続交通規制が必要となり,従来の2