第 5 章 変調周波数の制限による
5.2 低域の変調周波数成分の検討
本実験では,低域の変調周波数の成分における緊迫感知覚の手がかりを探索するため に,音声波形の振幅包絡線にカットオフ周波数の異なる低域通過フィルタをかけた雑音駆 動音声を用いて実験を行い検討した.
5.2.1 実験方法
参加者
北陸先端科学技術大学院大学の22歳から25歳までの学生10名(男性7名,女性3名)
が実験に参加した.被験者は,母国語が日本語であり,日常生活に支障のない程度の聴力 を有していた.
刺激
音声波形の振幅包絡線にカットオフ周波数の異なる低域通過フィルタをかけた雑音駆動 音声を刺激とした.カットオフ周波数の条件は,2,4,6,8,12,16,32 Hzの7条件で
あった.刺激の呈示には,PC(Windows 10, MATLAB),オーディオインターフェー ス(Fireface UCX),ヘッドフォン(SENNHEISER HDA 200)を用いた.
手続き
実験は防音室で行った.被験者には,A,Bの順で音声刺激を呈示し,Aに比べてBは どの程度緊迫してるか,あるいはしていないか(Bの音声について答えてください)と質 問した.被験者には,かなり緊迫している,やや緊迫している,同程度,やや緊迫してい ない,かなり緊迫しているの5段階で評価するように求めた.音声の緊迫感についての 評価結果からシェッフェの一対比較法(浦の変法)を用いて,刺激に対する音声の緊迫感 についての心理尺度を算出した.順序効果を考慮して,実験の総判断回数は756回であっ た.また,音声刺激の呈示順は被験者ごとにランダムとし,AとBの音声刺激の間隔は 0.5秒であった.756回を14セクションに分け,1セクション54回の判断とし,7セクショ ン後に90分以上の休憩をはさんだ.セクションごとの休憩(7セクション後の休憩は除 く)を踏まえると,実験に要した時間は2時間半程度であった.
5.2.2 実験結果
音声波形の振幅包絡線の低域の変調周波数成分について検討するために,カットオフ周 波数の異なる低域通過フィルタをかけた雑音駆動音声の緊迫感の評価結果から一対比較法 によって緊迫感についての心理尺度を算出した.各カットオフ周波数の条件における4種 類の刺激の緊迫感についての心理尺度を図5.1に示す.縦軸は刺激の緊迫感についての心 理尺度を示し,横軸はカットオフ周波数の条件を示す.各カットオフ周波数の条件におい て,刺激間の緊迫感について心理尺度の順序は変化していないことがわかった.分散分析 を行った結果,刺激に対する主効果(F(24,∞) = 200.1,p <0.01)が認められた.カッ トオフ周波数の条件が32 Hzから4 Hzの条件においては同じカットオフ周波数の条件の 刺激間すべてで有意差(p < 0.01)が認められた.カットオフ周波数の条件が2 Hzの場
表 5.1: カットオフ周波数の異なる低域通過フィルタをかけた 雑音駆動音声の緊迫感についての心理尺度
刺激ラベル
カットオフ周波数[Hz] a b c d 2 −0.4888 −0.2254 0.0603 −0.1004 4 −0.4576 −0.2098 0.3504 0.1250 6 −0.5054 −0.1987 0.6161 0.1897 8 −0.5580 −0.2567 0.6429 0.1964 12 −0.5246 −0.3348 0.8036 0.2366 16 −0.5580 −0.2902 0.7321 0.2366 32 −0.4777 −0.2522 0.9062 0.3192
図 5.1: カットオフ周波数の異なる低域通過フィルタをかけた 雑音駆動音声の緊迫感についての心理尺度
表 5.2: カットオフ周波数の異なる低域通過フィルタをかけた 雑音駆動音声の実験における分散分析表
要因 平方和 自由度 不偏分散 F値 p値
主効果 2480 27 91.87 200.1 0.0000
主効果×個人 696.3 189 3.684 8.022 0.0000 組み合わせ効果 205.7 351 0.5861 1.276 0.0005
順序効果 20.02 1 20.02 43.61 0.0000
順序×個人 30.34 7 4.335 9.440 0.0000
誤差 2513 5473 0.4592
全体 5946 6048
F(1,∞; 0.01) = 3.841, F(7,∞; 0.01) = 2.010, F(24,∞; 0.01) = 1.517, F(∞,∞; 0.01) = 1.000