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(1)連邦量刑ガイドラインの成立

  連邦量刑ガイドラインは、連邦裁判所による連邦法上の犯罪に対する量刑 の基準を明確化・公平化するためのガイドラインであるが、まず米国裁判所で の刑事罰賦課に際し、毎年その制度見直しを行って重要な影響を与えている連 邦量刑委員会について説明する。連邦量刑委員会は、1984 年包括的犯罪制御 法の一部としての合衆国量刑改革法(the Sentencing Reform Act provisions of the Comprehensive Crime Control Act of 1984)によって設立された永続的な 独立連邦政府司法機関であり、制定法上以下の項目を含む広い権限を有する。

・ 全ての連邦刑事事件において判断され、計算され、考慮される量刑ガイドラ インを交付すること

・ 量刑のデータを組織的に集め、新たな刑事事件の傾向を探り、連邦刑事政策 がその目的を達成しているか判断し、且つ連邦量刑統計の取りまとめを行う こと;

・ 量刑問題の調査を行い、連邦量刑実務に関する情報の収集・準備・普及に関 しての情報センターとして機能すること;及び

・ 量刑ガイドラインの適用を含む連邦量刑問題において裁判官・保護観察官・

担当弁護士・法務書記・検察官・被告側弁護士及 び 他 の 連邦刑事 コ ミュニ ティーの構成員に対し、特別のトレーニングを実施すること。

 連邦量刑委員会の構成員は、任期をずらした形で 6 名の委員が大統領により 任命され、上院の承認を受けるため、独立性が強く現実に立法活動に近い行為

も行えることとなっている。

 合衆国量刑改革法(1984 年)の制定自体 COSO の設立(1985 年)時期と近 接しているが、連邦量刑ガイドラインはその企業犯罪に関する基本方針(第 8 章、第 8 章)を 19991 年 11 月に数年間の公聴会と事例分析を経て採択して いる52)。この時期も COSO の 1992 年 9 月の統合的フレームワークの公表時 期に近く、COSO の統合的フレームワークは連邦量刑ガイドラインの第 8 章 の内容を参考にしているとの大手会計事務所の報告も見られる53)が、逆に連 邦量刑委員会が COSO の統合的フレームワークを意識しているのではないか と思われる点も見られる54)。(例、後述の量刑軽減のための倫理・コンプラ イアンスプログラム策定・実施に際しては、そこで求められている内容が量 刑ガイドラインの記述のみでは不明であり、結局 COSO の基準を参照せざる を得ない、等)。いずれにせよ、企業の犯した刑事事件を取り扱う際は、同時 に企業内の実行者(企業の代理人)や企業責任者個人の刑事責任を問うこと が米国では通常である。そして、連邦量刑ガイドラインでは有罪が確定した

(convicted)企業と個人に対し、処罰が共に正当な刑罰と適正な抑止を行い、

更に犯罪行為を抑止、発見、報告するための内部機能を維持する機能を提供 することを企画する旨が記述されている。

 また、企業犯罪処罰の基準を示す同ガイドライン第 8 章では以下 4 つの一般 原則が適用されるとしている。

      

52) Paula Desio, Deputy General Counsel, United States Sentencing Commission, “An Overview of the Organizational Guidelines” https://www.ussc.gov/sites/default/files/

pdf/training/organizational-guidelines/ORGOVERVIEW.pdf

53) Deloitte, Rob Biskup 等 ”At the anti-corruption compliance cross roads” (2017) 参照。

54) Janny Frank“5 Ways To Meet DOJ’s Heightened Compliance Expectations” Stone Turn Group http://stoneturn.com/wp-content/uploads/2016/08/5-Ways-to-Meet-Heightened-Compliance-Expectations.pdf 参照。

   i) まず裁判所は、それが現実的に可能であれば、犯罪の結果生じた被 害の回復を命じなければならない。この回復のために使われる資源

(resources)は、刑罰とみなされるべきではなく、むしろ犯罪被害者 を生じた被害から無傷・健康な(whole)ものとすることである。

    ii) 当該組織(企業)が主として犯罪目的又は犯罪手段により運営され ていた場合は、罰金は当該組織の全資産を奪うほど高額でなければ ならない(筆者註:企業の全財産没収効果があり、死刑に相当する)。

   iii) 上記以外の組織の罰金額の範囲は、犯罪の深刻さと組織の有責度

(culpability)を基準にして決める。その際は、i) 犯罪行為への加担ま たは受忍(Tolerance); (ii) 当該組織の以前の歴史;(iii) 命令違反;

(iv) 司法妨害、を判断する。また組織への処罰を軽減する 2 つの要素 としては、(ア)効果的な倫理、コンプライアンス・プログラムを有 していること、及び(イ)自己申告、協力、または責任の受容がある。

   iv) 被告組織にとっては保護観察(probation)は、他の刑罰が完全に実 施されるであろうことが保証される、又は当該組織内で将来の犯罪 行為発生可能性が減るための段階が保証されることが必要な場合、

適切な判決といえる。

(2)量刑ガイドラインの DPA/NPA 等への発展と国際的広がり

 上記の項目は、量刑ガイドラインの基本的立場であり、また連邦司法省が 司法取引(Plea Bargain)等においてその判断基準として用いる連邦検察官 マニュアル(USAM)も量刑ガイドラインの考え方に沿って記述されている。

そして、最近は司法取引代替手段である訴追猶予契約(DPA、但し司法省や SEC が被告企業締結する場合には、裁判所の事前許可が必要)または検察官 限りで締結できる非訴追契約(Non Prosecution Agreement, 「NPA」)の利用 が増えているが、この場合も企業の刑事訴追を行わない代わりに、当該企業 に一定のコンプライアンス・プログラムを締結させ、企業内の意識改革と犯

罪抑止・発見容易化の制度改革を同時に促進するのが通常である。連邦量刑 ガイドラインによるより詳細な量刑決定手続き55)、司法取引56)、DPA/NPA 取引57)については、既に筆者は別稿で解説済みであるので、本稿でその内容 は繰り返さないが、司法取引や DPA/NPA の中で司法省が被疑者企業に対し 策定や改善を求めるコンプライアンス・プログラムでは、通常は個人に対す る保護観察処分同様数年間にわたる内部統制システムの整備と当局へのその 進捗状況の報告が求められてくる。また、米国司法省からは企業のコンプラ イアンス・プログラムの評価基準が公表されている58)が、その内容は COSO の内部統制枠組みの内容を踏まえたものとなっている。

 量刑ガイドライン適用結果の特色は、特に罰金刑に関しては上記の政策目標 が影響するためか、従前の法定刑の罰金上限額をはるかに超えることが一般的 となる点である。これは、一般的には「犯罪収益の没収」「犯罪被害額の徴収」

という名目で別途説明可能となるが、特に裁判所の検証が深くは行われない司 法省と被疑者企業間の司法取引や、裁判所の検証が形式的に行われても、実質 的には司法省の裁定が殆ど修正されない DPA の事例において特に顕著に見え る。他方、我が国の刑事裁判や審決のように、企業への罰金が国際的基準から 見て異常に低い(インサイダー取引違反で 3 万円の罰金や、5 千万円の賄賂を

      

55) 拙著「国際コンプライアンス研究 第二部 国際コンプライアンスの諸相 代 11 回 FCPA(米国海外腐敗防止法)に お け る 法人処罰」国際商事法務 Vol. 42 No. 12 (2012)

P.1876 以下参照。拙著「日本企業に対する最近の厳しい罰金等と連邦量刑ガイドライン」

NBL No. 1057 (2015.9.1) P. 39 以降参照。

56)拙著「司法取引は日本で機能するか」NBL No. 1096 (2017.4,.15) p. 4 以降参照。

57) 拙著「米国連邦政府の企業犯罪対応と司法取引・訴訟代替手段利用に際しての留意点」

国際商事法務 Vol. 43 No. 9 (2015) P. 1299 以降参照。

58) US Department of Justice, Criminal Division Fraud Section “Evaluation of Corporate Compliance Programs” https://www.justice.gov/criminal-fraud/page/file/937501/download 参照。

支払った事例で責任者の元専務個人に対しての 50 万円の罰金等)のは国際的 には非常識な金額で、当局に犯罪処罰の意図があるかとの批判が生ずる(後者 の 50 万円罰金事例では OECD が公表文書で我が国を名指しで批判している)。

もっとも年間で、兆円単位の罰金がいくつも課されている米国の事例は、日本 の常識からすればこれも異常に見えるが税収難と捜査当局に対する予算不足に あえぐ欧州諸国や中南米諸国では、米国並みの罰金額を自国ないしは自国で犯 罪行為を行った外国企業に課す事例が増えてきており、また法人の保護観察処 分という側面を持つ DPA は、英国をはじめとする欧州諸国やカナダ等に普及 し始めていることは、別稿59)で説明している。

7.まとめ

 以上、解説したように FCPA の会計条項、特にそのうちの内部統制規定は、

COSO の内部統制の統合的フレームワークを生み出すきっかけとなり、また内 部統制監査結果の株主への公開制度も、それぞれその様式は異なる事例が多い ものの、世界各地の株式市場に一定の影響力を及ぼしてきた。会社法やその他 の経済法規、更には刑法の企業処罰と更生手段としても内部統制システム整備 の手法は、DPA で被告企業に対して適用されるばかりでなく、その他の司法 取引や NPA 中で被疑者企業に求められるコンプライアンス・プログラムへの 組み込みの結果、世界の主要国の中では既に一般的にみられる条項となりつつ ある。

 筆者は別稿60)で FCPA の贈賄条項がどのように OECD や国連等の国際機 関経由、世界中に広まって新しい国際法形成が、単なる多国間条約締結による       

59) 拙著「FCPA の国際伝播と企業捜査・処罰の国際共同化」国際取引学会第 4 号 P.117 以 降参照。

60)前記註 59 参照。

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