第 5 章 切欠底の疲労強度の確率的変 動に着目した高強度鋼切欠材の疲労強
5.4. 考察
5.4.2. 仮想疲労試験結果
a. 少数試験片の場合
図5-4(d)に示したシリーズDの疲労試験結果をここでさらに詳しく調べてみると,前節で
述べたシリーズEの場合とは異なり,α=1.7の切欠材の疲労強度が最も高く,続いて疲労強 度はα=3.0の切欠材,α=2.0の切欠材,平滑材の順となっており,α=1.7とα=3.0の切欠材の 間で疲労強度の逆転が認められる.これは,機械加工の段階において,試験片に正確な切 欠形状が付与されていないことが考えられる.いずれにしろ,応力集中係数と疲労強度と の間に一見関連性がないように見受けられるこのような現象が,本来起こりうるものかど うか検討するため,少数試験片による仮想疲労試験によってその再現を試みた.その際,
実際の疲労試験で使用した本数と同一の本数の仮想疲労試験片をコンピュータ内に作成し,
同じく実際の疲労試験におけると同一の応力振幅のもとで仮想疲労試験を複数回(50 回)行 った.その結果,図5-5(c)と同様疲労強度が高い順にα=1.7 の切欠材,α=3.0,α=2.0,平滑 材となる現象は,50回のうち3回つまりおよそ6 %の確率で起こりうることが明らかとな った.図5-8の実線はその一例であり,同図にはシリーズDの実際の疲労試験結果(図5-5(c)) もソリッドマークで示されている.また,その際の仮想疲労試験片における起点介在物寸 法を調べた結果が図5-9に白抜きプロットの点として示されており,また同図には,シリー ズD の実際の疲労破面上で測定された現実の起点介在物寸法も併せてプロット(ソリッド マーク)されている.実験結果とシミュレーション結果とは良い対応を示しており,ここ では,応力集中係数が増大するにつれ起点介在物寸法が単調に小さくなるという結果には なっておらず,α=1.7の切欠材の起点介在物寸法が最も小さいために,上述の疲労強度の逆 転現象が起こった要因であると考えられる.
99
Fig. 5-8 Comparison of the predicted S-N curves (virtual fatigue test) with the experimental results
Fig. 5-9 Comparison of the predicted inclusion sizes with the experimentally observed inclusion sizes responsible for fatigue fracture
700 800 900 1000 1100 1200
107 106
105 104
103
Number of Cycles to Failure, Nf Local stress amplitude , σa 1300
1400
α=1.0 (surface) α=1.7 (surface) α=2.0 (surface) α=3.0 (surface)
no failure α=1.0 (surface) α=1.7 (surface) α=2.0 (surface) α=3.0 (surface)
no failure α=1.0 (surface) α=1.7 (surface) α=2.0 (surface) α=3.0 (surface)
no failure
α=3.0 α=2.0 α=1.0 α=1.7
-1.5 -1 -0.5 0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5
0 5 10 15 20 25 30 35
-ln(-lnF)
Inclusion size area ,
µ
mα=1.0 α=1.7 α=2.0 α=3.0 Simulation
α=1.0 α=1.7 α=2.0 α=3.0 Experiment
100
b. 多数試験片の場合
前節で述べたように,図5-5(c)でみられた疲労強度の逆転現象は,切欠底の疲労強度を支 配する危険層内の最大級介在物寸法の変動によってもたらされた結果であると考えられる.
図5-10は,ある材料について多数試験片を用いた疲労試験より得られるP-S-N線図を模式 図的に表したものであるが,かかる線図における破壊確率PF =0.5の疲労寿命曲線から定ま る疲労限度をその材料の疲労強度とするならば,上述のような疲労強度の逆転現象はもは や起こらないはずである.
そこで本節では,このことを確かめるべく,多数試験片を用いた仮想疲労試験を行った.
その際,同一応力振幅で各99本の仮想疲労試験片を用い,さらに応力振幅を5MPaずつ変 化させて仮想疲労試験を行った.この仮想疲労試験から得られた破壊確率PF =0.5の疲労寿 命曲線をシリーズDについて図5-11(a)に,またシリーズEについて同図(b)にそれぞれ実線 で示す.同図には,少数試験片による仮想疲労試験で現れた疲労強度の逆転現象は認めら れず,両シリーズとも応力集中係数の増大に伴い疲労強度が単調に増加していることが観 察され,このことより,先に示した疲労強度の逆転は,少数試験片を用いたことによって 起こった疲労強度の確率的変動によってもたらされた現象であると考えられる.
Fig. 5-10 Schematic illustration for P-S-N curves
st ress am pl itude , σ
aNumber of Cycles to Failure, N
fP
f=0.9 P
f=0.5 P
f=0.1
S tress am pl it ud e σ
a, MP a
Number of Cycles to Failure, N
f101
(a) series D
(b) series E
Fig. 5-11 The predicted S-N curves (PF =0.5) 700
800 900 1000 1100 1200
107 106
105 104
103
Number of Cycles to Failure, Nf Local stress amplitude , σ a 1300
1400
α=1.0 (surface) α=1.7 (surface) α=2.0 (surface) α=3.0 (surface)
no failure
α=1.0 α=1.7 α=2.0 α=3.0
α=1.0 (surface) α=1.7 (surface) α=2.0 (surface) α=3.0 (surface)
no failure α=1.0 (surface) α=1.7 (surface) α=2.0 (surface) α=3.0 (surface)
no failure
700 800 900 1000 1100 1200
107 106
105 104
103
Number of Cycles to Failure, Nf Local stress amplitude , σ a 1300
1400
α=1.0 α=1.7 α=2.0 α=3.0
α=1.0 (surface) α=1.7 (surface) α=2.0 (surface) α=3.0 (surface)
no failure α=1.0 (surface) α=1.7 (surface) α=2.0 (surface) α=3.0 (surface)
no failure