L:…それもまた…森があって,烏の声があって…海の音がある,そのような僕が馴染んでいる少年 の頃自体が休み所になるから,それ自体があるところは最上になると思うよ。それだけは確信する。
子どもの頃に帰れるんだったら,それくらい大きい休息や逃避所が存在可能なら,一番安楽だし,
またそれは母性への回帰のようにそんなお母さんのお腹のようなものじゃないかな。
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子どもの時の良かったことの共通分母を言えば古今東西すべてにおいて,最も平和らしい情景と言 えば,…自然なこと,農村らしいこと,野原らしいこと…海岸の水平線の様子,穏やかな波,…
こんなものがほとんど支配するのではないかな。人類文明が追求してきた最高の生活の志向点じゃ
ないの。…文明の帰着は事実上健康と平和,…。● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●
・・・本当の安楽に対する正体は何か,平和の正体は何かを見たとき・・・自然的なものに素材を求めて 話すなら,きれいな烏の声…青い空,こんなものになるんじゃないかな…これが文化の最も大き
い 真 理 … 子 ど も 時 代 の 物 語 に な る わ け …評
価
と
語 り か ら 見 る 原 風 景
この辺で録音は終わった。予想以上に話が大きくなった。青い空と一人類の文明と−安楽・平和・解放 と一子どもの時節などを一つのつながりの中で語っていた。語りの内容は丸ごと変わった。もう自分 の体験の話はない。価値観・思想を語っているようだった。語るというより,講義・演説をしている ような,力が入った声で,迫力を感じた時間だったα人間一般・人類の話をしていた。でも自分の子 どもの時代は背景につながっているようだ。烈弁を吐いた。筆者の質問は出なかった。
語
り
誰にも,また今の子どもにも必要であると主張した。そ のような体験や状況を「人類が向かうべき方向としての 平和や健康,安楽」などにつなげながら語った。
以上のように3種類の語りごとに「野原一魂の対話」
「洞窟探検一英雄」「自然との生活一望ましい人間」とい う一貫テーマがつながって語られた。例えば語り手が直 接体験した「タットン海」「私の丘」など固有名詞で表
Oの感想
注.Oは筆者,Lは語り手。短い点線(…)はユニット内での部分省略。長い点線(…・……)は,ユニット
全体を1つ以上省略。
用語が使われている。自然と共に良い体験ができたのは,
単に自然環境の中にいたからではなく,自分自身がその
ような生活を執勧に追求した結果であると語り,自分をポジティブに位置づけている。また評価としての語りの
後半での話題は,語り手自身にかかわる内容から人間一
般にかかわる内容に移っている。語り手は自分の体験や
子ども時代に体験した状況(自然と共にする生活)が,
140 発 達 心 理 学 研 究 第 1 1 巻 第 2 号
[語りの種類(内容)Ⅱ一貫しているテーマl{評価の方向1
風景としての語りメ ラ ミ こ し 、 v ノ 1 m
出来事としての語りこ し L v ノ ロ l 】
評価としての語り
野 原
| 魂の対話 魂の対話
ポジティブな自己評価 自然と共にいる生活 人魚の志向点:平和・安楽
糾胸、11伽
難 し い洞窟探検 英 雄 自然との生活
英 雄
自然との生活
| 望ましい人間
U − 0 J b , 、 ー
人魚の志
Figure2語りの3つの種類と内容におけるテーマ
現される場所・空間をメタ概念として「野原」と表現し,
これらの所での遊びや思索などに対して「石と話をした」
「草と話をした」「海と話をした」と述べ,これらを総合 的に「魂の対話をした」と述べている。これらは,「私 は魂の対話をよくした人間である,私は英雄になった人 間である,私は望まい、人間になっている」と述べる中 で,自分をポジティブに方向づけるアイデンティティの 現れとして考えられる。その際,私を位置づける基盤・
根拠として「私は野原で過ごした人間である,私は洞窟 の中に入った人間である,私は自然と接触をよくした人 間である」という,場所性・空間性・自然性があげられ,
結びつけられている。
語 り タ イ プ
逐語録を用いて何を語っているかの内容を中心に分析 した結果,風景としての語り,出来事としての語り,評 価としての語りという3つの種類が得られた。これらの 内容を述べていく時,一定の叙述様式があることを見い だした。叙述様式は語りの内容(風景・出来事・評価)
を構成していく際,時間・空間の操作,表現の仕方や意 味づけの方向が表れる話法であり,語り手における心の リアリティ・体験モードが反映されている語り場面の全 体的雰囲気として考えられる。この叙述様式は逐語録に 見られる語り手の言葉の操作と聞き手の観察から得られ た声のトーン・スピード・顔の表情・体の動きなどに表 れる。まず,逐語録を中心にどのように語られているの かをユニット毎に検討した結果,いくつかの典型的な叙
述様式があることを見いだし,それらの様式の違いを語
りタイプと名付けた。各々の特徴を整理して,風景回想 タイプ,行為叙述タイプ,説明演説タイプ,事実説明タ イプ,評価意味づけタイプの5つの語りタイプとした。Table7に各語りタイプの特徴と実例を示す。全49個の ユニットの中,風景回想タイプは9ユニット,行為叙述
タイプは4ユニット,説明演説タイプは9ユニット,事 実説明タイプは10ユニット,評価意味づけタイプは17 ユニットに分類された。
信 頼 度 チ ェ ッ ク 最 小 ス ケ ー ル の 単 位 で あ る ユ ニ ッ ト 分けと,各ユニットを叙述様式としていずれかの語りタ イプに分類した筆者の作業に対し,語り手自身であるL 本人(自分の語り内容が間違って解釈されてないか見た いと言ったので)と済州道出身ではない韓国人Sが再度 チェックを行った。作業は筆者とL,筆者とSの2人ず つの作業でそれぞれ2回ずつ行った。まず筆者が逐語録 を用いて行った,作業の基準(Table7の語りタイプの 特徴と実例を基準説明に用いた)を説明し,LとSそれ ぞれに独自にチェックするように依頼した。筆者と相手 のチェックが異なっている部分について,2人の納得が いくまで分類について話し合った。1週間後,話し合い の結果をもとに筆者が修正整理した新しい基準でもう1 度分類作業を依頼した。作業の順番は①筆者とL②筆 者とS⑧筆者とL④筆者とSである。作業における2人 の話し合いの結果は次の作業に反映された。
ユ ニ ッ ト 分 け で は , 最 初 筆 者 の 作 業 で 分 け た 4 6 ユ ニットの中6ユニットに対して分類・統合・境界部分の 修正などを行い,最終的に49ユニットにした。各ユ ニットの語りタイプ分類の一致率は,上記の作業順に
①51%(49個のうち25個)②65%(49個のうち32個)
(3)100%(49個)⑳96%(49個のうち47個)であった。
語り内容と語りタイプとの関連(構造化の試み)
叙述内容としての3つの語り種類と叙述様式として の5つの語りタイプとの関係を検討した。その結果,
Figure3に示したように特定のタイプが特定の語りに用
いられている。つまり,風景として語る時は風景を眺め ているように(風景回想タイプ),出来事として語る時 は,行為をしているように(行為叙述タイプ),評価と して語るときは自分の評価に基づいて主張をしているよ うに(説明演説タイプ)語るという関係が明らかになっ た。また出来事としての語りに行為叙述タイプ以外に事 実説明タイプが数多く含まれており(10ユニット),出 来事を説明する時は事実として伝えるための説明がより 必要であると考えられる。評価意味づけタイプはどの語りにも用いられていることから,どのような内容を想起 し語った場合も,常に評価や意味づけを行っていること が明らかになった。各語りにどのタイプがどれくらい用 いられているかはFigure3に示す。
考 察
本研究では筆者の生まれ故郷である韓国済州道の知人 を調査対象にし,日常生活の文脈を重視した,語り合い の調査方法を用いた。分析においては,「どんな所で」
語 り か ら 見 る 原 風 景 141
Table7I誇りタイプの特徴と実例 タ イ プ
風 景 回 想 タ イ プ
行 為 叙 述 タ イ プ
説 明 演 説 タ イ プ
事 実 説 明 タ イ プ
評 価 意 味 づ け タ イ プ
特 徴
現実の場所やそこで行った行為に対する説明が目 的でありながら,語り手が自分で見て感じたこと を回想し,再び鑑賞しているように語る。鳥の目 になって遠景を眺めたり,複数の空間・場所をあ げながら語る。文の最後は過去形になるが,途中 は「なる,ある,する」のような表現が多い。
事 実 と し て 行 っ た こ と の 説 明 で あ る が , 語 っ て い る 今 こ こ で , ま さ に 行 為 を し て い る か の よ う に 現 在 形 や 直 接 話 法 を 用 い て 特 定 の 場 所 で の 出 来 事 ・ 行 為 に つ い て 順 番 ど お
り詳細に述べる。
現 在 の 自 分 の 考 え 方 を 説 明 し て い る が , 外 的客観的基準はなく,自分自身の価値観,
考 え 方 を 披 耀 し て い る 。 人 間 一 般 を 対 象 に して,「…すべき」「…なるべき」「…である」
な ど の 表 現 を し て 断 言 し た り , 演 説 ・ 講 義 調の主張が多い。
過 去 の 社 会 的 状 況 や , 物 理 的 空 間 ・ 場 所 , 出来事などについて事実としての情報を伝 え る た め に 説 明 を す る 。 語 り 手 の 感 情 や 評 価が入っていない。「〜だった」のような 単純過去形をよく使う。
自分が直接体験した風景や行為の説明をしな がら,自分なりの評価・感想・意味づけをし たり,メタ概念を用いて整理している。過去 の体験を現在の概念・価値観で説明する。
「考える,思う,感じる」など現在形の評 価が多い。
風景回想タイプ(9)
風景としての語り(14)
評価意味づけタイプ(5)
行為叙述タイプ、(4)
出来事としての語り(20) 事実説明タイプ(10)
評価意味づけタイプ(6)
説明演説タイプ(9)
評価としての語り(15)
評価意味づけタイプ(6)
注 . ( ) 内 の 数 字 は ユ ニ ッ ト の 数 を 表 す 。 Figure3原風景の構造化の試み(語りの種類と語り
タイプの関係ノ
実 例
( 海 の 風 景 ) 一 番 よ く 思 い 出 す の は 海 辺 の 風 景 , 歩 い て 5 分 ぐ ら い か か る ん だ 。 海 の 音 , 海 の 匂 い , 霧 深 い 海 … , し か し ね , 単 な る 海 の 風 景 で は な く 野 原 の 風 景 と し て 言 え る ね 。 朝 起 き た ら 深 い 霧 の 中 か ら 霧 を 知 ら せ る 牛 の 鳴 声 , ブ ウ ー ブ ウ ー と 霧 警 報 の 音 を 聞 い た の 。 そ の 音 を 聞 き な が ら あ る う ら 寂 し い 気 が し た の 。 少 年 で あ る 私 が ね 。 ( 風 景 と し て )
( 洞 窟 探 検 ) 「 お ま え , こ こ 入 っ た こ と あ る の , ま だ 入 っ て な い だ ろ う , 僕 は こ の 前 入 っ た よ 」 と 言 っ た り 「 入 っ て み て , 入 っ て み て 」 と か , 「 お 前 が 先 に 入 っ て よ 」 と い う 状 況 に な る ね 。 そ ん な 時 は 僕 が 「 よ し , 俺 が 最 初 に 入 ろ う 」 と い っ て 入 っ て き た の 。 そ れ で 僕 は 英 雄 に な る の 。 ( 出 来 事 と し て )
… 人 類 文 明 が 求 め て き た 最 高 の 志 向 点 じ や な い か な 。 生 活 の 質 を 高 め る と か , 高 め な け れ ば な ら な い と い う の は , 我 々 が 健 康 と 平 和を求める文明の帰着は事実,健康と平和を求める事によって,
それをひとことで言えば福祉なの。(評価として)
(洞窟探検)小学校5年生の時から行った。1年365日というまで で は な い け ど よ く 行 っ た な 。 流 行 の よ う に 。 ど こ ど こ に 洞 窟 が い く つ あ る と 噂 が あ る と そ の 全 て の 洞 窟 に 行 っ て 来 た の 。 地 理 学 的 に い く つ あ る と か ま で は 知 ら な い け ど , 我 々 少 年 た ち が 見 つ け た 所は全部行った。(出来事として)
( と て も 強 烈 な 夕 日 の 風 景 と ご 飯 の 時 間 を 知 ら せ る 家 族 の 声 が 聞 こ え る 状 況 ) そ の 様 子 を 見 な が ら 僕 は 胸 が い つ ぱ い に な る の を 感 じ る の 。 そ れ は 僕 が 考 え て い る 平 和 の 象 徴 な の 。 暮 れ る 日 だ け で は な く , そ こ で 開 か れ る 全 体 的 情 緒 的 風 景 が ね 。 ( 風 景 と し て )
「何をし」「何を感じ」「いまどう思えるのか」の実際上 のつながりを輪切りにせず,「風景・空間一体験・出来 事 一 評 価 ・ 意 味 づ け 」 が セ ッ ト に な る 分 析 単 位 を 取 り 上げた。その分析の結果,1)叙述内容として3つの語り (風景・出来事・評価としての語り)があること,2)3 つの語りの内容を貫いているテーマや方向があること,
3)叙述様式として5つの語りのタイプ(風景回想・行為 叙述・説明演説・事実説明・評価意味づけタイプ)があ る こ と , 4 ) 語 り の 種 類 と 語 り の タ イ プ と の 間 に は 一 定 の関係があることを見いだし,これらの特徴から原風景 の構造が分析された。以上の結果に基づいて以下の3点 について考察する。第1に,分析の結果生成された今後 の 原 風 景 研 究 に 意 義 を 持 つ と 考 え ら れ る 概 念 ・ 仮 説 を 整 理 し 考 察 す る 。 第 2 に , 語 り の 中 で 重 要 な 概 念 と し て 語 られた「野原」の意味について考察する。第3に,今後 の課題と生涯発達心理学における原風景研究の位置づけ について考察する。
本研究の結果から生成された仮説及び概念について 仮 説 1 ) 原 風 景 は 多 様 な 素 材 や 主 題 で 構 成 さ れ る ス ト ー リ ー . 物 語 り と し て 日 常 生 活 の 中 に 現 れ る 。 日 常 生 活 に お け る 原 風 景 は , 記 憶 の 中 に 固 定 さ れ た 一 枚 の 写