第 3 章 起業行為における戦略とその選択 第1節 総括
第 3 節 今後の課題
これまで起業行為において特定の戦略を決める際に,選択的判断をする主 308 桃山学院大学経済経営論集 第61巻第4号
体と合理的な判断仮定の双方において,それらが非常に不安定であることを 指摘してきた。加えて,戦略は仮説に過ぎず,その確からしさは主観的な信 念によって左右されるレベルかもしれないことを示唆した。それは,起業と いう行為が,非常に困難な行為であり,慎重に考え,数多くの情報に基づい て,最良のメンバーで検討し,判断を下したとしても,最良の選択肢を選ぶ ことはできない可能性があること,そして,最良の選択肢が選ばれたとして も,それは容易に劣化する可能性があるということ,さらに,いずれかが最 良の戦略であるとか,最良の戦略が存在するという期待は,無為に終わるか もしれないという指摘である。
仮にそうだとすれば,起業とは,選択的判断をする者にとって操作不可能 な偶然性が大きく支配する行為であり,起業家にとっては,経営戦略は参照 すべき情報に値しないことになるのであろうか。
そうではない。私はそのような方向性に向かってしまったのは,起業の典 型イメージが歪曲されて創られてしまったからではないかと考える。
起業は多様に語られている。しかし,起業セミナーで語られる起業のイ メージや,ネット情報での起業のイメージ,あるいは市販の書籍で喧伝され ている起業の方法においては,「1年以内で年商1億円」だとか「1億円企業 の作り方」といった宣伝文句が目立つ。また,起業の経営手法が,セミナー 事業として成立しており,それは若手経営者によって宣伝されていることも 多い。世間で出回っている起業のイメージは,これが典型とされているので はないだろうか。
実際には,副業として営まれている起業やスモールビジネスとして維持さ れている起業,あるいはイベント的に不定期に営まれ,月収のように定期的 な収入とはいえないが,年収となっているような事業など,個人事業とし て,地道にささやかに営まれている方が圧倒的に多い。そして,起業の典型 的イメージとしては,先のようなビッグビジネスではなく,こうしたスモー ルビジネス方が相応しいように思われる。
かりに起業をこのようなスモールビジネスだとすれば,最良の選択肢が選
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ばれない可能性や選択肢を変更する時期,あるいは最適な参加時期は問題に ならないかもしれない。このスモールビジネスは,自分のやりたい特性を生 かしたり,あるいはソーシャルビジネスとして成立しているようなものも多 い。そういう起業家にとって成功とは,年商や利益率や従業員数といった第 三者が計測しやすい指標が最も重要な要素ではなく,顧客とのコミュニケー ションや社会への貢献,自分のささやかなスキルへの自負など,数字では表 しにくい要素も重要な要素として足し合わされた,満足感かもしれない。
起業における戦略の選択的判断の成否の鍵は,外部評価ではなく,スモー ルビジネスを自己満足で営む起業家達の当事者評価であり,そこから小さく とも数多きを以て創られる創造的破壊の行為が成されているように思われ る。これを確認する作業を今後の課題として本論を結ぶ。
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