6. 結論
6.2 今後の課題
本研究は、高性能・省電力コンピューティングに関して、システムソフトウェアによる メモリ階層制御方式を中心課題として、1) メモリ階層の高効率利用を可能にするプログラ ミング、2) 水平方向のメモリ階層制御、3) 垂直方向のメモリ階層制御、4) 周辺デバイス を考慮したメモリ階層制御の図 6.1 に示す 4 つの技術領域について研究をおこなったもの である。
本研究で提案した 4 つのシステムソフトウェアは、上記 4 つ技術領域で解決すべき主要 な課題について取り組んだものであり、これらの方式を統合して高性能・省電力コンピュ ーティングシステムの実現を目指していく。
1) メモリ階層の高効率利用を可能にするプログラミング方式は、複雑なメモリ階層制御 をユーザから隠蔽して生産性を高めるためには必須である。特に今後ストレージクラスメ モリが実用化されると、メモリ階層はこれまで以上に複雑になるため、このようなプログ ラミング方式の重要度は増す。
この技術領域に対しては、高位プログラム変換により対象メモリアーキテクチャに適応 した並列プログラムが生成可能な配列処理言語によるプログラミングシステム(図のメモ リ階層に適応したプログラム自動生成方式に対応)を提案した。様々なプログラミング方 式が存在するなかで、生産性を究極的に高めるためには、問題を解くアルゴリズム記述と
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メモリ階層制御の最適化のための記述を分離できるようにして、アプリケーション開発者 にはアルゴリズムだけを記述してもらうようにすることが必要である。その際に、本配列 処理言語のように、処理系が高位プログラム変換をおこなうために必要な情報をアルゴリ ズム記述に暗黙的に書かせることで最適化を実現することが重要である。
図 6.1. システムソフトウェアによるメモリ階層制御
つぎに、一般にメモリ階層は水平方向と垂直方向の 2 つを考える必要があるため、2) 水 平方向のメモリ階層制御、および、3) 垂直方向のメモリ階層制御の技術領域は必須である。
前者の 2) 水平方向のメモリ階層制御方式については、階層的な分散メモリを持つ計算機 クラスタ向けの一貫性管理方式であるマルチホームプロトコルを組み込んだ高性能ソフト ウェア分散共有メモリシステム(図のクラスタ間階層制御方式に対応)を提案した。昨今、
ストレージクラスメモリなどのメモリとストレージの両側面を持ち合わせた新型の高速不 揮発メモリやシリコンフォトニクスなどの高速ネットワークの実用化が近づくなかでメモ リセントリックコンピューティング[128,130]が徐々に注目されつつあり、本研究はこれを
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見据えた際に重要になる。メモリセントリックコンピューティングは、まだ研究の初期段 階でありそのアーキテクチャの決定版は明らかになっていないが、ラック内のコンピュー タアーキテクチャやクラスタ内階層制御方式は大きく変化する。しかし、大規模インメモ リデータ処理を実現するためには、複数ラックをさらに接続しメモリやプロセッサを増や す必要があり、ラック間の階層化された分散メモリ上のデータの一貫性管理とラック内の ローカリティ活用は最後まで残る本質的な課題であり、本研究はその本質課題に対する解 決法や方向性を示したものである。
後者の 3) 垂直方向のメモリ階層制御方式については、ストレージクラスメモリを活用し た階層型主記憶を実現する高性能・省電力仮想記憶システム(図の SCM/DRAM 混載メモリ制 御方式に対応)を提案した。今後のコンピュータシステムでは、種々のストレージクラス メモリの中からどれを選択し、どのように組み合わせて階層制御するかがポイントになる。
本研究は、ストレージメモリ活用の大規模データのインメモリデータ処理の要求が高まっ ている背景をもとに、それを実現するうえで基本となる方式である SCM/DRAM 混載メモリ制 御方式に焦点を当てたものである。
最後に、4) 周辺デバイスを考慮したメモリ階層制御は、ストレージクラスメモリのメモ リアクセスの動的消費電力が高いため今後非常に重要になる。この技術領域に対しては、
ストレージクラスメモリ搭載端末の不揮発ディスプレイ書換処理省電力スケジューラ(図 のストレージクラスメモリ省電力制御方式に対応)を提案した。
提案した制御方式の本質は、動的消費電力が高いストレージクラスメモリへのアクセス 時間を低減しストレージクラスメモリの省電力性を引き出すことで低消費電力化すること である。本方式は、周辺デバイスの影響を考慮したストレージクラスメモリ階層制御の基 本方式であり、今後は他のデバイスへ適用していくことが重要である。
本論文で提案した 4 つのシステムソフトウェアを有機的につなげていくことが今後の重 要な課題である。
まず、1) メモリ階層に適応したプログラム自動生成方式にとって、2) クラスタ間階層 制御方式と 3) SCM/DRAM 混載メモリ制御方式は、より複雑なメモリ階層を持つアーキテク チャへのターゲット拡大を容易に実現可能にするものである。具体的には、配列処理言語 の処理系で 2) のソフトウェア分散共有メモリ向けのプログラムを生成すればアルゴリズ ム記述からマルチクラスタ環境を利用可能になり、処理系で 3) を用いたシステムに対して プログラムを生成すればアルゴリズム記述からストレージクラスメモリを活用した大規模 主記憶が利用可能になる。このように、2)や 3)と組み合わせることで、処理系の開発コス ト削減とターゲットの拡大を同時達成できる。
また、1) メモリ階層に適応したプログラム自動生成方式については、処理系が最適化を おこなうために必要な情報をアルゴリズム記述に暗黙的に書かせることを先に述べたが、
この情報をそれぞれのターゲットで必要となる最適化のためのヒント情報として利用でき る可能性がある。2) に対しては、例えば、クラスタ間で共有されるページが分かればその
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ようなページについてはマルチホーム方式を適用することが有効である可能性がある。3) に対しては、ストレージクラスメモリへ積極的に追い出すページの特定やストレージクラ スメモリからプリフェッチするページの特定に利用できる可能性がある。
2) クラスタ間階層制御方式と 3) SCM/DRAM 混載メモリ制御方式は、OS の仮想記憶方式を 応用したものである。2) は仮想記憶を水平方向のメモリ階層制御に応用しており、3)は垂 直方向のメモリ階層制御に利用している。SCM/DRAM 混載メモリ制御方式については 4 章の 評価結果からは、μsオーダのストレージクラスメモリがコンピュータシステム内で利用 可能になった時にこれまで隠れていたオーバヘッドが顕在化する課題があることも明らか になっており、ラックスケールでコンピュータアーキテクチャが大きく変化する際に、ス トレージクラスメモリの性能を引き出すように仮想記憶を再設計することが今後の最重要 課題である。
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謝辞
本研究を行うにあたり、多くの方々のご協力とご指導を頂きましたことを感謝致します。
弓場敏嗣先生(電気通信大学名誉教授)ならびに東京工業大学吉瀬謙二准教授には、計 算機研究を基本からご指導頂きましたことを心から深謝致します。電気通信大学並列処理 学講座在籍時の諸先輩ならびに同窓の皆様に、心から感謝申し上げます。
電気通信大学三輪忍准教授、吉永努教授、大須賀昭彦教授、南泰浩教授には、本論文を 纏めるにあたって有益な助言とご指導を賜りましたことを心から感謝申し上げます。
株式会社東芝の木村哲郎氏、吉村礎氏、瀬川淳一氏、白井智氏、樽家昌也氏、松井佑貴 夫氏をはじめとする、株式会社東芝の研究開発センターの多くの方々にご協力を頂きまし た。心から感謝致します。
指導教官の本多弘樹先生に、電気通信大学並列処理学講座在籍時にご指導賜りましたこ とが、筆者の今日の研究者としての基礎になっております。心から感謝致します。また、
思い出深い「学生生活」を与えて頂いたことに、心から感謝致します。
株式会社東芝の金井達徳氏には、株式会社東芝で行った全ての研究で多大なご指導を賜 り、社会人大学院生としての研究の機会を与えて頂いたことが学位取得につながったもの と思っております。ここに、深く感謝致します。
最後に、すべての面で支えてくれた妻の輝子、ひかり、両親、家族に心から「感謝」致 します。