が予測される。
した空間で表示装置が明確に認識されず、映像が完全に環境に溶け込んでいるときに高い評 価を得た。逆にスクリーンやモニターが認識されると受け手にも違和感が生じ感動は減衰す る。的確に空間と融合する映像コンテンツによって、今までの空間に対す印象に加えてさら なる感動を与えられたと考えている。一方そのような主観的な評価をもっと客観的に捉える ことも今後必要と考える。その観点から現在広視野スクリーンで空間認識と感性情報に関す る基礎実験も文献[4]で示すように平行して行っている。感性実験から導かれる結果を反映さ せることにより、今まで経験的に制作していた映像を客観的な見地から画像レイアウトやア ニメーションとして構成してゆくことが出来ると考えている。
6.2 空間脳としての分散センシング技術
ここ数年IRT による空間知能化が文献[5][6]のように注目が増大している。センサーを分散 させて全体として空間を知覚し、生活者の支援や介護に利用する試みも着手されている。本 稿で試みてきた都市空間融合型の映像コンテンツ制作でも、分散センシングはたいへん有効 な手法になってゆくと考える。3.1、3.2で述べた映像のアジャストメントやブレンディングを、
分散した小センサが認識し、空間の構造から判断して適応するインテリジェントな仕組みを 実現してゆくことが次の段階に向けての課題である。また分散センシングが実現すれば、環 境条件に左右されず個々の空間に特化したインテリジェントな映像コンテンツ作りが容易に なると期待される。すなわち空間の情報を認識することが新しい空間映像コンテンツを創出 する演出に結びついてゆくのである。例えば物体表面の材質を判別することで、それが鏡の ように投影不可能な対象かどうか、などを判断する。そして空間の知識を蓄積する。空間構 造への判断や映像の演出における人の介在は早急には無くならないと考えるが、知能を備え た分散センサーが空間と融合した映像制作に大きく貢献することは確実である。
6.3 次世代映像ディスプレイ
プロジェクタはいずれLEDや有機ELに取って代わられるという業界人の声も聞こえてく る。これはある面で正しい予測である。壁や床にLEDを貼ればユビキタスという要求を容易 に満たし、アジャストメントやブレンディングなど無用になるのではないか、との指摘もあ る。プロジェクタによる投影は遠からず旧手法になってしまうのだろうか。技術オリエンテ ッドの見地からはそういう見方も出来るだろう。だが、本提案が有効であることを次の二点 によって主張したい。第一に、たとえ表示デバイスがどのように変化しても、空間と融合す る映像演出の本質には変わりがないという点である。違和感の無い構造物とのマッチング、
環境として生活者に心地好さを与えるインタラクションの方法や映像のデザインについて熟 知することが重要なのである。それには人中心に立脚し、人とデバイス、人と空間との相互 作用の知見が必要である。従って本稿で述べた映像コンテンツの演出手法が時代遅れになる ことはないと考える。第二に、LEDや有機ELとはいっても物理的に新たな物体が空間に加わ ることになる点でのデメリットである。例え透明で薄い素材でも壁やテーブルに貼ることは、
本来の構造物の存在を多少なりとも損なうことを意味する。実存の建築や空間をそのままに
して、真に融合し共存するには光や気体のように形の無い触媒が最も理想的なのである。近 未来のユビキタス映像コンテンツは、分散型でインテリジェントなセンサーと限りなく小型 なプロジェクタあるいは物理空間を必要としない新しいタイプの次世代ディスプレイが支え ることを展望している。
7. まとめ
都市の多様な空間を、人にやさしく作用する感性豊かな環境に再構築することを目的に、
不規則で複雑な形状の構造物にも投影可能なインタラクティブ映像のコンテンツ制作とその システム構築について提案して来た。その手法は画像認識による人の動作入力とプロジェク タという極めて一般的なデバイスを用いるものである。それによって受け手は自然の状態で かつ日常生活の範囲で映像空間に接することになる。映像コンテンツは知的刺激や癒し、心 の開放、安逸、喜び、夢を与える新たな都市環境として提供するものである。心地良さを与 えるインタラクションにおいて大切な点が入力とリアクションの継続性ということも確認で きた。また今回、実際の設置現場の要求に応えて迅速にプロジェクションのアジャストメン トやブレンディング補正が行える使い易いインタフェースを開発している。空間と映像が融 合すること、それはシアターやテーマパークのような特定された場を空間に持ち込むことで はない。現在の建築デザインの否定でもない。既存の構造物や空間を損なうことなく、慣れ 親しんだ場所をさらに豊かで夢のある空間に演出してゆくものである。家庭内の個の小スペ ースから公共の巨大な環境まで人の介在し得るあらゆる都市空間への融合と新たな空間を創 出することを目指している。都市環境の再構築といってもよい。既存の構造物の何処にでも 投影を可能にするアジャストメントやブレンディング技術にとどまらず、固有の形状を活か し、必要とされるあらゆる空間に特化した映像演出を開発することが最終ゴールである。ま た都市に広く浸透してゆくために、プロジェクタをはじめとして安価で一般的な装置を用い、
生活者が多く体験する機会を提供することに努めている。次世代の展望にあたっても最先端 技術の開発をゴールとするのではなく、人と空間および人と装置との関係についての知見を 深め受け手の立場からの要求を満足することが最も重要と考えている。
参考文献
[1]谷川渥, 図説だまし絵,河出書房新社,1999
[2]木村、片岡、鶴田、柴田、田村、複合現実感技術を利用した投射型立体映像との3Dイン
タ ラ ク シ ョ ン の 提 示 ・ 記 録 シ ス テ ム 、 日 本 バ ー チ ャ ル リ ア リ テ ィ 学 会 論 文 誌 Vol.13,No.1,pp109-118,2008
[3]山本、複合現実感とウェアラブル情報メディア、