第3章 前田真知堂A丘陵の調査成果
第5節 人骨分析に関する所見
(1)資料について
本調査区からは、9基の墓遺構から出土した蔵骨器中および墓室埋土から人骨の出土が確認された。
全体的に残存状態は良くないものが多く、破片・微細片状態がどうにか残存する程度の状況が多い。
本節では出土した人骨について基礎的データを主体とした報告を記載する。
人骨の分析は、部位同定とそれに基づく個体識別および最小個体数の計数・性別および年齢推定・
病変等の異常形態の観察と記載・頭蓋及び四肢骨の計測作業を基本として行い、それぞれ一覧表に記 載した(第 4 表〜第 9 表)。個体識別と個体数の計数は蔵骨器単位で行い、識別した個体ごとに№を 付した。一次葬を除く墓室埋土や床面出土の人骨については、同定対象と記載には含めたものの、計 数・性別・年齢判定等の対象からは除外している。性別判定は、頭蓋および寛骨形態によることを基 本とした。しかし、判別に必要な残存状態を保っていない資料も多い事から、それらの資料について は性別不明とした。年齢については骨の発達形状から成人と未成人の区別は可能であったが、詳細な 年齢区分の推定は困難である資料が大半である。未成人骨の一部に下顎骨あるいは乳歯・形成中の永 久歯の遊離歯が残存しているものについては小児・乳幼児段階への分類を試みている。
(2)観察所見 1)33号墓
蔵骨器 1 点の中から人骨の出土が確認された。しかしながら、椎骨や手根骨・足根骨の一部など が同定された他は四肢骨が断片的に残存するのみであることから、形態的な詳細は不明である。ただ し、遊離歯の状態から成人が納められていたことが窺われる。
2)36号墓
蔵骨器 2 点の中から人骨の出土が確認された。蔵骨器 1 内に残存していた人骨は全て破片となっ ていること正確な部位同定が困難である。
蔵骨器 2 内からは成人 1 体・未成人 1 体分の人骨の出土が確認された。ただし、成人は頸椎及び 仙骨破片のみであることから個体の詳細な情報は不明である。未成人骨については下顎骨・尺骨・大 腿骨・脛骨が同定され、下顎骨の歯槽の状態からi1〜m2までがいずれも未萌出であると想定され ることから乳児段階であると判断される。
3)37号墓
本遺構では墓室内の埋土から人骨が出土している。一部の部位が断片的に残存するのみで、成人で あることが推定される以外の詳細は不明である。
4)48号墓
墓室埋土から一括して人骨が出土しており、骨の発達形状から成人骨と未成人骨が混在している 様子を窺うことができる。成人骨は大腿骨・脛骨の部位重複から 2 体分が含まれていると判断され、
骨の残存状態などから頭蓋骨・下顎骨などを含んで残存する一群とそれ以外の一群について個体識別 し、№ 1・№ 2 として一覧表に記載した。
未成人骨は成人骨と明瞭に区別することができ、下顎骨および上腕骨が同定される。下顎骨のM1
が未萌出ないし萌出直後の状態であるとみられることから、幼年段階の個体であったと推定される。
5)49号墓
蔵骨器 3 点の中からそれぞれ人骨の出土が認められた。
○蔵骨器 1
本蔵骨器からは鎖骨・上腕骨・腓骨・基節骨が確認され、未成人骨であると判断される。ただし、
いずれも断片的であることから詳細な観察は難しい。ただし、遊離歯(永久歯)の歯根形成状態から 概ね小児段階程度ではないかと想定される。また上下の犬歯の歯冠にはエナメル質減形成が観察され る。
○蔵骨器 2
頭蓋骨破片・橈骨・尺骨・寛骨・大腿骨・脛骨・腓骨がそれぞれ同定され、左の大腿骨が重複する ことから 2 体分が含まれていることが窺われる。しかしながら、重複する大腿骨と他の部位がいず れの個体に属するものであるかは判断することができないため一覧表においては一括して表記した。
これらのうち大腿骨・脛骨・腓骨は比較的骨幹が細く筋粗面の発達もそれ程強くない。一方、橈骨・
尺骨は強い発達形状を呈する様子が観察される。また、寛骨は大坐骨切痕角から男性のものではない かと想定される。このことから、本蔵骨器には成人 2 体分が含まれ、内 1 体は男性であると思われる。
また、上肢と下肢の部位がそれぞれ異なる個体に属する可能性が考えられる。
○蔵骨器 3
同定された部位の重複から成人 2 体が納められていたことが確認できる。頭蓋骨・鎖骨・四肢骨・
寛骨で重複しており、それぞれに明瞭なサイズ差が認められることから、各部位の個体識別が可能で ある。これらのうちより大きなサイズを呈する一群を同一個体と判断し№ 1、それ以外を№ 2 とした。
№ 1 は№ 2 に比べ残存状態が良好で劣化が少ない。また、筋粗面や骨の発達形状も比較的発達して いる様子が窺われたことから、重複していない部位についても上記の観察所見から個体識別が可能で あると考え、分類している。ただし、いずれとも判断しかねる部位については一括して判断を保留し た。№ 1 については寛骨形状から男性であろうと推定した。一方№ 2 は残存状態が不良で、明確な 観察所見を得ることが困難であったことから性別・年齢等の判断は不明とした。なお、左の脛骨の栄 養孔位から骨幹にかけての外側表面に凹凸状の変異が認められる。
6)51号墓
51 号墓では墓室埋土中から頭蓋骨及び四肢骨の破片が複数体分確認された。これらのうち大腿骨 の部位重複から最小個体数が 3 と判断される。いずれも骨幹が残存するのみであることから年齢・
性別などの識別は不能である。
7)56号墓
蔵骨器 1 の中から本調査区ではもっとも残存状態の良好な人骨が出土しており、概ね 1 体分の全 身の部位が同定される。頭蓋は頭頂骨と後頭骨・上顎骨・下顎骨がそれぞれ一部残存している状態で あることから十分な観察は難しい。一方で、胸椎・腰椎・仙椎の椎体関節面が未癒合である点、大腿
歯の咬耗は全体的にそれ程進行していない点などから、この個体が若年〜成年段階初頭頃の年齢段階 に位置づけられると考えられる。加えて、寛骨の大坐骨切痕角がやや小さく感じられるものの、耳状 面直下に比較的明瞭な前耳状溝が認められる点、後頭稜の発達がそれ程強くない点から女性であろう と推定される。
なお、左右の脛骨のヒラメ筋線の発達に違いが見られ、左では窪んだ形状を呈している。
8)60号墓
蔵骨器1内に人骨の残存が確認されたものの、残存状態は悪く四肢骨の一部が断片的に同定できる のみであるが、骨のサイズから少なくとも 2 体分が含まれることが窺われる。このうち概ね成人に なると思われるサイズの一群を№ 1、未成人骨の一群を№ 2 として個体識別し、一覧表に記載した。
しかし、それ以上の詳細な形態観察は困難である。
9)66号墓
蔵骨器 1 内から人骨が出土しているが、残存状態は悪く前頭骨・大腿骨・脛骨の破片が認められ るのみである。ただし、大腿骨に重複が見られることから最小個体数は 2 と判断される。両者はサ
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第 4 表 前田真知堂A丘陵の出土人骨一覧表
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第 5 表 前田真知堂A丘陵の検出された人骨の個体数一覧(墓別)
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第 6 表 上顎骨及び下顎骨の歯列残存状況
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第 7 表 骨に見られる変異等の観察表
イズから成人と思われる一群と、未成人骨に識別できることからそれぞれを№ 1・№ 2 として一覧表 に記載した。
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第 8 表 齲歯一覧表
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第 9 表 下顎犬歯に観察されるエナメル質減形成一覧表
第6節 まとめ
前田真知堂A丘陵では、今回(平成 25 年度発掘調査)報告する近世墓 31 基以外に、平成 15 年 度に 25 基の範囲確認調査を、平成 24 年度に 10 基の発掘調査を実施しており、延べ 66 基の調査を 行っている。第 10 表は、該丘陵の各墓の調査状況を整理したものである。墓域の形成や墓の築造年代、
戦争遺跡としての墓地利用を考えるうえで丘陵全体の状況を整理する必要があるため、過年度分の状 況も併せて報告し、まとめとしたい。
1.遺構の特徴と墓域の形成について
平成 25 年度調査の 31 基を墓室類型でみると、1 類 14 基、3 類 3 基、4 類 2 基、5 類 2 基、6 類 2 基に分類されたほか、不明 7 基と壕 1 基が確認された。立地でみると 1 類が丘陵北側上段に 5 基、
下段に 7 基と北側に集中し、3・6 類は北側に、5 類は南側にのみ所在した。また、平成 15・24 年 度調査では、1 類 4 基、2 類 2 基、3 類 2 基、4 類 2 基、5 類 6 基、6 類 4 基、コンクリート墓 4 基、
不明 7 基、壕 4 基が確認され、これらの墓は全て丘陵の南側に所在していた。
該丘陵の墓の立地を概括すると、北側に 1・3 類が、南側に 4・5 類が立地する状況が窺える。北 側の 1 類は 12 基中 10 基が c・d 型であった。このタイプの墓室は面積が 1㎡以下で棺箱(=棺桶)
を安置するために造られた棚の無い墓である。棺箱の置き方によって、平面観が縦長か横長となり、
その際に頭位が重要視されたと考えられる。埋没墓として発見される際は、一次葬人骨が検出される ほか改葬後の蔵骨器が 1 点だけ安置されることが多く、仮墓や脇墓等と称される個人墓と考えられ ている。