1961年以前
II. 人口構造
少子高齢化を考える場合、ある年代の出生数が、ベビーブーマー、団塊世代といった特徴的な人口集 団となり、後の高齢者の多寡に影響するため、年齢別人口を十分に把握する必要がある。日本、韓国の 2015 年、中国の2010年の人口ピラミッドを比べると(図 3)、日中韓のいずれも、もはや「ピラミッ ド」ではなく、釣り鐘の形になっているが、三か国の人口数の「凸凹」の位置は異なっている。
日本の場合、1937年、1945年の出生率低下、戦後のベビーブームとその後の出生率の急低下、1966 年のひのえうま、1973年生まれを頂点とするジュニア団塊世代、といった傾向が人口ピラミッドに如実 に示されている。日本において「ベビーブーマー」もしくは「団塊の世代」とは、第二次世界大戦後の
1947~1949生まれの世代とされ、3年間、もしくは3歳分しかないが、これは、1949年の優生保護法
改正で人工妊娠中絶が経済的理由で行えるようになって以降、出生数は大きく減少したことが影響して いる。
韓国の場合は、ベビーブームとは朝鮮戦争後、1955年以降に生まれた世代のことを指しており(関係 部処合同 2020)、人口ピラミッドの「ふくらみ」はその後20年程度続いている。まさに2020年、この ベビーブーマーが65歳以上になる、ということで、本格的な人口高齢化に入る、とも言われている。
中国のベビーブーム(嬰児潮)は、①中華人民共和国成立後、②大躍進政策時代の大飢饉(「三年困難 時期」)の著しい出生減少の後の出生増加、③さらにその子供の世代、という三つがあり、人口ピラミッ ドにもその三つのふくらみが見て取れる。
図 3 日中韓の人口ピラミッド
日中韓には、ベビーブームだけでは説明できない多くの不規則な突出、窪みがある。日本の場合は1966 年ひのえうま(丙午)生まれの著しく小さい人口規模が人口ピラミッド上に明瞭に認められる。同様に 韓国では午年生まれの女性が忌避されることによる1976年の出生減があった(Lee 2006)。しかしなが ら、人口ピラミッド上で日本のひのえうまほどの明瞭な凹みをつくっているわけではない。韓国におい て、より重篤な干支の影響は出生性比のゆがみに現れており、特に白馬の年といわれるかのえうま(庚 午)1990年では、出生性比は116まで上昇しており(図 4)、絨毛採取(CVS)という出生前検査診断 が可能になったことにより、女児とわかれば中絶する、という悪しき男女の産み分けが行われたとされ ている。一方中国においては辰年(Year of Dragon)が生まれ年として好まれ、1976年の辰年以降、台 湾、シンガポール、マレーシアの華人社会には、出生数の増加があったが、中国本土にはこのような動 向はなかった(Goodkind 1991)。実際、中国の人口ピラミッドの短期的な凹凸と辰年とは無関係である。
これらの不規則な凹凸が何によるものなのかは、現段階では判然としない。
図 4 韓国の出生数と出生性比の推移
資料: 韓国統計庁(KOSTAT)https://kosis.kr/statHtml/statHtml.do?orgId=101&tblId=DT_1B80A01&conn_path=I3
III. 人口指標
少子高齢化を把握するための基本的な人口指標は、例えば図 2に示したような、すでに国連人口部に よって整備されている統計を用いるのが便利である。しかしながら、それらの値はあくまで推計であり、
推計のもととなるデータ基盤は国により異なる。
日本の場合、戸籍法に基づき出生、死亡はほぼ全数登録され、それに基づき人口動態統計(厚生労働 省)が作成され、5年の一度の国勢調査(総務省統計局)で把握される人口から、毎月・毎年の出生・
死亡・移動を加除して、人口推計(総務省統計局)が作成される。しかしながら、5年間の人口動態の 変化を積み上げた値は5年後の国勢調査の値とは一致せず、さかのぼって補正が行われる。また国勢調 査と人口動態統計による人口推計とは別に、住民基本台帳に基づく人口(総務省自治行政局)が、年単 位で公表されており、その値も国勢調査の値とは一致しない。さらに、戸籍に基づく人口(法務省)も ある。これら三種類の統計は、100~200万人の差があるので、おおむね総人口の1~2%に相当する。
戸籍法に基づく登録数に基づいた出生・死亡の精度はそれよりもよいはずである。ただし、人口動態 統計の主要な結果表に表示されている値は、当年の日本における日本人についてであり、国内の外国人、
国外の日本人、届出遅れは含まれないことには留意が必要であるが、それらは別表として掲載されてい る。戸籍法で出生は14日以内に、死亡は7日以内に届け出ることとなっているので、届出遅れとは、
それ以降の届出についてということになるが、人口動態統計の確定値は翌年 9 月頃に公表されるので、
ある程度の届出遅れはすでに含まれている。それに間に合わなかった出生・死亡数は、翌年以降に届出 遅れ数として公表される。死亡に関しては、届出遅れの割合は戦前で高く、1920年代には1.4%を記録 した年もあったが、戦後急速に低下し 1990 年代以降、この比はおおむね 0.1%程度に落ち着いている
(石井 2018)。
届出遅れ、とは最終的には届け出られた、ということになるが、まったく届け出られていないケース も知られている。出生については、離婚後300日以内に出産した、夫からの暴力から逃れるために子供 の登録をしない、などの理由で、出生登録されていない無戸籍者がおり、令和2年9月の時点で3,235
104 106 108 110 112 114 116 118
0 20 40 60 80 100
1980 1990 2000 2010 2020
出生性比出生数万人
出生数 出生性比 年
名が法務省により把握されている(法務省 2021)。この数は日本人口の 0.003%にあたる。一方死亡届 については、2010年に「高齢者所在不明問題」がメディアを中心に取り上げられたように、年金を受け 続けたい家族が親の死亡届を出さない、という事件は何度も起こっている。しかしながら 2010 年にお ける厚労省の調査では、100歳高齢者で所在・存命確認ができなかった者は、23,228人中10名のみで あった(厚生労働省 2010)。
韓国の人口統計は、人口センサス、人口動態統計のいずれも、韓国統計庁により集計・公表されてい る。韓国のセンサスは1925年の「簡易国勢調査」(朝鮮総督府)からほぼ5年毎に定期的に実施されて きたが、2015年以降は行政登録ベースとなり、14官庁の有する24種類の行政登録記録を元にした全数 調査と、オンライン・対面調査を元にした標本調査が毎年実施されている(Statistics Korea 2021)。人口 動態統計は、2008年より戸籍制度が家族関係登録制度に変わり、それに基づいた出生、死亡、死産、結 婚、離婚の統計が、毎月・毎年韓国統計庁により公表されている。また、死因統計は、医師に基づく死 亡診断書情報の他、健康保険、がん登録、交通事故記録など、22種類の行政データを突き合わせて原死 因を特定している(林 2019)。
日本よりも整備されていると考えられる韓国の人口統計ではあるものの、その完全性について課題が ないわけではない。韓国の戸籍制度自体は 7 世紀統一新羅時代から存在しているが、近代的な制度は 1894年、奴隷制度が完全に廃止された甲午改革に伴い整備され始めた(崔 1996)。戸口調査規則が1896 年に、人口動態調査規則が1937年に制定されてから、1942年までの人口動態統計は完全性を有してい
た(石1972)。ところが第二次世界大戦後、米軍統治、朝鮮戦争を経て、担当部局も転々とし、申告漏
れが甚だしい状況となり、出生・死亡の届出率は1966年で40%未満程度であり(鈴木2019)、統計と して利用することはできない水準であった。そのため、1963年より人口動態標本調査が実施されたが一 旦1969年に中止され、1972に再開し、1987年には55,000世帯を対象とする大規模な調査も行われた。
その後過去10年分を集計して公表する形となり、1980年代後半には届出率が95%程度となった(統計 廳 1992)。つまり、1980 年代までの韓国の人口動態統計は標本調査に基づくもので、全数登録による ものではない。また、日本同様の死亡届の漏れはあるようである。2015年の住民登録によれば 100歳 以上の高齢者数は16,209人であったが、翌年百寿者調査を行った結果、3,159人となった。これは、死 亡が届けられなかったことと、高齢者が年齢を過大に登録する、といった理由が考えられる(Lee 2018, Statistics Korea 2016)。
中国の人口統計は、韓国の 1980年代までの状況に等しい。つまり、出生・死亡数の統計は、登録に 基づいた集計ではなく、標本調査より推計されている。中国では末尾が0の年に全員を対象とした人口
普査1、末尾が5の年に1%の抽出率の人口抽様調査、それ以外の年には1‰の抽出率の人口変動状況抽
様調査が行われる。これらの調査はいずれも11月1日を基準に行われるが、過去1年間の出生の有無 を訊くことにより母の出産時の年齢と合わせて合計特殊出生率が算定される。2000年から2015年まで の合計特殊出生率は、上記人口普査、人口抽様調査、人口変動状況抽様調査から求められた値が、国家 統計局のWEB上にある、人口普査、中国統計年鑑の15-49歳女性年齢各歳別出生数・率の集計表から 計算できるが、その値を国連人口部の推計と比べたものが図 5である。中国国家統計局による合計特殊 出生率は、2000~2015年の期間2で、最高でも2008年の1.48であり、2010年以降は変動はあるが、
1 人口普査自体は全数が対象であるが、出産があったかの質問は10%の人に訊く「長表」に含まれている質問であるため、標本調査と いうことになる。
2 2016年以降の15-49歳女性年齢各歳別出生数・率は、「中国人口和就業統計年鑑(中国人口和就业统计年鉴)」に掲載されている