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亜鉛経口投与によるラットの摂食促進効果に関する脳視 床下部メタボローム解析床下部メタボローム解析

3.1 目的

亜鉛は多彩な生理機能を有する必須微量元素である。これまでの国内の研究では、

亜鉛欠乏時のラットの摂食量のサイクルパターンが、玉木らによって報告されてきて

いるが 30-31)、どのようなメカニズムによって摂食量が減ったり増えたりするかについ

ては、まだ解明されていない。よってこのメカニズムを解明するために当研究室から 京大に移った大日向氏らと一緒に取り組み、消化管経路の食餌亜鉛摂食シグナルがあ り、これが迷走神経介在の伝達経路で摂食調節中枢を修飾しているメカニズムである ことを報告してきた3,32)。同様にPhilippe L.らも、亜鉛の経口投与によって視床下部

のNPY,Orexin などの摂食促進ペプチドmRNA 発現量の有意な増大が認められたと報告

している33)。しかし、今のところ消化管における亜鉛シグナル受容・伝達メカニズム の詳細については不明である。よって、今回の研究では、上述と同じ実験系で亜鉛投 与ルートの違いによる脳の摂食調節領域における摂食調節因子の代謝物の違いを、メ タボローム解析によって解明しようとした。

3.2 材料と方法 3.2.1 材料

実験動物には、SD(Sprague-Dawley)系雄ラットSLC:SD/SPF;日本エスエルシー株式 会社)を用いた。ラットを4 週齢(体重70~90g)で購入し、3~4日間、市販固型飼 料(F-2;船橋農場)と精製水で馴化させた後、実験に供した。飼育は、室温22±2℃、

湿度50±5%、12時間/12時間の明暗サイクル(08:00点灯)に保たれた環境下で行

った。実験は、国立大学法人東北大学動物実験等に関する規程に基づいて行った。ま た国立大学法人東北大学環境・安全委員会動物実験専門委員会の承認を得た。(2013-AgA-009)

実験飼料(亜鉛欠乏飼料)はTable 3-1に示した組成で作製した。ミネラル混合は

Table 3-2 に示した亜鉛を含まない組成で独自に作製した。またビタミン混合の組成

はTable 3-3に示した。この飼料中の亜鉛含量は0.7 μg /gであった。 実験群は、

Zn-PO(Zn-経口投与)群、Zn-IP(Zn-腹腔内投与=非経口投与)群、Saline-PO(生理食塩

30

水を経口投与)群の3群を設け、全個体について個別飼育を行った。体重と摂食量は毎 日測定した。

固型飼料で馴化後、亜鉛欠乏食を 2 日間与えた。一般に亜鉛欠乏食による飼育後、

摂食量は2~3日目で減少し、減少ピークの翌日には増加する。本研究では、この摂食 量減少のピーク前日に解剖に供した。3日目の朝8時に飼料を取り除き、2時間絶食さ せた。その後、硫酸亜鉛溶液(ZnSO4 3 mg /5 mL)を体重当り5 mL /kg 投与した。Zn-PO群、Zn-IP群、Saline-PO群の3群間での比較検討実験とした。試験溶液の投与後は 再給餌し、3時間経過後に麻酔なしで断頭屠殺した。脳の各部位の特定は、Jacquesら の報告34)と脳地図アトラス35)を参考にするとともに、共同研究者の大分大学の酒井久 美子先生の御指導によって事前解剖練習も行った。希望頭部からは氷冷下で脳の視床 下部、海馬、扁桃体を速やかに摘出し、ビーズ入りエッペンドルフチューブに入れ、

速やかに液体窒素で凍結後、-80℃で保存した。また胴体からは血液を採取した後、小 腸上部(胃の下4cmで十二指腸、その下4cm で空腸)を摘出し生理食塩水で洗浄後速や かに液体窒素で凍結後、-80℃で保存した。得られた血液は、遠心分離(3000rpm, 10min, 4℃)し、上清のみ(血漿)を-80℃で保存した。

31

Table 3-1 実験飼料の組成

成 分 g / k g 飼 料

ミネラル混合(独自作成 Table 3-2) 40.0

セ ル ロ ー ス 3 0 . 0

ビ タ ミ ン 混 合

*

2 0 . 0

L - メ チ オ ニ ン 3 . 0 ス ク ロ ー ス 5 0 . 0

大 豆 油 5 0 . 0

乾 燥 卵 白 2 5 0 . 0 コ ー ン ス タ ー チ 5 5 6 . 0

D - ビ オ チ ン 0.016

*Table 3-3

OYC配合(オリエンタル酵母工業株式会社)

32

Table 3-2 ミネラル混合(亜鉛不添加)

成分 含有量(g)

F e - c i t r a t e N a C l K H 2 P O 4

C a H P O4・ 2H2O

25.06 0.43 34.31

M g S O 4

C u S O 4 ・ 5 H 2 O K I

M n S O 4 ・4 ~5 H 2 O

C a C O 3

( N H4)6M o7O2 4・4 H2O

セ ル ロ ー ス パ ウ ダ ー で 1 0 0 g に 調 整 す る 0.623 4.8764 0.121 0.156 0.0005 29.29 0.0025

33

Table 3-3 オリエンタルビタミン混合

成分 含有量

ビ タ ミ ン K 3

ビ タ ミ ン E ・ ア セ テ ー ト ビ タ ミ ン D 3

ビ タ ミ ン A ・ ア セ テ ー ト

mg 500

IU 50,000

10,000 IU

ビ タ ミ ン B 1 ・ 塩 酸 塩 ビ タ ミ ン B 2

ビ タ ミ ン B 1 2

mg mg mg mg

ビ タ ミ ン C

ビ タ ミ ン B 6 ・ 塩 酸 塩

D - ビ オ チ ン 葉 酸

パ ン ト テ ン 酸 カ ル シ ウ ム パ ラ ア ミ ノ 安 息 香 酸 ニ コ チ ン 酸

イ ノ シ ト ー ル 塩 化 コ リ ン

セ ル ロ ー ス パ ウ ダ ー で 1 0 0 g に 調 整 す る mg

mg mg mg mg mg mg mg g

520 120 400 80 0.05 3,000

2 20 500 500 600 600 20

(OYC配合ビタミン混合, オリエンタル酵母工業株式会社)

34 3.2.2 血漿亜鉛濃度の測定

亜鉛濃度の測定にあたり、血液サンプルは前処理無しでそのまま測定した。亜鉛濃 度の測定は、原子吸光光度計AAS-6800 (SHIMADZU)を用いた。亜鉛標準曲線の作成の ために、亜鉛標準溶液を用いた(亜鉛標準液、1000 µg/ml、和光純薬株式会社)。亜鉛 標準曲線は、亜鉛濃度として0 ~ 1.0µg/ml の範囲内で描いた。

3.2.3 メタボローム解析

冷凍保存した脳の 3 部位は、大分大学にてトリプル四重極型ガスクロマトグラフ質 量分析計:GC-MS-TQ8040(SHIMADZU,Kyoto,以下GC-MS/MS)を用いて測定を行った。

GC-MS/MS 測定用試料調製は、ブライ&ダイヤー法36)を一部改変して行った。改変した内

容は試料のスケールが現在と異なるため修正したが、水や有機溶媒の比率、2段階で 抽出する方法などは従来通りとした。有機溶媒を入れるまでは常に氷上で行いチュー ブはEppendorf 2 mL を使用した。また試薬類は高純度のもの、水はMS Grade を使用 した。

初めにチューブ(ビーズ・組織込み)重量を計り、組織の重量のみを算出して、これ で面積値を標準化した。組織に冷やしたリン酸緩衝生理食塩水(カルシウム及びマグネ シウムを含まないもの)400 μLを入れ、ビーズクラッシャーで3200rpm 30secかけた。

次にメタノール 500 μLにクロロホルム(以下;CHCl3)を 250 μL 添加し、Vortexに 2minかけ、さらに2- イソプロピルリンゴ酸(溶媒:ミリQ)を5 μL加え、5min 静 置、次にCHCl3を 250 μLとミリQ水を 250 μL加え、Vortexに2minかけた。その 後14000rpm、 5-7min(室温)で遠心分離した。

上清500 μLを2 本とり新しいチューブへ移し、SpeedVac で3hr完全にドライアッ プした。次にメトキシアミン塩酸塩(溶媒:ピリジン)を80 μL添加し、 Vortex 30sec 行い、Sonication 30sec行い、ペレットが浮いたら完了とした。振とう後(90min at 30 ℃ 、 TAITEC BioShaker 200 回 転 ) さ ら に MSTFA ( N-Methyl-N-trimethylsilyltrifluoroacetamide) 40 μLを加え、Vortexに 30secかけた。次に Shaking 30min at 37℃ (TAITEC BioShaker 200 回転)、14000rpm 5min at RT 行い、

上清 80μLを慎重に取り GC/MS 専用バイアル(微量管使用)へ入れ、分析を行った。

分析条件は、Nishiumiらの報告37)を参考に、トリプル四重極型ガスクロマトグラフ 質量分析計: GCMS-TQ8040(島津製作所)とSHIMADZU,Smart Metabolites Database

35

のソフトウェアを使用し、水溶性画分(DB-5(Agilent),469化合物成分)について分析 を行った。

GC カラムは DB-5(30 m )、キャリアガスは He、制御モードは線速度(39.0 cm/

秒)、注入方法は スプリットレス、オーブン温度は 100 ℃(4 分)→(10 ℃ / 分)

→ 320 ℃(11 分)、MS(EI 法) 、イオン源温度は 200 ℃、インターフェース温度 は 280 ℃、チューニングモードは標準、測定モードは MRM、ループ時間は 0.3 秒で 実施した。

3.2.4 統計処理

分析後のデータは、東北大学にて筆者らがピーク確認及び修正を行い、その後大分 大学にて多変量解析専用ソフトウェアSIMCA Ver.13(Umetrics,Umea,Sweden)を用いて 変動代謝物の抽出を行った。実験データ(数値)は全て、平均値±標準偏差(means ± SD)で表した。t-testはIBM SPSS Statistics 22 (Armonk,NY,USA)で行った。

3.3 結果

屠殺後に得られた血液の血漿亜鉛の測定結果をFig. 3-1に示した。また、sample投 与後断頭までの3時間に食べた亜鉛欠乏食の摂取量をFig. 3-2に示した。今回の結果 では、Zn-IP 群と Zn-PO 群間で摂食量の有意な差がなかったが、これまで研究室で行 ってきた実験では血漿中や肝臓中の亜鉛量で有意な差が見られなくても、Zn-PO 群の みがZn-IP群や Saline-PO群よりも有意に摂食量が多かった(Supplemental Fig.1及

び2)。このことから、実験は継続し行った。

摘出した脳(視床下部、海馬、扁桃体)はメタボローム解析に供した。SIMCAによる Orthogonal Partial Least Squares-Discriminate Analysis (以下:OPLS-DA) 38)で脳 部位の特異性が保持されているかどうかを調べた結果を、Fig. 3-3に示す。視床下部、

海馬、扁桃体の3部位は各部位別にプロットされており、投与方法や投与物に影響さ れることなく明らかに異なる代謝をもつ組織として明確に分離され、この方法で部位 別代謝を検討できることが示された。

次に食欲調節に関する視床下部における群間の違いをFig. 3-4に示す。Zn-PO群は X軸上方にプロットされたが、Zn-IP群とSaline-PO群は下方に集中しているという 違いがみられた。

36

次に各2群間の多変量解析(S-plot)の結果を示す(Fig. 3-5(a,b,c))。SIMCAの S-plot では 代謝物がす べてプロ ットされ、 縦軸が特 徴的な成 分の信頼 性を表し 、 0.8<p(corr)<1.0または-1.0< p(corr)<-0.8で有意差ありを示し38)、それぞれ比較し た群間で大きく変動していた代謝物である。横軸は各化合物の量を表す。この3 つの S-plotの中で大きな違いが示されたのは、Zn-PO群とZn-IP群のS-plotであった(Fig.

3-5(d))。このZn-PO群とZn-IP群間では、有意に変動した代謝物の違いが多くみられ

た(Table 3-4)。Zn-PO群で有意に増加していたものはシチジン-4TMS、ドーパミン-4TMS、

ビオチン-3TMS、3-アミノ-プロパン酸(β-アラニン)-2TMSと3TMS、ヒポタウリン-3TMS、

等で観察された。一方Zn-IP群では、PO群と比較して量は少ないが増加していたのは、

2-デオキシグルコース-meto-4TMS、スクニシルアセトン-meto-TMS(3)、ドーパミン-3TMS、ウレイドプロピオン酸-2TMSで観察された。さらにKEGGマップによるPathway 解析を行った結果、β-アラニンの代謝経路とその近傍にあるドーパミンの代謝経路が ヒットした(Fig. 3-6)。これらのうち明確な差が認められた代謝物の量的な違いをFig.

3-7に示した。その結果、3-aminopropanoic acid-3TMS (β-アラニン)、ヒポタウリン

-3TMS、ドーパミン-4TMS、ビオチン-3TMS とも Zn-PO 群で有意に多くなっている現象

が確認された。

37 Fig. 3-1 屠殺時の3群の血漿亜鉛値

100

50

0 150

血漿亜鉛値( μg/dL )

Saline-PO Zn-IP Zn-PO

a

ab

b

a,b:異なった文字間で有意差あり p < 0.05 (Tukey-Kramer検定)

38 Fig. 3-2 亜鉛欠乏食の摂食量の比較

16

12 10 8 6 4 2 0 14 18

摂食量(g)

1日目 2日目 Sample投与後3時間経過後

a a a

(Tukey-Kramer検定)

39

Nishiuchi M, et al. Biosci Biotechnol Biochem, 82, 2168-2175 (2018)より引用 扁桃体

海馬

視床下部

t[1]

t[2]

Fig. 3-3 脳3部位の水溶性画分代謝物の判別分析(OPLS-DA)

40

Nishiuchi M, et al. Biosci Biotechnol Biochem, 82, 2168-2175 (2018)より引用

Zn-IP

Zn-PO

Saline-PO

t[1]

t[2]

Fig. 3-4 視床下部における代謝物の判別分析(OPLS-DA)

Zn-PO Zn-IP Saline-PO

41

Zn-POとZn-IPの違い

Saline-POとZn-POの違い Saline-POとZn-IPの違い

Zn-PO Zn-IP Saline-PO

Fig. 3-5 水溶性画分の多変量解析(S-plot)

(b)

0.0 0.1 0.2 0.3 -0.1

-0.3 -0.2

-0.4 0.4

p[1]

(a)

0.0 0.1 0.2 0.3 -0.1

-0.3 -0.2

p[1]

(c)

0.0 0.1 0.2 0.3 -0.1

-0.3 -0.2

p[1]

42

Nishiuchi M, et al. Biosci Biotechnol Biochem, 82, 2168-2175 (2018)より引用 3-Aminopropanoic acid-3TMS(β-alanine) Hypotaurine-3TMS

Biotin-3TMS Dopamine-4TMS

-0.4

-1.0

p(corr)[1]

0.8

-0.8 -0.2 -0.0

-0.6 0.4 0.6

0.2 1.0

0.0 0.2 0.3 -0.1

-0.2

-0.3 0.1

p[1]

Cytidine-4TMS

Dopamine-3TMS

2-Deoxy-glucose-4TMS

Ureidopropionic acid-2TMS Succinylacetone-meto-TMS(3)

(Increased metabolites in Zn-PO group = Zn-IP < Zn-PO)

(Increased metabolites in Zn-IP group = Zn-IP > Zn-PO)

Fig. 3-5(d) 水溶性画分の多変量解析(S-plot)

43

Nishiuchi M, et al. Biosci Biotechnol Biochem, 82, 2168-2175 (2018)より引用

Var ID, variable identification;

*, 0.8 < p(corr) < 1.0 or -1.0 < p(corr) < -0.8, indicating that the data are statistically significant.

†, significantly increased metabolites compared with Zn-PO group. (p< 0.05, by Student’s t-test.)

††, significantly increased metabolites compared with Zn-IP group. (p < 0.05, by Student’s t-test.)

Zn-IP Group Zn-PO Group

Var ID

(Primary) Var ID p[1] p(corr) Var ID

(Primary) Var ID p[1] p(corr)

251 2-Deoxy-glucose-meto-4TMS -0.00899542 * -0.917139 445 Cytidine-4TMS†† 0.0631305 * 0.879860 156 Succinylacetone-meto-TMS(3) -0.00497275 * -0.865848 364 Dopamine-4TMS†† 0.2282640 * 0.836879

265 Dopamine-3TMS -0.02177130 * -0.846739 430 Biotin-3TMS†† 0.0108451 * 0.826578

195 Ureidopropionic acid-2TMS -0.00905359 * -0.809843 35 3-Aminopropanoic acid-2TMS†† 0.0522016 * 0.801198 352 Urocanic acid-2TMS -0.00444033 -0.724927 102 3-Aminopropanoic acid-3TMS†† 0.2981310 * 0.798292 201 N-Acetylaspartic acid-3TMS -0.00846077 -0.702282 298 Sorbose-meto-5TMS(2)†† 0.0992909 * 0.798217

369 Dopa-4TMS -0.00391001 -0.692283 357 Octopamine-4TMS†† 0.0402043 0.775087

402 Metoprolol-2TMS -0.01059570 -0.691026 170 Hypotaurine-3TMS†† 0.2329970 0.770698

435 Docosahexaenoic acid-TMS -0.00887977 -0.686056 167 3-Hydroxyphenylacetic

acid-2TMS 0.0043258 0.742548

152 3-Methylcrotonoylglycine-2TMS -0.00532092 -0.684791 235 Fucose-meto-4TMS(2) 0.0118107 0.711274

424 Inositol phosphate-7TMS -0.13329400 -0.679711 214 Xylitol-5TMS 0.0122422 0.704859

333 Glucuronic acid-meto-5TMS(1) -0.00540082 -0.674209 400 Tryptamine-3TMS 0.0170392 0.703800 267 4-Aminobenzoic acid-2TMS -0.00342282 -0.655633 71 4-Aminobutyric acid-2TMS 0.1467530 0.702220

Table 3-4 S-plot 解析において群間で有意差が認められた代謝物一覧

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