Condition 1 Condition 2
5.2 二波形分離問題の解法の総括
5.1
まえがき
本章では、第4章で検証された二波形分離問題の解法から、発展的構成法に従って聴覚 の計算の方略の構築を試みることを目的とする。
はじめに、第3章で提案し、第4章でその十分性と有効性が検証された二波形分離問題 の解法と制約条件、およびアルゴリズムの実装について総括する。ここでは、分離抽出し たい信号をAM{FM調波複合音とおき、雑音中からこの調波複合音を分離抽出する二波形 分離問題の解法を説明する。
最後に、この解法から、音の分離抽出における聴覚の計算の方略を提案する。
表 5.1: Bregmanの発見的規則と制約条件の関係
発見的規則(
Bregman,1993) 制約条件 制約条件式
(i)
関連の無い音が一緒に始まったり、
(1)立上り・立下りの同期
jTS0Tk ;onj1TS終ったりすることはない
jTE0T
k;o j1T
E
(ii)
変化は急激には起こらない
(2)漸近的変化
(a)
一つの音の属性は、ゆっく
(2.1)区分多項式近似
dAk(t)=dt=Ck ;R(t)りとなめらかに変化する傾 (ゆっくりと)
d1k(t)=dt=Dk;R(t)向がある
dF0(t)=dt=E
0;R (t)
(b)
同じ音源から生じる音の一連
(2.2)なめらかさ
A= R
tb
t
a [A
(R +1)
k (t)]
2
dt)min
の音の属性は、ゆっくりとな
=R
tb
ta [
(R +1)
1k (t)]
2
dt)min
めらかに変化する傾向にある
(iii)
物が繰り返し振動するときには、
(3)調波関係
共通の基本周波数の整数倍の音響
n2F0(t); n=1;2;111;NF0的成分が発生する
(iv)
一つの音響事象に生じる多くの変
(4)振幅包絡
Ak(t)
間の相関
化は、その音を構成する各成分に
Ak(t)kA
k (t)k
A`(t)
kA
` (t)k
, k6=`
同じような影響を与える
ず、制約条件(1)は各分析フィルタ出力で得られた立上り・立下りと基本波の立上り・立下 りの一致の誤差を拘束するものである。次に制約条件(2)は、分離抽出したい信号の瞬時 振幅と瞬時入力位相、および基本周波数の時間変化を拘束するものである。特に、制約条
件(2.1)では時間変化を区分多項式で近似し、制約条件(2.2)では近似による時間変化のな
めらかさを拘束する。制約条件(3)は、基本周波数の倍音関係にある成分を拘束し、制約 条件(4)は各分析フィルタ出力における振幅包絡間の相関を拘束するものである。
これらは、第3章で定式化されたが、第4章で、二波形分離問題の解法と制約条件を検 証した結果、表5.1の制約条件が二波形分離問題を一意に解くための十分条件であり、かつ 有効であることが明らかになった。
5.2.2
解法アルゴリズムの概要
本論文で提案する二波形分離問題の解法は、図3.3に示すモデルで実現され、図5.1に示 す順序で処理が行われる。ここで、図3.2に示す二波形分離モデルは、最終的に、(a) 分析 フィルタ群、(b) 基本周波数の推定部、(c) 波形分離部、(d)グルーピング部の4ブロック で構成された。また、二波形分離問題を解くための一連の流れは次のとおりである。
a
a’
b b’
a’
a
onset offset
Harmonicity
F (t) time
Frequency (log)
S (t) k
1 2
f (t) f (t)
+ f(t)
Frequency (log)
b b’
Parameter Determination φ (t) k
A (t) k θ (t) 1k
f (t) 1
^
A
B C
G
Frequency (log)
time
0 a
a’
E
D
F
H I
J
図5.1: 二波形分離モデルの信号処理の概要
幅Sk(t)と瞬時出力位相 k(t)に分解される(図5.1. B、C)。次に、Sk(t)から基本周波 数F0(t)を求め(図5.1. D)、二波形分離の対象となる時間{周波数領域を決定する(3.2.2 節参照)。調波成分の存在する周波数領域については、F0(t)と発見的規則(iii)の調波関係
(図5.1. E、a{a')を用いて決定する。調波成分の存在する時間領域については、発見的規 則(i)の、各高調波成分の立上りと立下りの同期(図5.1. F、b{b')を用いて決定する。
次に、波形分離部では、上記で決定された時間{周波数領域においてSk(t)とk(t)から 望みの信号のAk
(t)と1k
(t)を求める(図5.1. G)。これは、Ak
(t)と1k
(t)を発見的規則
(ii)の漸近的変化(ゆっくりと)を用いて最適化問題として解く(図5.1. H、I)。但し、最 適解の候補が多過ぎるため、発見的規則(ii)の漸近的変化(なめらかさ)を加えて採用し 解の探索範囲を狭め、発見的規則(iv)の振幅包絡間の変動の一致(相関)を手がかりとし て最適解の絞り込みを行う。
最後に、グルーピング部では、Ak
(t)と 1k
(t)がグルーピングされ、合成フィルタ群を 用いてf^1
(t)に再構成される(図5.1. J)。図中では割愛しているが、f^1
(t)と同様に、Bk (t)
と2k(t)がグルーピングされ、合成フィルタ群を用いてf^2(t)に再構成される。
以上が二波形分離問題を一意に解くためのアルゴリズムの概要である。