4. 液体急冷法で作製された MnSi 系リボン状試料の熱伝導率測定
4.2. 二方向熱流モデルを適用した 3 測定
HMS試料において二方向熱流モデルを適用するための実験配置を,図 4-3 に 示す手順で準備した.はじめに,ハンドプレス機を用いてHMSリボン状試料を Alブロックに圧着した.Alが塑性変形を起こしてHMS試料と一体化するため,
測定を困難にしていた材料強度の問題が解決される.次に,Ag粉末(粒径1 m) を混合したエタノールを試料表面に滴下した.エタノールの乾燥に伴いAg粒子 が試料表面の凹凸を埋めていくために,表面粗さを改善する効果が期待できる.
この試料を,3.1節で示した(Bi, Sb)2Te3微粒子凝集体の場合と同様の手順で加圧 セルにセットし,室温空気中において3 測定を行った.
図4-3 HMSリボン状試料への二方向熱流モデルの適用
図4-4に,母体試料の3 測定結果を実数成分および虚数成分に分解したもの を示す.なお,比較対象としてガラス基板をそのまま測定した場合およびAg粉 末を使用せずに測定した場合の結果も併せて掲載した.これらの結果から系全 体の熱伝導率totalを計算した結果を表4-2 に示す.Ag粉末を使用した場合には
Tの実数成分,虚数成分ともにその大きさが減少し,totalが増加する.以上の 結果より,Ag粉末の使用により界面熱抵抗が少し改善されていることが窺える.
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図4-4 Ag粉末使用によるHMSリボン状試料の3 測定結果の変化
表4-2 3 測定結果から求めたtotalの変化
Calculatedtotal / WK-1m-1 from Re[T] from Im[T]
Glass 1.28 1.32
Glass + Mn36.4Si63.6 1.52 1.59
Glass + Mn36.4Si63.6 + Ag powder 1.67 1.78
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しかしながら,本測定で得られたtotalは,基板の熱伝導率と母体試料の熱伝導 率を含むことを考慮すると非常に低い値となっており,絶対値測定ができてい ないことがわかる.試料由来でない熱抵抗,おそらくはAlブロックとの圧着や Ag粉末の使用では抑えきれなかった試料の界面熱抵抗が存在しており,その影 響が大きく効いている可能性が原因として考えられる.そこで,仮に界面熱抵抗 が存在する場合に3 測定結果にどのような影響が生じるのかを確かめるため,
FLOW-3Dによる熱流シミュレーションを行った.図4-5(a)および(b)に示すよう
に,二方向熱流モデルを満たす構造をソフトウェア中に構築した.(a)は試料表 面が完全に平滑な場合である.(b)は試料表面に深さ1 mの凹凸が導入されてお り,これにより仮想的に界面熱抵抗を再現している.ヒーターに交流電流を印加 し,一定時間経過後のヒーター内部およびヒートシンクの温度の時間変化を図
4-5(c)および(d)に示す.ヒーター温度は界面熱抵抗の有無による変化がほとんど
見られないのに対し,ヒートシンクの温度振幅は,界面熱抵抗導入によって6割 以上減少している.この結果は,界面熱抵抗が試料方向の熱流を大きく妨げてし まうことを示しており,これにより 3 測定の精度が界面熱抵抗の効果で著し く低下することが明らかにされた.
図4-5 試料に表面粗さがある場合のヒーターおよびヒートシンク内の温度振幅
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本測定においては,試料の表面粗さに起因する界面熱抵抗を抑制しきれず,
HMS試料の熱伝導率の絶対値を正確に測定することはできなかった.そこで,
置換系試料を同様に測定し比較することで,相対的に熱伝導率低減効果を確認 できるかどうかを調査した.測定結果を図4-6および表4-3に示す.母体試料と 二種類の置換系試料の測定結果はいずれも誤差の範囲で一致しており,3 測定 からは,置換による熱伝導率低減効果を実験的に確認することはできなかった.
図4-6 置換系HMSリボン状試料の3 測定結果 表4-3 置換系HMS試料におけるtotal計算結果
Calculatedtotal / WK-1m-1 from Re[T] from Im[T]
Mn36.4Si63.6 1.76 1.87
Mn32.4W2.0Fe2.0Si63.6 1.78 1.89
Mn28.4W3.0Fe3.0Re2.0Si63.6 1.79 1.92
Real part
Imaginary part
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