区間I で定義された実数値89の可測関数f(t)で,その2乗絶対値|f(t)|2 が積分可能なもの90の全体のなす集合をL2(I)で表そう.したがって,f(t)∈
89複素数値の場合の扱いが必要になることがある.別に述べる.
90二乗積分可能または二乗可積分と略称する.
L2(I)ならば,
kfk2= sZ
I
|f(t)|2dt (65)
が有限かつ非負の値をとる.
補題6.5 f(t), g(t)∈ L2(I)ならば,両者の積f(t)g(t)は積分可能である.
しかも, ¯
¯¯
¯ Z
I
f(t)g(t)dt
¯¯
¯¯≤ kfk2kgk2 (66) が成り立つ.
実際,任意のr >0 に対して,
|f(t)g(t)| ≤ 1
2r|f(t)|2+r 2|g(t)|2
である.右辺は積分可能な関数の1次結合だから積分可能,したがって,左 辺に現れる非負関数も積分可能である.ゆえに,
Z
I
|f(t)g(t)|dt≤ 1 2r
Z
I
|f(t)|2dt+r 2
Z
I
|g(t)|2dt
となる.右辺のr >0に関する最小値をとれば,(65)により,(66)が得られ る(問4.9参照).
補題6.6 f(t), g(t)∈ L2(I)の1次結合も二乗積分可能である.
実際,
|a f(t) +b g(t)|2≤ |a|2|f(t)|2+ 2|a| |b| |f(t)| |g(t)|+|b|2|g(t)|2 であるが,右辺の各項は,第二項も含め,積分可能である.
補題6.6により,L2(I)は線形空間になる.さらに,補題6.5により,任意 のf(t), g(t)∈ L2(I)に対して
hf, gi= Z
I
f(t)g(t)dt (67)
が意味を持つ.このとき,つぎは明らかであろう.
補題6.7 任意のf, g, h∈ L2(I),a, b∈Rに対し,
hf, fi=kfk22 (68)
hf, gi=hg, fi (69)
ha f+b g, hi=ahf, hi+bhg, hi (70) が成り立つ.h ·,· iは L2(I)における内積というべきものである.
系 6.2
kfk2=p
hf, fi, f ∈ L2(I) (71) 注意6.3 スカラーが実数であるベクトル空間Xの任意のベクトルx,yに 対して,実数値のσ(x,y)が定義されて,正定値性,すなわち,
σ(x,x)≥0 かつ σ(x,x) = 0 =⇒ x=0 および,対称性と線形性,すなわち,
σ(x,y) =σ(y,x), σ(ax+by,z) =a σ(x,z) +b σ(y,z)
(x,y,z∈X,a, b ∈R とする)を満たすとき,σ(·,·) をX 上の内積とい う(L2(I)におけるh,iは,正定値性を満たさない).内積がいつも定義さ れるとは限らない.内積が定義されるベクトル空間を内積空間または前ヒル ベルト空間という.スカラーが複素数の場合については別に述べる.
問 6.9 任意のf, g∈ L2(I)に対して,(66),すなわち,
|hf, gi| ≤ kfk2kgk2
が,積分をいちいち表に出さなくても,性質(68)(69)(70)を組合わせて導け ることを確かめよ.
k · k2はセミノルムの条件を満たす.
補題6.8 f, g, h∈ L2(I),a, b∈Rとする.このとき,すなわち,
kfk2≥0 (72)
ka fk2=|a| kfk2 (73) kf+gk2≤ kfk2+kgk2 (74) が成り立つ.
実際,(71)に注意して,(68)(69)から(72)(73) は明らかである.(74)を 示そう.まず,(68)〜 (70)から
kf+gk22=hf+g, f+gi=hf, fi+ 2hf, gi+hg, gi
となる.上の第三辺第二項は(66)により2kfk2kgk2 を超えない.したがっ て,第三辺は(kfk2+kgk2)2 ,言い換えれば,(kfk2+kgk2)2 を超えない.
すなわち,(74)が得られる.
L1(I)の k · k1 の場合と同様に,k · k2をノルムと解釈するためには,多 少の注意が要る.
N2(I) ={f ∈ L2(I) ;kfk2= 0}
とおく.さらに,f, g∈ L2(I)に対し,
f ∼ g ⇐⇒ f−g∈ N2(I) (75)
とおこう.補題6.3の N1(I) をN2(I) に書き換えても成立することは容易 にわかるであろう.したがって,(75)の∼は(58)のものと同様に同値関係 であり,(59)(60)(61)が成り立つ.
問 6.10 N1(I) =N2(I)であることを確かめよ91.
補題6.9 f, f1, g, g1∈ L2(I)とする.f ∼f1,g∼g1ならば,
hf, gi=hf1, g1i (76) となる.
実際,
f(t)g(t)−f1(t)g1(t) = (f(t)−f1(t))g(t) +f1(t) (g(t)−g1(t)) であり,右辺はほとんどいたるところ0 になる.
(71)から,つぎが従う.
系 6.3 f, f1∈ L1(I)とする.f ∼f1ならば,kfk2=kf1k2 である.
以上の結果,L1(I)/∼と全く同様に,L2(I)の同値類 C2(f) ={f1∈ L2(I) ; f ∼f1}
全体の集合L2(I) =L2(I)/∼をベクトル空間として考えられる.さらに,今 の場合,内積h ·,· iを,このベクトル空間に (76)に拠って定義することが できるのである.しかし,われわれは,ここでもL1(I)やL1(I)について説 明した注意6.2と同様に「数学的純潔」よりも「数学的便宜性」を重んじて,
特に区別の必要がない限り,L2(I)とL2(I)を流用し,ほとんどいたるとこ ろで等しい関数については違いがあっても識別できないという姿勢をとるこ とにする.
さて,L2(I)において k · k2 はノルムになるから,L1(I)の場合と全く同 様に,d2(f, g) =kf−gk2 によって,f, g∈L2(I)の距離を定めることがで きる.
定理6.1の類比が成り立つ.
91N(I) ={f(t) ;f(t)はI上で可測,かつ = 0, a.e.}とおくと,N(I)⊂ L1(I)∩ L2(I) であり,また,N1(I) =N(I) =N2(I)となる.
定理6.2 fn ∈ L2(I) はL2(I) の Cauchy 列,すなわち,(63) を,k k1
を k k2 に改めて,満足するものとする.このとき,f ∈ L2(I) であって,
limn→∞kfn−fk2= 0を満たすものが存在する.
定理6.2により,L(I) はノルムk k2 に関して完備であることがわかる.
L2(I)のノルムは内積から(71)によって定義されたものであり,このことは L2(I)がHilbert空間であることを意味する.
定理6.2は,定理6.1と同様に証明されるが,k k1とk k2の相違に基づく 違いもある.証明は後回しにして,応用例をみよう.
例 6.2 実数列{ak;k= 1,2,· · · },{bk;k= 1,2,· · · }は X∞
k=1
|ak|2<+∞, X∞
k=1
|bk|2<+∞ (77)
を満たすとする.また,a0∈Rとする.このとき,I= [0,1]として,L2(I) の元
f(t) =a0+ X∞
k=1
{ak cos 2kπt+bk sin 2kπt} (78) が確定する.実際,(78)の右辺は,
fn(t) =a0+ Xn
k=1
{ak cos 2kπt+bk sin 2kπt}, n= 1,2,· · ·
がn→ ∞のときに,L2(I)で収束するならば,その極限関数を表すべきもの である.したがって,fn(t)が収束することを確かめればよい.さて,m > n に対し
fm(t)−fn(t) = Xm
k=n+1
{ak cos 2kπt+bk sin 2kπt}
となるから,
hfm−fn, fm−fni= Xm
k,`=n+1
aka`hcos 2kπt,cos 2`πti
+ 2 Xm
k,`=n+1
akb`hcos 2kπt,sin 2`πti
+ Xm
k,`=n+1
bkb`hsin 2kπt,sin 2`πti
が従う.ところが,
hcos 2kπt,cos 2`πti= Z 1
0
cos 2kπtcos 2`πt dt=
0, k6=` 1
2, k=`
であり,同様に,
hsin 2kπt,sin 2`πti=
0, k6=` 1
2, k=` hcos 2kπt,sin 2`πti= 0 だから,結局,
kfn−fmk22= 1 2
Xm
k=n+1
(|ak|2+|bk|2)
となる.(77)より,右辺はn, m→ ∞のときに0に収束する.つまり,{fn} はCauchy列である.したがって,極限関数f(t)∈ L2(I)が存在し,
kfn−fk22= 1 2
X∞
k=n+1
(|ak|2+|bk|2)
となる.
問 6.11 区間 I,関数 fn(t), f(t) を例6.2のものとする.任意のg(t) ∈ L2(I)に対し,
n→∞limhfn, gi=hf, gi であることを示せ92.
問 6.12 1を I= [0,1]上で恒等的に値1をとる関数とする.
hf,1i=a0
を確かめよ93.
問 6.13 n= 1,2,· · · として
hf,cos 2nπti, hf,sin 2nπti を求めよ.
注意6.4 例6.2およびその後の問6.11〜問6.13は,L2(I)に属する関数
のFourier級数展開に関係するものである.しかし,ここでは深入りしない.
Fourier解析の解説書をご覧いただきたい.
定理6.2の証明をしよう.まず,L2(I) の関数列fn(t) が測度収束するこ とは,基本的には,定理6.1の場合と全く同様に示せる.したがって,fn(t) の測度収束極限 f(t) が存在し,しかも,fn(t) の適当な部分列が f(t) に
92ヒント:|hf−fn, gi| ≤ kf−fnk2kgk2 を使え.
93問6.11を利用せよ.
ほとんどいたるところで収束する.示すべきことは,f(t) ∈ L2(I) および kf−fnk2→0, n→ ∞, である.
さて,{fn} は L2(I) の Cauchy 列だから,番号の列 n1 < n2 < · · ·, nk→ ∞を
kfnk−fnk+1k2<2−k
が成り立つようにとることができる.さらに,ここで,fnk(t)はf(t)にほと んどいたるところで収束すると仮定しておくことができる.まず,
g(t) =|fn1(t)|+ X∞
k=1
|fnk+1(t)−fnk(t)| ∈ L2(I)
を確かめよう.m= 1,2,· · ·,に対し gm(t) =|fn1(t)|+
Xm
k=1
|fnk+1(t)−fnk(t)|
とおけば,各t∈Iにおいてgm(t)は単調に増大してg(t)(≤+∞)に近づく.
しかも,gm(t)∈ L2(I),言い換えれば,gm(t)2∈ L1(I)であって,
kgmk2≤ kfn1k2+ X∞
k=1
kfnk+1−fnkk2<kfn1k2+ 1
である.ゆえに,g(t)∈ L2(I)である.他方,
fnm(t) =fn1(t) +
m−1X
k=1
{fnk+1(t)−fnk(t)}
だから,|fnm(t)| ≤ g(t) である.したがって,Lebesgue の優収束定理から f(t)∈ L2(I)となる.また,ほとんどいたるところで,
f(t) =fn1(t) + X∞
k=1
{fnk+1(t)−fnk(t)}
であり,したがって,
kf−fnmk2≤ X∞
k=m
kfnk+1−fnkk2<2−m+1
となる.これから,limn→∞ kf−fnk2= 0を導くのは,定理6.1の証明の最 終段階と同様の議論に拠ればよい.
注意6.5 命題5.3の類比がL2(R)の場合にも成り立つ.すなわち,ωk(x) を(45)のものとすると,まず,任意のf ∈ L2(R)に対し,合成積ωk∗f(x) が定義され,
ωk∗f(x)∈ L2(R), k >0, (79)
が成り立ち,しかも,ωk∗f(x)は C∞ 級である.さらに,
k→0lim kωk∗f−fk2= 0 (80)
となる.(79)を見るには,まず,
|ωk∗f(x)| ≤ Z +∞
−∞
pωk(x−y)p
ωk(x−y)|f(y)|dy
とかけるが,右辺の二乗は,
Z +∞
−∞
ωk(x−y)dy Z +∞
−∞
ωk(x−y)|f(y)|2dy
で上から抑えられる.しかも,この第1因子の値は1である.第2因子は命 題5.1により,xの関数として積分可能である.したがって,(79)が成り立 ち,しかも,
kωk∗fk22≤ kfk22
である.ωk∗f(x)のなめらかさに関しても,例5.9と同様にして示される.
(80)の検証も,命題5.3と同様である.