第 4 章 短期抑圧現象を取り入れたパルスニューラルネットワークによる注視制
4.4 計算機実験
4.4.4 二つの移動物体が存在する環境における実験
複数の移動物体が存在する環境において行った実験について述べる。動画像の背景 は変化することがなく、その輝度は0とした。それぞれの移動物体の輝度は255、サイ ズは縦16ピクセル×横16ピクセルで共通であり、どちらも画像の左端から右端へと 一定の速度で移動する。
一方の移動物体(これを物体Aと呼ぶ)の一部が画面に入ってから100単位時間の後 に、もう一方の物体(物体B)が画面に入るものとした。なお、物体Aは画像の左上領 域から右上領域へと、物体Bは画像の左下領域から右下領域へと移動する。物体Aの 一部が画面に入ってから、両方の物体が完全に画面から出るまでを一回のランと考え る。なお、物体の速度はランごとに正規分布に従って確率的に選択した。表中では、
1000ステップあたりに移動するピクセル数で表記してある。
表4.6の結果は、物体A・Bの速度をほぼ同じに設定した場合の結果である。20回 のランの間に、物体Aを含む領域が注視されていた時間の割合と、物体Bを含む領域 が注視されていた時間の割合とを、それぞれ示してある。この結果から、二つの移動
表 4.6 それぞれの移動物体が注視されていた時間割合
Table 4.6 Percentage of attention time on each object.
Object Attention time Attention time velocity (steps) on object A (%) on object B(%)
N(20,2.02) 44.35 53.78
N(15,1.52) 45.08 53.52
N(10,1.02) 43.09 55.86
N(5,0.52) 51.88 47.01
表 4.7 より高速な移動物体が注視されていた時間割合
Table 4.7 Percentage of attention time on the faster moving object.
Velocity of Velocity of object B
object A N(20,22) N(15,1.52) N(10,1.02) N(5,0.52)
N(20,2.02) – 62.59 74.60 91.22
N(15,1.52) 60.77 – 64.55 87.13
N(10,1.02) 72.09 65.05 – 78.36
N(5,0.52) 91.41 87.14 76.33 – (%)
物体の速度が同等の場合にはそれぞれの物体がほぼ均等に注視されていることがわか る。実際に注視の軌跡を確認したところ、ほぼ交互に注視されていた。
また、表4.7の結果は、物体AとBの速度が異なるように設定した場合の結果であ る。20回のランの間に、より高速に移動している物体を含む領域が注視されていた時 間の割合を示してある。表から明らかなように、一方の物体がもう一方よりも速く移 動する場合には、速度の差が広がるに従って、より高速な物体の方に注視が集中する という結果となった。
同様に、物体AとBの速度が異なるという設定において、背景の輝度が一様でない 場合の実験を行った。この結果を、表4.8に示す。4.4.2の実験と同様に、背景の輝度 は各ランについて独立してピクセルごとに、正規分布に従って確率的に選択した。そ
表 4.8 より高速な移動物体が注視されていた時間割合 ( 背景の輝度が 0 でない場合 )
Table 4.8 Percentage of attention time on the faster moving object (with bright background).
Velocity of Velocity of object B
object A N(20,22) N(15,1.52) N(10,1.02) N(5,0.52)
N(20,2.02) – 59.03 75.72 89.00
N(15,1.52) 58.53 – 66.56 81.55
N(10,1.02) 73.30 65.11 – 68.97
N(5,0.52) 88.40 81.97 70.88 – (%)
表 4.9 より高速な移動物体が注視されていた時間割合 ( 交差あり )
Table 4.9 Percentage of attention time on the faster moving object (with crossover).
Velocity of Velocity of object B
object A N(20,22) N(15,1.52) N(10,1.02) N(5,0.52)
N(20,2.02) – 60.56 74.91 79.93
N(15,1.52) 59.40 – 68.05 76.53
N(10,1.02) 73.64 67.06 – 69.70
N(5,0.52) 90.16 83.42 72.32 – (%)
の平均値は127、分散は12.72である。この設定においても、表4.7の結果と同様に、速 度の差が広がるに従って、より高速な物体の方に注視が集中するという結果となった。
表4.9は、類似の実験を、二つの物体が各ランで必ず一回交差するように設定して 行った場合の結果である。物体Aは今までの実験と同様に画像の左上領域から右上領 域へと移動するが、物体Bは、画像の右上領域から左上領域へと移動する。この際、物 体BのY座標は、物体Aのそれに対して-15ピクセルから+15ピクセルの範囲で、ラ ンごとに独立して一様な確率で決定されるものとした。物体の高さは16ピクセルであ るので、各ランで必ず一回交差することとなる。表から明らかなように、このように 物体が交差する場合においても、より高速な物体を注視し続けることが可能であるこ とが確認された。
これらの結果から、他と比べて非常に高速な移動物体が存在する場合にはそれを注 視し続ける一方で、速度の近い物体が存在する場合にはほぼ均等に注視を行うという、
物体の移動速度に応じた望ましい注視制御が行えることが確認できた。