平成 17 年 10 月時点における介護保険3施設全数(12,212 施設)に対して、
Ⅳ 事例報告
A特別養護老人ホーム(関東)~安全ベルトの廃棄と職員研修の徹底~
入所者定員 84 名(他ショートステイ定員 16 名)、
看護職員 3.0 人・介護職員 31.1 人(職員配置 2.9:1)、社会福祉法人立
1.身体拘束に関する方針等
○ 職員向けに作成された「身体拘束廃止へ の基本指針」には、身体拘束の定義、身 体拘束を行う(行ってしまう)理由、身 体拘束の弊害、身体拘束廃止に関する具 体的な取組み、身体拘束実施の要件・手 続きが示されている。
○ 緊急やむを得ず拘束を実施する場合でも、
可能な限り軽い拘束にとどめるため、身 体拘束行為の段階的評価基準(第Ⅰ段階
~第Ⅴ段階)を導入している。
第Ⅰ段階:建物・施設レベルでの拘束(動 く能力はあるのに施錠された施 設)
第Ⅱ段階:ベッド・車椅子への拘束(四肢・
体幹への束縛はないが、ベッド への寝かせきりや車椅子への座 らせっぱなしなど:動く能力の 少ない利用者対象、拘束の程度 は軽い)
第Ⅲ段階:ベッド・車椅子での拘束(ベッ ドでの3・4点柵、車椅子のバ ー装着や滑り止めとしてのY字 体:動く能力の比較的高い利用 者対象、拘束の程度高い)
第Ⅳ段階:手または1関節の拘束
(ミトン手袋など身体の動きに 部分的制限がある状態)
第Ⅴ段階:四肢または体幹の束縛(ひも・
ベ ル ト ・ 介 護 衣 な ど に よ る 四 肢・体幹の束縛:身体の動きに 大幅な制限がある状態)
○ 身体拘束を実施する際の具体的な手続き は、以下のとおりである。
①要件を満たす場合でも、最終的には課長 及び「身体拘束委員会」のメンバーによ
②利用者本人ならびに家族に対して、ケア マネジャー、担当スタッフから身体拘束 の必要性(理由)、内容、拘束の時間帯・
期間などについて十分な説明を行い、「緊 急やむを得ない身体拘束に関する説明・
同意書」を作成し、家族の捺印を頂く。
③身体拘束の内容(行為)に関しては、よ り低い段階のものを選択する。
④身体拘束の実施前後においては、その必 要性等について、「緊急やむを得ない身 体拘束に関する経過観察・再検討記録」
に記載する。
○ 身体拘束を廃止しようと決めた時に、安 全ベルトを全て廃棄した。安全ベルトが なければ、拘束することも出来ないだろ うという発想だった。また、「転倒しては いけない」のではなく、「たとえ転倒して もケガがないようにする」という考え方 に改めた。
2.身体拘束廃止の取組みの経緯と現状
○ 現在の責任者が、介護職員として当施設 に就職した平成 15 年末には、転倒・転落 注意者について職員間で申し送りを行い、
「安全ベルト」、「ベッドの4点柵」、「重 い椅子」による拘束を行っていた。その ような状況を問題視していたので、平成 16 年 10 月、責任者になったことをきっか けに「よいケアとはどうあるべきか」に ついて職員内で話し合うようになった。
○ 平成 17 年4月、施設の改築(30 床増設)
をきっかけとして、「当施設をどんな特別 養護老人ホームにしたいのか」について 職員内の話し合いの機会が増え、その結 果のひとつとして、身体拘束廃止の機運
所サービス部門の介護職の制服の廃止」
等の取組みがあった。
○ 平成 18 年に「3か年事業計画」を策定す るようになり、身体拘束について取組み が明確になっていった。
○ 現在、車いすの利用者で、車いす上で、
自分の足の位置が気になって直そうとし て、顔面から倒れてしまう利用者(1名)
について、緊急やむを得ず拘束(安全ベ ルト)を行っている。利用者の安全を担 保するため、家族の了承を得た上で、安 全ベルトを使用しているが、身体拘束以 外の方法がないかどうか検討中である。
3.身体拘束廃止への取組みの方法
(1) ケアプランの工夫
○ 「どのような場合に転倒してしまうの か」といったアセスメントを行い、対応 策を決めるようにしている。
○ 拘束を行わず、適切なケアを継続するた めには、各利用者の状況をアセスメント し、その結果を職員に周知する必要があ る。週1回(土曜日または日曜日の午後)、
フロアごとにカンファレンスを必ず開催 し、対応策として文書に残すことで、入 所者の情報共有を徹底させている。その 他、毎日 16 時から 30 分程度、各フロア の代表者と看護師によるカンファレンス を開催している。
(2) 効果的な機器等
①コールマット
○ 状態のよくない方、ショートステイの利 用者で状態の分析が出来ない方には、ベ ッドの足元にコールマットを敷き、利用 者が起き上がるとナースコールが鳴るよ うにしている。ナースコールがなってか ら、ベッドサイドに駆けつけたとしても、
対応可能である。
②マットレス、布団等の使用
○ 転倒してもケガをしないよう、ベッドの
足元にマットレスを敷く場合もある。
<ベッドの足元に敷いたマットレス>
○ ショートステイは、基本的に在宅に戻っ た時に生活が維持できるよう、在宅で布 団を利用している場合は、布団を利用す る。
アセスメントにより、ベッドより布団の 方が安全に過ごせるような場合も、布団 を利用する。
③車椅子のずり落ち防止
○ 車椅子からのずり落ち防止のため、座面 にクッションを敷いている。
(3) 家族への対応
○ ショートステイの利用者について、家族 から「在宅の状況と同じようにしてほし い」と要請され、断りきれず、拘束をす ることがある。但し、マーゲンチューブ を使用している利用者の家族から、チュ ーブを抜いてしまわないように拘束して ほしいと言われたが、抜けたらまた入れ ればよいと考え、家族の理解を求め、拘 束は行わなかった。
○ 入所サービスの利用者の家族については、
入所の際に施設の方針を説明しているの で、拘束を希望する家族はいない。
(4) 職員の反応、教育や意識付け
○ 「よりよいケアとはどうあるべきか」に ついて話し合う際、関連のグループホー
ムで職員研修を行い、他施設の取組みを 学んだことが役立った。
○ 身体拘束廃止の取組みを始めた頃は、各 職員の拘束に対する考え方に相違があり、
足並みが揃わなかった。職員から「身体 拘束を廃止するのは危険である。業務量 が増えて対応出来ない。」といった意見が 出た場合、実際の状況を注意深く観察し た上で、身体拘束廃止の必要性について、
何度も話し合いを行った。中には、どう しても身体拘束廃止の方針に納得するこ とが出来ず、退職する職員もいた。
○ 現在は、身体拘束廃止の方針は、職員に 十分浸透していると考える。ここ数年、
中途採用が少ないため、「職員が以前在籍 していた施設で身体拘束を行っており、
当施設の方針と合わない」といった問題 もみられない。
○ 職員の研修の一環として、利用者や拘束 についての理解を深めるため、車いすに 1日座り、発語を一切禁止し、過ごすこ とを体験してもらうこともある。また、
1日、おむつや安全ベルトをつけてもら うこともある。
4.身体拘束廃止とアウトカム
(1) 身体拘束と事故との関連性
○ いつも事故が起こる危険性と隣り合わせ の状況ではあるが、それは拘束によって 解決される問題ではないと考える。
○ 安全ベルトをつけた場合、利用者が嫌が って、立ち上がった時に転倒するなど、
かえって危険なこともある。当施設の基 本指針には、身体拘束の弊害として、「関 節の拘縮、筋力低下、拘束部位の圧挫、
褥瘡といった直接的障害だけでなく、拘 束したために大きな身体的事故(転倒・
転落)が発生する危険がある。」と記載さ れている。
○ 管理職が拘束を検討しようとしても、現 場の職員から「拘束する方がかえって危 ない」という意見が出ることもある。
(2) 身体拘束と介護の質との関連性
○ 身体拘束を廃止したことによって、毎日 のケアが、タイムスケジュールに従うだ けの「日課をこなすだけの仕事」ではな く、利用者の立場にたった「個別的なケ ア」に変わった。
○ 入院をすると「歩けなくなる」と心配す る声や、下肢筋力をアップするためのス クワットなどが介護計画書に記載される ようになった。
5.身体拘束廃止と職員配置との関連性
○ 介護という用語の理解が人によって違う ため、やればやるほど業務は増加する。
支援計画にて必要に応じた支援が大切で ある。身体拘束の有無の問題ではない。
6.今後の課題
○ 出入口等に施錠することも、広い意味の 拘束に該当するのではないかと考え、施 設内の施錠を外していく取組みを進めて いる。
B特別養護老人ホーム(関東)~手続きや文書の整備から始まった取組み~
利用者数 70 人 看護職員数 2.9 人・介護職員数 19.5 人(職員配置 2.9:1)、社会福祉法人立
1.身体拘束に関する方針等
○ リスク管理委員会で作成された「緊急や むを得ない場合に於ける身体拘束の基 準」には、「(身体拘束が認められるのは)
切迫性、非代替性、一時性の3つの要件 を満たし、かつ、それらの要件の確認等 の手続きが極めて慎重に実施されている ケースに限られる」と記載されている。
○ 身体拘束を検討する場合は、まず「緊急 やむを得ない場合に於ける身体拘束報告 書」を記入し、1週間の観察を行う。そ の結果、やはり拘束が必要と判断された 場合は、「緊急やむを得ない身体拘束に関 する説明書」に家族の署名・捺印を頂く。
その後、一定期間の経過観察を行った後、
再度拘束の必要性の有無を検討し、解除 することになった場合は「身体拘束解除 に関する説明書」を家族に手渡している。
このように、細かく文書規定を整備する ことによって、職員がむやみに身体拘束 を行うことが出来ないようにした。
○
身体拘束を廃止するために、安全装置(コ ールマット、自動ブレーキの車椅子の使 用等)を利用している。しかし、安全装 置を使うこと自体、利用者に周囲から監 視されているような不快感を与え、拘束(間接拘束)になるのではないかと考え、
リスク管理委員会で「安全装置の取り付 け基準」、「安全装置取り付け申請書」、「安 全装置取り外し申請書」といった文書を 整備し、職員が安易に安全装置に頼るこ とのないようにした。
「安全装置の取り付け基準」では、安全 装置を取り付けてよい理由について、以 下のように定めている。
・車椅子チェアセンサー
起立、歩行が不安定にもかかわらず、頻 回に車椅子からの立ち上がりや、歩行をし ようとし、転倒の危険が極めて高い場合
・離床センサー
起立、歩行が不安定にもかかわらず、ベ ッドより起き上がり歩行しようとし、転倒 の危険性が極めて高い場合
・車椅子自動ブレーキ
トイレ、ベッドへ単独移動が可能である が、ブレーキのかけ忘れが多く、転倒の危 険性が極めて高い場合
2.身体拘束廃止の取組みの経緯と現状
○ 特に施設として廃止宣言をしたことはな いが、時代の流れで、身体拘束を廃止す るようになってきていた。利用者の入所 の際、家族に対する説明も行っていた。
○ 取組みの直接のきっかけは、平成 17 年9 月、リスク管理委員会において、文書を 整備することを決めたことだった。「所定 の手続きをとり、上司の了解を得なけれ ばならない」ということで、拘束がなく なった。また、いつ誰が拘束したか分か らず、データも残っていないといった匿 名性もなくなったことが効果的だった。
○ 平成 17 年9月以前には、拘束を行ってい るケースもみられたが、データが残って いないため、人数等の詳細は不明である。
文書を整備した平成 17 年9月の段階で、
拘束を行っていたのは、利用者 70 名中4 名であったが、急遽見直しを行った(ベ ッドの4点柵の解除、安全柵の移動バー への変更)。