第 3 章 第一壁への中性子入射スペクトル及びその非 Maxwell テイル診断への応用 70
3.3 中性子放出の非等方性を利用したノックオンテイル検証シナリオ
JETでDTプラズマにおけるアルファ粒子のNESによる燃料イオン分布関数上のノッ クオンテイルの観測が、中性子放出スペクトルの非Gauss成分の計測によって行われ、中 性子スペクトルの計測によるアルファ粒子閉じ込めの診断方法が提案されている [112]。核 融合プラズマ中のNES効果の実験的検証はこれまで数例しか無く、又これまで得られてい るデータもNES効果の定量的な理解を行うには非Gauss成分の測定精度が十分とは言い難 い。NES効果に関する実験データを拡充し、実験的な理解を深める事が、核融合炉の運転 を行う上で重要である。特に高エネルギー陽子によるNES効果は、D3He核融合炉の研究 を進める上で極めて重要である。陽子のNES効果の検証を現在の重水素実験プラズマで行 う事を目的として、重水素プラズマ中に3Heビームを入射して3He(d,p)4He反応率を増加 させ、その反応によって生成される15 MeV陽子のNESによる重陽子速度分布関数上に形 成されるノックオンテイルを、D(d,n)3He反応による中性子スペクトルの計測を行うとい う実験シナリオが提案されている[113]。しかしながら、評価された中性子放出スペクトル
の非 Gauss成分はGauss分布の2.5 MeVピークに比べて4桁以上小さく、十分な測定精 度が得られるのか、又トリトン燃焼による14 MeV中性子の減速成分に隠されてしまわな いかという心配がある。本節では、前節で提案した中性子放出の非等方性を利用した小さな
非Maxwellテイル診断方法をノックオンテイルに適用し、簡単な検討から中性子スペクト
ル計測によるノックオンテイル検証実験の一つの考えを示す。
これまで提案されているシナリオ[113]を引用し、磁気軸位置Rax = 3.6 mにビームパ ワー PNBI = 2.5 MW、ビームエネルギーENBI = 100 keV の3Heビームを入射した場合 を想定する。重陽子密度はnd = 8×1019 m−3、電子温度はTe = 20 keVの一様な分布を 仮定する。この時、重陽子速度分布関数には200 keVから10 MeV以上の領域にノックオ ンテイルが形成されており、その大きさはMaxwell分布のピーク値に比べて6桁以上小さ い。今後の議論では1 MeV成分の重陽子のみに着目し、単色エネルギーの重陽子によるス ペクトルの非Gauss成分とGauss分布のピークの大きさとを比較して測定精度向上の度合 いを議論する。この研究は特定の装置に拘らず一様な重水素プラズマを想定して行われた ためLHDの実験パラメータとは異なるが、本研究ではこの条件を引用して装置形状のみを LHDのものを適用し議論する。
図 3–21にプラズマ中心をピッチ角0◦ で運動する1 MeVの重陽子の無衝突軌道を示す。
磁気軸位置における磁場の大きさをBax = 2.74 Tとした。1 MeVの重陽子は全てピッチ 角0◦ であると仮定し、図3–21の軌道上から非Gauss成分中性子の発生位置を生成する。1 MeV重陽子の反応による中性子スペクトルを計算する際に、バルク重陽子の熱運動を無視 し、反応の微分断面積は重心系で等方とする。バルクイオン同士の反応によるGauss成分 中性子は、主半径3.6 m、小半径0.3 mの円形断面トーラス内から一様に等方的に放出する と仮定する。真空容器壁形状は式 (2–64)を用いて、主半径3.9 m、小半径1.6 mの円形断 面トーラスを仮定する。
図3–22に体積平均中性子放出スペクトルを示す。本節では、Gauss成分と非Gauss成分 との相対的な大きさが入射位置及び角度によってどう変化するかに着目するため、それぞれ の成分をそれぞれの成分の中性子発生量で規格化したものを示している。後に示す入射スペ クトルも同じ値で規格化したものである。
図 3–23に(a)全壁面位置θ に対する、(b)θ = 0◦ の位置における中性子入射エネルギー スペクトルを示す。前節までの議論と同様に、θ = 0◦ の位置で非Gauss成分の全中性子エ ネルギーが観測され、その大きさが最も大きい。一方Gauss成分の中性子は、全壁面位置に 同じエネルギー範囲で分配されている。
図 3–24に壁面位置θ = 0◦ における(a)全トロイダル入射角分布に対する、(b)ιt = 45◦ に対する中性子入射スペクトルを示す。トロイダル入射角ιt = 45◦ で、2.5 MeVより高エ ネルギー側の非Gauss成分が最も多く観測される。Gauss成分中性子はιt = 50◦及び130◦ で最も多く観測される。従って、この壁面位置及び入射角に相当する視線で計測すること ができれば、放出スペクトルの場合に比べて入射スペクトルにおける非 Gauss成分と2.5
MeVピークとの比を2桁以上減らす事ができる。前節のようにポロイダル入射角ιp = 90◦ に限定すれば、更にその差は小さくなる。この事は中性子放出スペクトルの非Gauss成分
がGauss分布に比べて4桁以上小さいようなノックオンテイルの観測に有利である。
LHDでは重水素実験期間中に中性子スペクトル計測器を導入する事が検討されている。
本節で検討したプラズマ条件はLHD重水素実験のパラメータとは異なるものであり、入射 スペクトルの解析は非常に簡単化したモデルによっている。今後LHDにおいて中性子スペ クトル計測による陽子のNES効果の観測を行う場合、実験条件をLHDのものに合わせた 重陽子分布関数評価及び分布関数をより正確に考慮した中性子入射スペクトルの解析が必要 である。
0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 0
3 6 9 12 15 18
n i
q T
i
T i
,T e
[keV]
Normalized flux T e
0 1 2 3 4 5 6
n i
[×10
19 m
3 ],q
図3–1 イオン密度、電子及びイオン温度、安全係数の径方向分布。
3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 -5
-4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 5
R w
= 6.25 m
a w
= 2.25 m
w
= 0.5
w
= 2 Flux surface
z [m]
R [m]
R maj
= 6.2 m
a = 2 m
= 0.48 × (r / a ) 2
= 1.85
First wall
図3–2 第一壁及び壁面形状。
10 0
10 1
10 2
10 3 10
10 10
11 10
12 10
13 10
14 10
15 10
16 10
17 10
18 10
19
E NBI
= 1 MeV Non-Maxwellian
(4v/m d
)f d
[m
3 keV
1 ]
Deuteron energy [keV]
P NBI
= 33 MW
T d
= 8 keV
n d
= 5.05 × 10 19
m 3 Maxwellian
(a)
-1.0 -0.5 0.0 0.5 1.0
0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2
(b)
v
||
/ v NBI v/vNBI
1.00x10 -7 6.57x10
-7 4.32x10
-6 2.84x10
-5 1.86x10
-4 1.22x10
-3 8.05x10
-3 5.29x10
-2 3.47x10
-1 2.28x10
0 1.50x10
1
f (v
||
,v ) [m 6
s 3
]
図3–3 重陽子の(a)体積平均エネルギー分布関数、(b)二次元速度分布関数。
11 12 13 14 15 16 17 18 10
7 10
8 10
9 10
10 10
11 10
12 10
13 10
14 10
15
dN/dE n
[m
3 s
1 keV
1 ]
Neutron energy E n
[MeV]
Gaussian
component
Non-Gaussian
component
図3–4 体積平均中性子放出スペクトル。
11 12 13 14 15 16 17 18 10
8 10
9 10
10 10
11 10
12 10
13 10
14
90°
180°
(b)
d
2 N/dE n
/d[m
3 s
1 keV
1 sr
1 ]
Neutron energy E n
[MeV]
= 0°
図3–5 (a)全放出角χ、(b) χ = 0◦、90◦ 及び180◦に対する体積平均二重微分中性子 放出スペクトル。
11 12 13 14 15 16 17 18 10
8 10
9 10
10 10
11 10
12 10
13 10
14 10
15 10
16
180°
90°
(b)
(dN/dE n ) incident
[m
2 s
1 keV
1 ]
Neutron energy E n
[MeV]
= 0°
図3–6 (a)全壁面位置θ、(b) θ= 0◦、90◦及び180◦における中性子入射エネルギースペクトル。
0 30 60 90 120 150 180 10
14 10
15 10
16 10
17 10
18
Non-Gaussian
component dN/d p
[m
2 s
1 rad
1 ]
Poloidal incident angle p
[deg.]
= 0°
Gaussian component
図3–7 壁面位置θ= 0◦におけるポロイダル入射角分布。
図3–8 ポロイダル入射角、プラズマ端及び第一壁の幾何学的関係。
11 12 13 14 15 16 17 18 10
11 10
12 10
13 10
14 10
15
137°
d
3 N/dE n
/d t /d p
[m
2 s
1 keV
1 rad
2 ]
Neutron energy E n
[MeV]
(b)
= 0°
p
= 90°
t
= 43°
図3–9 壁面位置θ= 0◦、ポロイダル入射角ιp = 0◦における(a)全トロイダル入射角 ιt、(b) ιt = 43◦及び137◦に対する中性子入射スペクトル。
図3–10 トロイダル入射角、NBI方向、プラズマ端及び第一壁の幾何学的関係。
14.0 14.5 15.0 15.5 16.0 16.5 17.0 17.5 10
-6 10
-5 10
-4 10
-3 10
-2 10
-1 10
0 10
1 10
2
incident
emission
emission
, incident
Neutron energy E n
[MeV]
= 0°
p = 90°
t
= 137°
10 0 10
1 10
2 10
3 10
4
図3–11 壁面位置θ= 0◦、ポロイダル入射角ιp = 0◦及びトロイダル入射角ιt = 137◦ におけるパラメータεemission、εincident及びηの中性子エネルギー依存性。
θ
Torus part
Trench part
θ
Trench part (a)
Torus part Trench part
x y
O
t
neutron (b)
R
axNBI
t
図3–12 (a)ポロイダル断面における、(b)赤道面における壁面形状、壁面位置を表す ポロイダル角θ、NBI方向及びトロイダル入射角。
0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1.0 0.0
0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 4.5 5.0 5.5
T d
= 5 keV
T d
Normalized radius Density n d
[×10
19 m
3 ]
n d
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11
TemperatureT d
[keV]
図3–13 重陽子密度及び温度の径方向分布。
10 0
10 1
10 2 10
12 10
13 10
14 10
15 10
16 10
17 10
18 10
19
(4v /m d
)f d
[m
3 keV
1 ]
Deuteron energy [keV]
n d
(0) = 2 × 10 19
m 3
T d
(0) = 10 keV
E NBI
= 180 keV
P NBI
= 5 MW
Maxwellian
図3–14 プラズマ中心における重陽子速度分布関数
3.58 3.60 3.62 3.64 3.66 3.68 3.70 3.72 3.74 3.76 3.78 -0.10
-0.08 -0.06 -0.04 -0.02 0.00 0.02 0.04 0.06 0.08 0.10
z[m]
R [m]
(a)
-4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4
-4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4
(b)
y[m]
x [m]
図3–15 ピッチµ = 1及び180 keVでプラズマ中心で発生した重陽子の(a)ポロイダ ル面、(b)水平面における軌道。
1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 10
8 10
9 10
10 10
11 10
12
(dN/dE n ) emission
[m
3 s
1 keV
1 ]
Neutron energy E n
[MeV]
Gaussian
図3–16 体積平均中性子放出スペクトル。
1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 10
9 10
10 10
11 10
12 10
13
(b)
= 90°
= 0°
d
2 N/dE n
d [m
3 s
1 keV
1 sr
1 ]
Neutron energy E n
[MeV]
= 180°
図3–17 (a)全放出角χ、(b)χ= 0◦、90◦及び180◦に対する体積平均二重微分中性子 放出スペクトル。
0 90 180 270 360 0.0
0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 1.4
Neutron flux [×10
14 m
2 s
1 ]
Wall position [deg.]
= 0°
図3–18 トロイダル角ϕ= 0◦における壁面位置θの入射中性子束分布。
1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 10
10 10
11
= 18°
= 0°
= 180°
dN/dE n
[m
2 s
1 keV
1 ]
Neutron energy E n
[MeV]
= 0°
図3–19 トロイダル角ϕ= 0◦及び18◦における壁面位置θ= 0◦及び180◦に対する中 性子入射エネルギースペクトル。
1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 10
10 10
11 (b)
t = 145°
t = 90°
d
2 N/dEn /dt
[m
2 s
1 keV 1 rad
1 ]
Neutron energy E n
[MeV]
t = 35°
1.5 2.0 2.5 3.0 3.5
10 10 10
11
d
2 N/dEn /dt
[m
2 s
1 keV 1 rad
1 ]
Neutron energy E n
[MeV]
(d)
t = 130°
t = 90°
t = 50°
図3–20 トロイダル角ϕ= 0◦の壁面位置θ = 0◦における(a)全トロイダル入射角ιt、 (b) ιt= 35◦、90◦及び145◦に対する中性子入射スペクトル。トロイダル角ϕ= 18◦の 壁面位置θ= 0◦における(c)全トロイダル入射角ιt、(d) ιt= 50◦、90◦及び130◦に対 する中性子入射スペクトル。
3.5 3.6 3.7 3.8 3.9 4.0 4.1 -0.3
-0.2 -0.1 0.0 0.1 0.2 0.3
(a)
z[m]
R [m]
-5 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 5
-5 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 5
y[m]
x [m]
(b)
図3–21 ピッチµ= 1及び1 MeVでプラズマ中心で発生した重陽子の(a)ポロイダル 面、(b)水平面における軌道。
1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5 10
-5 10
-4 10
-3 10
-2 10
-1 10
0 10
1
By 1-MeV deuteron
(Non-Gaussian component)
(dN/dE n ) emission
[a.u.]
Neutron energy E n
[MeV]
By thermal deuteron
(Gaussian component)
図3–22 中性子発生量で規格化した中性子放出スペクトル。
1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 4.5 10
-5 10
-4 10
-3 10
-2 10
-1 10
0 10
1
= 0°
(b)
dN/dEn
[a.u.]
Neutron energy E n
[MeV]
By 1-MeV deuteron By thermal deuteron
図3–23 中性子発生量で規格化した(a)全壁面位置、(b)壁面位置θ= 0◦における中性 子入射エネルギースペクトル。
1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 4.5 10
-3 10
-2 10
-1 10
0 10
1
d
2 N/dE n
/d t
[a.u.]
Neutron energy E n
[MeV]
= 0°
t = 45°
(b)
By 1-MeV deuteron
By thermal deuteron
図3–24 中性子発生量で規格化した壁面位置θ = 0◦ における(a)全トロイダル入射角 ιt、(b) ιt = 45◦に対する中性子入射スペクトル。