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中性子でみる物質中の 揺らいだ縞模様

ドキュメント内 物理予稿01- (ページ 30-33)

東北大学金属材料研究所 山田

や ま だ

和芳

か ず よ し

物質を構成する天文学的な数の原子や電子、

そして磁性を担うスピンは物質中で集団運動をし ていて、空間的にも時間的にも常に揺らいでいま す。この揺らぎの研究が超伝導などの物性をミク ロな立場から理解するうえで大変重要です。その 揺らぎは、決して無秩序なものでなく、あるパ ターン(多くの場合縞模様のようになっています)

を形成しています。このような揺らぎの時間的、

空間的なパターンをみるのに中性子は欠かせない 大切な道具の一つです。

中性子は原子核を構成する素粒子の一つです が、原子炉や加速器で取り出すことができます。

取り出した中性子ビームを使いやすい温度(エネ ルギー)にまで冷やし、高輝度化し、取り出し方 向と検出方向を精密に制御した中性子散乱実験 を行うと、物質中のこのような揺らいだ縞模様を みることができます。特にスピンの揺らぎのパ ターンをみるのは中性子ビームの独壇場です。た だし通常の散乱実験では縞模様の揺らぎを波とし て分解したときの周波数と周期の分布が見えるの で、 私たちが見慣れた縞模様として見るには、

フーリエ変換という数学的な操作が必要です。

物質中の、特に電子が関わる縞模様は、いわゆ る強相関電子系と呼ばれる物質群によく見られま す。20 年前に大フィーバーを巻き起こした銅酸化 物高温超伝導体は、その典型的なもので、現在も 多くの科学者をとりこにしている魅力的な研究 テーマです。超伝導体となる銅酸化物には様々な 種類がありますが、どの物質にも共通して銅と酸 素がつながった平面(Cu ─ O 面)があります。この Cu ─ O 面に半導体のドーピングと同じようにキャ リヤーを注入(ドープ)すると低温で超伝導が現 れます。図 1に銅酸化物超伝導体にキャリヤーを ドープした場合の電気伝導の変化と、それに対応 したスピンの縞模様の様子を概念的に示します。

ドープする前は、銅のスピンが反強磁性的にそ ろっています(図 1(a))。この反強磁性絶縁体に 数%のキャリヤーをドープすると、燐をドープし たシリコンなどと同じ半導体になり、さらに注入 を続けると、ついには低温で超伝導体となります。

さらにキャリヤー量を増やすと、超伝導は弱まり、

通常の銅などと同じような磁性が関係しない金属 東北大学金属材料研究所・教授。理学博士。

1972 年東北大学理学部物理学科卒業。1978 年東北大学大学院理学研究科博士課程 修了。1994 年東北大学理学部助教授、1998 年京都大学化学研究所教授を経て、

2003 年より現職。

専門は中性子散乱による固体物理。特に磁性。現在は超伝導と磁性の相関に関心を もつ。

2005 年中性子科学会第 3 回学会賞受賞。

になります。超伝導が出始めの状態は、磁性と電 気伝導の関係が強く、様々な異常な性質を示すの で、異常金属とも呼ばれています。

中性子散乱を使うと、キャリヤーの注入によっ て、スピンの縞模様がどのように変化していくか を系統的に調べることができます。スピンの縞模 様の信号は大変弱く、まだまだ未解明な部分はあ りますが、最近の研究でわかってきた事実を説明 します。図 1(a)の反強磁性絶縁体の中に、1 〜 5 %程度のキャリヤーを注入すると、スピンの縞 模様は図 1(b)のようになります。斜め方向に何 か縞模様が見えます(図の中の 2 つの丸がキャリ ヤーを表しています)。この図は中性子散乱から 得られた散乱強度のパターン(例えば図 1(c))を 説明するように、あるモデルをもとに計算した結 果です。異なるモデルに基づいて似たような縞模 様も描けますが、将来もっと精密な中性子散乱実 験ができればどのモデルがいいかがはっきりするは ずです。またごく最近の中性子散乱実験の結果か

らは、このようなスピンの縞模様は、スピンが揺 れ動く周波数によって変わってくること、そして キャリヤーの動きやすさと密接に関係しているこ とが明らかになりました。例えば超伝導相に入る と、斜め方向にできていた縞模様(図 1(d))が横 方向に突然変わります(図 1(e))。これはキャリ ヤーの動きやすさが超伝導相で増加し、金属状態 になったためとも考えられますが、まだ最終結論 は出ていません。また、銅の位置をニッケルなど の異種金属で置換えると、キャリヤーがニッケル の周りに強く束縛され(キャリヤーの局在化)、元 の絶縁体のようなスピンの配列(図 1(a))に戻る ことが明らかになりました。

中性子散乱でわかったもう一つ重要な事実は、

通常金属相ではスピンの縞模様が消えてしまうこ とです。キャリヤーが過剰に入りすぎると、超伝 導は消えてしまいますがそれと同時にスピンの縞 模様もなくなります(図 1(f))。このことはスピン の縞模様、あるいはそれを形成するための磁気的

31 図 1 中性子でみた銅酸化物超伝導体のスピンの縞模様

銅酸化物超伝導体にキャリヤーをドープした場合の電気伝導の性質の変化と、それに対応したスピンの縞模様の様子を概念的に示す。

(b)はDr. Juricic の博士論文(Field-Theoretical Studies of a Doped Mott Insulator ISBN:90-393-4266-0)から引用(P.68, Fig.4.3)。

相互作用が超伝導と非常に深く関係していること を示唆しており、高温超伝導のメカニズム解明の 重要な足がかりになると考えられています。

このように中性子は重要な実験手段ですが、実 験を行うには、研究用原子炉や大型の粒子加速 器が必要で、そのため中性子散乱実験が出来る施 設は世界的にも限られています。現在、日本では 茨城県東海村の日本原子力開発機構(JAEA)に ある研究用 3 号炉で本格的な実験が可能です。ま た 2008 年度には同じ JAEA 内に J-PARC という 大型加速器を用いた研究施設が完成し、その中に パルス中性子を使った、世界トップクラスの中性 子散乱研究のできる物質生命科学研究施設がス タートします。このような実験施設は巨額の資金 を投入して作られる人類全体の重要な知的財産 で、多くの研究者が有効に使うことができるのが 理想です。そのためにも、コラボラトリーといっ た考え方に立った利用法も今後多いに検討される 必要があります。

ドキュメント内 物理予稿01- (ページ 30-33)