第 3 章 中国鉄鋼業における省エネ推進への提言
Ⅰ 中国鉄鋼業における省エネとその関連要因
まず、中国における省エネの状況を把握する必要がある。中国における鉄鋼業の省エネ はどう評価すべきなのか、そしてそれを取り巻く要因、つまり政府の省エネ政策およびエ ネルギー資源価格はどのような状況であるのかを確認していきたい。ここで確認していき たいのは、第1に中国鉄鋼業はどの程度省エネがすすんでいるのか、第2に、日本におい てそうであったように、政府の政策およびエネルギー資源価格が鉄鋼業の省エネに対して インセンティブを与えているのかいないのかを検証することである。
1)中国鉄鋼業における省エネの概況
まず、中国鉄鋼業においてどの程度省エネがすすんでいるのかを明らかにしていきたい。
図 表 3 − Ⅰ − 1を参照していただきたい。これは、中国鉄鋼業における粗鋼トンあたりの 総エネルギー消費量の推移である48。粗鋼生産量は伸びており、いまや世界第1位となるま でに成長している一方で、粗鋼1トン当たりのエネルギー消費量は着実に減ってきている。
生産面で拡大している一方で、中国鉄鋼業における省エネは確実にすすんできたことが分 かる。80年代から90年代中盤にかけての急激な経済成長によってエネルギー供給面で
48 「中国における鉄鋼業のAIJ等に関する調査」日本鉄鋼連盟p.12
の負担が高まり、需要面でのエネルギー節約が必要となったことも大きな要因であろうが、
80年代と比べると、かなり省エネがすすめられてきており、一定の成果をここにみてと ることができる。
それでは、中国鉄鋼業の省エネはこれ以上余地の無いほどすすんでいるのだろうか。こ こで、日本のレベルと比較して省エネの度合いを検証してみると、省エネの余地が相当程
図表 3−Ⅰ−1
中国鉄鋼業における粗鋼生産量および粗鋼トンあたりエ ネルギー消費原単位の推移
0 2000 4000 6000 8000 10000 12000
1980 1985 1990 1994 1995 1996
年
100万t
0 0.5 1 1.5 2 2.5
粗鋼生産量(100万t) 粗鋼トンあたりエネルギー消費原単位
出所:『中国鋼鉄工業年鑑』より作成
度残されていることがわかる。最新のデータから計算してみると粗鋼トン当たりのエネル ギー消費原単位は、1998年で日本が0.488であるのに対し49、中国のそれは0.5 65である50。ちなみに日本では、第一次石油危機が訪れた1973年で0.541であり、
中国鉄鋼業における省エネの潜在力の大きさがうかがえる。すなわち、設備投資といい、
操業改善といい、まだまだ余地があるといえるのである。また、中国鉄鋼業は約2000 万トン標準炭分の省エネが可能であるという見方もある51。1995年に中国鉄鋼業で消費 した総エネルギーは約1億3000万トン標準炭であることを考えると52、2000万トン 標準炭という数字の大きさがご理解いただけるだろう。さらに、生産コストに占めるエネ ルギーコストの割合を日中で比較してみると、日本が16%であるのに対し53、中国では2
49 「鉄鋼統計要覧2000年版」鉄鋼統計委員会編、鉄鋼連盟、鉄鋼倶楽部共同発行
50 「鉄鋼統計要覧2000年版」、「Energy Statistics of Non-OECD countries 2000Ed.」より計算
51 「中国の最近の省エネルギー動向について」p.6
52 「中国における鉄鋼業のAIJ等に関する調査」日本鉄鋼連盟p.12
53 「一貫製鉄所内の省エネルギー対策とその成果」1995 日本鉄鋼連盟 p.11より
5%となっている54。日本に比べると、依然として格段の差が存在するのである。
具体的に設備投資の比較も行ってみたい。図 表 3 − Ⅰ − 2に示しているのは、日本と中 国の連続鋳造設備の導入割合の比較である55。
連続鋳造設備については1999年までで中国は68.9%まで伸ばしてきているもの 図表3−Ⅰ−2
連続鋳造設備の導入比率
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 年度
%
日本 中国
出所:『鉄鋼統計要覧』より作成
の、日本の97.2%と比べると差は歴然としている56。
つまり結論として、中国鉄鋼業における省エネは、その取り組みはなされてきたものの、
省エネの余地は依然として大きく、現時点では不十分であるといえるのである。それでは、
中国鉄鋼業の省エネを取り巻く状況はどうなっているのであろうか。すなわち、政府によ る省エネ政策とエネルギー資源価格は、中国鉄鋼業の省エネに対するインセンティブとな りえているのだろうか。以下、検討していきたい。
2)政府の省エネ政策
1 . 体制・法規の変化
図 表 3 − Ⅰ − 3を見ると分かるように57、中国の省エネ政策は90年代中盤以降変化して
54 「中国における鉄鋼業のAIJ等に関する調査」日本鉄鋼連盟p.9
55 新日鐵古川氏プレゼンテーション資料より
56 「鉄鋼統計要覧2000年度版」p46
きている。
機関は減っているが、法規は整ってきている。人治から法治への転換であり、法律の 整備が進められている時期であるといえる。特に1997年に可決され、翌1998年 から施行となった省エネ法では「国の役割」、「省エネ技術の開発・普及」などについて 定められており、省エネを「経済発展のための長期的、戦略的方針」とはじめて位置付 けたものであり、画期的な内容である58。
図表 3−Ⅰ−3 中国の省エネルギー体制
80年代 90年代中盤以後 省エネ体制
行政手法
国務院に節能弁公会議を設置、国家 計画委員会・国家経済貿易委員会に 節能局を設置、国務院の各部・委員 会、地方政府の庁(局)に節能処を 設置、同時に処の下に実務機関「節 能中心(省エネセンター)と「節能 観測所」を設置、企業には節能処ま たは節能課を設置する。
(殆どは国有企業である)
国務院は節能弁公会議を廃止、国家計 画委の局が処に変更。国家経済貿易委 員会には資源節約と総合利用司を設 置、内部に節能節材処を設ける。国務 院所属の各部を廃止、地方の庁(局)
には省エネの専管処・室がなくなる。
企業の節能処・課室がほとんど廃止、
節能中心は政府から切り離され、一部 のセンターは市場に参入し、節能服務 公司に変身する。
省エネ法規 法的手法
国務院節能管理条例・部門業種省エ ネ基準・エネルギー使用準則・企業 レベルアップ評価
省エネ法、地方節能管理条例、企業エ ネルギー消費限度枠管理など
出所:『中国の最近の省エネルギー動向について』兌彦得