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中国地域・市場に関する主要な動向-大連地区を中心に-

第2章 マクロな視点から現代中国の労使関係を考える-

2 中国地域・市場に関する主要な動向-大連地区を中心に-

第3章 現地と本社からみる日系企業の現状

1 はじめに

本章では、これまでに実施したヒアリング調査を総括的にまとめる。大きくは

2

つに分か れ、前半の第

2、3

節は

2013

12

月に実施した大連地区における日系企業への聞き取り調 査の結果である。それらは、 『中国進出日系企業の基礎的研究Ⅱ』(2015 年、労働政策研究・

研修機構、資料シリーズ

No.158)で既にとりまとめている。詳しくは、そちらを参照して

いただきたい。第

4

節以降の後半は、2016 年以降現在まで実施した、日本側本社における

インタビュー調査とコンサルティングの立場からみた日系企業の現状に関するインタビュ

ー、そして、実際に中国で企業の総責任者として赴任されていた方へのインタビュー調査結

果をまとめている。それらを通して、現在、日系企業が直面している問題の姿を素描してみ

たい。

③岐路に立つこれまでの主要なパターンの変化

製造業を念頭におくならば、これまで主要なパターンとなっていたのは、言うまでもなく いわゆる「持ち帰り」型(中国で作り、日本に輸出)である。安価な労働コストを頼りとし た製造・販売戦略であった。

しかしながら、今、上で述べたように人件費が急上昇してくると、労働コストを中心とし たコストの全体が上昇し、「持ち帰り」パターンが成立する重要な要素が極小化しつつある。

そうした際、では、これまでこのパターンで事業を展開してきた企業が、中国地場企業、

もしくは、他国の外資系企業など、これまでとは異なる取引先と事業を展開するように、戦 略転換がスムースにできるのかといえば、相当困難である。これからの基本的な方針をいか に設定するのか、日系企業はその選択を迫られている。

④系列企業の進出も、相当慎重となる

以前ならば、主要な取引先、中でも親会社の位置にある企業が進出すると決断した場合に は即座に自らも中国進出を決めるということが多かったようであるが、現在ではその決断が 相当慎重になりつつある。それだけ、市場の動向を予測することが困難になりつつあるから であろう。

⑤「撤退」の手間とコスト

ビジネス環境が激変する中で、最終的に「撤退」という選択をする企業が確実に出てきて いる。大手製造業の事例が報道されることもあるが、その際、問題となるのは「撤退に伴う 手間とコスト」である。

特に、製造業を念頭におくならば、ヒトに関する整理には、時間を含めて様々で膨大なコ ストが必要となる。具体的には、経済補償金と税務登録の抹消である。前者は、従業員が勤 務した年数にあたる月数の給与を支払うことであり、後者も行政府への手続きが相当煩雑と なっている。そうした少なくない手間とコストをかけてさえ本当に撤退をするのか、そうし た判断も企業は迫られつつある。

⑥中国以外のエリアへと移動?

企業にとって魅力のある安価な労働コストという要素が徐々に消えつつあるならば、企業 として取り得る選択の一つは、中国以外の国・エリアへと移動・移転することである。可能 ではあるが、これも様々な困難を伴う。

単純に人件費などのコストだけを比べれば、かつて「チャイナ・プラス・ワン」とも称さ

れたように、東南アジア諸国へと移転したほうが効率的であろう。しかしながら、これまで

その進出先となる国やエリアとの関わりがまったくない場合には、当然のことながら文字ど

おりすべて「一から始める」ことが必要となる。そのコストをいかに捉えるのかが問題であ

る。いかに人件費が急上昇しているとはいえ、中国におけるオペレーションでは、20~30 年に及ぶ様々なノウハウの積み重ねがある。それらがゼロ、もしくはほとんどないエリアで、

ノウハウをこれから一つずつ獲得していく、その新規開拓のコストを比較考量した時、企業 は、あくまでも生産拠点としての中国、もしくは、製品・サービスの市場としての中国なの か、その位置づけと基本戦略の選択を今、迫られている。

⑦労働市場の動向

以前よりも、労働市場の動向は落ち着いているように思われる。離職率をみると、ワーカ ー・クラスでは、年間

3

割程度で有り、ホワイトカラー層では、1 割程度となっている。や や沈静化しつつある。

⑧労使関係

中国は、基本的には社会主義の精神もあり、法制度などをみても、労働者保護という色彩 が強い。その一方で工会をみると、韓国で見られるような対立的な労使関係ではなく、労使 協調的な存在となっている。

工会に関しては、「従業員

10

名以上であれば、外資系企業でも工会を設立させる」とい う方針を中華全国総工会が

2013

年に立てているが、実際に方針どおりに設立しているか否 かは状況により異なる。工会を通じて従業員を管理することができるなどのメリットがある 反面、経費負担などの面もある。

⑨地方政府の対応、姿勢

日系をはじめとする外資系企業をさらに誘致するとは言いながら、かつてのような優遇措 置を講じる訳でもない。また、そこで働く外国人社員に対して、中国の社会保険に加入させ るというプランも検討されている。そうした状況では、新規の進出が望める訳ではない。政 策がばらばらである。

税収が減少傾向にある反面、支出は増加しているため、さらに何らかの形での税負担が増 加する可能性がある。移転価格税などとにかく取れるところ、取りやすいところから徴収す るという事態に陥る可能性もある。

これらの諸点をみるだけでも、日系企業は、刻々と変わり続ける変化の中でオペレーショ

ンを続け、今後の戦略を検討していくことが求められている。