文|
劉 穎
5 月のBプログラムではタン・ドゥン作曲の《女書:The Secret Songs of Women
〜 13 のマイクロフィルム、ハープ、オーケストラのための》が世界初演され ます。この曲は湖南省南西部の江永県で女性だけの間で伝承されてきた女書
(ニュウ・シュウ)の文化をテーマとしています。女書の研究家、劉穎さんに 特徴と魅力を紹介していただきます。
(N響ホームページ http://www.nhkso.or.jp/library/kaleidoscope/3392/ にも 掲載されています)
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特別寄稿とにのみ使われました。
日本における女書研究の第一人者 である遠藤織枝先生によると、女書 文字は 450 字ほどあります。そのほ とんどは漢字に由来したものだと言 われています。漢字と異 なるのは、女書文字は表 意文字ではなく、表音文 字だということです。漢 字から作られた文字だと 言われていますが、四角 く硬いイメージの漢字と は異なり、上右から左下 へと書く細長菱形の文字 で、とてもなめらかで繊 細な文字です。
女性が漢字を学ぶチャンスの少な かった時代には、女書文字が書ける 人も多くはありませんでした。した がって、女書文字が書ける女性は
「蚊文字」と呼ばれた「女書文字」
「女書」は中国湖南省江永県の山 村で発見された女性の間だけに伝わ る̶̶いや、伝わったという方が正 しい̶̶消滅寸前の特殊な文字だ、
という解釈が一般的です。
しかし、「女書」と言っ た場合は文字のみを指す のではなく、その文字で 綴られた作品も含まれま す。従って以下の文中で は、この文字とそれで書 かれた作品を指す場合は
「女書」、文字のみを指す 場合は「女書文字」、作 品のみを指す場合は「女
書作品」を使うことにします。女書 文字は実用文や契約書などにはまっ たく使われず、すべて現地の女性た ちが口ずさむ韻文の歌を書き記すこ
女書文字の書かれたハンカチ/女 書伝承者から筆者へのプレゼント
(筆者提供)
「君子女(ジゥン・ズー・ニュウ)」と 自称していたそうで、たいへん誇ら しい存在でした。
女書文字は、いつ、誰によって作 られたかは、伝説や学者の仮説はあ るものの、いまだに解明されていま せん。収集された女書資料の鑑定に よると、現存の最古資料でも 300 年 ほどしか経っていないものです。よ り古いものが出ない理由としては、
現地の女性が亡くなったとき、その 親戚や親友たちが、彼女が持ってい た女書作品をあの世に持って行って もらうために焼いてしまったからだ、
と考えられています。
女書文字について記述されている 最も古い文献は、80 年ほど前の『湖 南各県調査筆記』(1931 年 7 月)で す。この文献では、女書について以 下のように述べられています。
「江永県に花山廟という寺があり、
毎年 5 月にお参りに来る各村の女 性たちは、線香を立てて、詩歌が書 かれている扇子を手に合唱して祀る。
扇子に書かれた文字は極めて小さく て細く、モンゴル文字に似ている。
江永県のどこを探しても、この文字
を知る男子は見当たらなかった。」
古い文献に女書に関する記載がな い理由として、それが女性の間でし か伝わらなかったからだということ が考えられます。実際に、研究者が 調査に行くまでは、現地の男性たち は、この細長い女書文字に「蚊文 字」や「長足文字」とあだ名をつけ て、バカにしていたそうです。
生活の中で女たちが歌った
「女書作品」
女書作品はほとんどが七言句の韻 文です。主な内容は女性たち自身の 暮らしぶりや波瀾万丈の人生、ある いは自分の喜怒哀楽を訴えたりした ものです。
江永県は、山紫水明の自然環境 に恵まれ、比較的豊かなところで す。女性たちは農作業をせず、自宅 で「女紅(ニュウ・ゴーン)」と呼 ばれる針仕事をするのが一般的でし た。昔は外からの強盗を防ぐために、
村の家は軒という軒がみな連なって、
迷路のように密集して作られていま した。そのため、女性たちが 1 か 所に集まって女紅をするのにとても
女書の里・河淵村の密集して建てられている家々(筆者提供) 豊かな自然環境と畑に囲まれている 河淵村の風景(筆者提供)
﹁女 書︵ ニュ ウ・ シュ ウ︶
﹂と は?
Philharmony May 2013
が義理の姉妹を結ぶ「結拝姉妹(ジ ェー・バイ・ズー・メイ)」の風習もあ り、いったん結拝姉妹になったら、
生涯を通して実の姉妹よりも親しい 関係を持ちつづけました。承諾した 印として女書作品を作り、互いに歌 い聞かせてから、女書文字で書き 記した小冊子を渡すのでした。いま の人はその小冊子を「結交書(ジェ ー・ジァオ・シュー)」と呼んでいま す。
女書作品を大勢で歌って楽しむほ かに、一人で楽しむこともありまし た。その代表的なものは自伝です。
娘の時代から嫁いだ後の暮らし、さ らに老後までの出来事に、自分の苦 しみ、悲しみを綴り、結拝姉妹など に歌って発散するのです。以下はあ る自伝の一部分です。
便利でした。また、江永県には女性 だけが集まる祭日「闘牛節」や「納 涼節」があるうえに、花嫁を送り出 すために女性たちが一堂に集まって 三日三晩歌い続ける「坐歌堂(ズォ ー・グー・ターン)」の風習や、新婚 3 日目に「賀三朝(フー・サーン・
ジァオ)」の風習があり、花嫁の親 族や友人が女書文字で書かれた祝い の歌の「三朝書(サーン・ジァオ・シ ュウ)」を嫁ぎ先に持って行き、女 書文字がわかる女性に歌ってもらっ て花婿の家に伝えるのでした。それ らの習慣や風習ではみな女性たちが 主役なのでした。 彼女たちは、そ のつど、みんなで好きな歌を合唱し たり、自分の新作を披露したりする ことによって、生活の中の悲しいこ とや寂しい思いなどをぶちまけるの です。女書文字が書けない人は後 日、自分の大好きな歌やこれからも 取っておきたい歌、または誰かにプ レゼントしたい歌を女書文字が書け る「君子女」に頼んで、紙や小冊子、
または扇子やハンカチに書いてもら うのでした。
また現地では、話が合う女性同士
河淵村の底が透き通って見える小川と古い橋 ©Tan Dun 女書最後の伝承者、
何艶新さん
©Tan Dun
女書文化は、誰にも止められない社 会の発展と時代の変遷につれて消え つつあります。女書文化の保護と宣 伝がとても大事です。できるだけ多 くの人に素晴らしい女書文化を知っ てほしいと願っています。
ここ数年来、いろいろな分野で女 書文化が取り上げられてきました。
書道家は繊細な女書文字の美しさに 着目し、音楽界では女書の吟唱と現 代舞踊と結び舞台芸術にアレンジ、
さらに 2010 年には、女書文化に題 材をとった映画『雪花与密扇』も中 国国内で公開されました。このよう な一連の活動によって、女書文化の 知名度はかなり高くなったのです。
今回、女書の吟唱を取り入れた管 弦楽作品が誕生するということは、
より一層多くの人に女書文化を知っ てもらうことになるでしょう。女書 研究に携わっているものとして非常 に喜ばしいことで、大いに期待して います。
(LIU YING リュウ・イーン
成城大学教授)
このように、普通の農家の女性で もみな自分の人生を自伝に綴り、人 に訴えるのです。
女書のもう一つの特徴は吟唱とい う表現法です。女書は、かならず歌 って創作し、歌って相手に伝え、歌 って伝承する、いわゆる口承文学で す。女書はすべて歌の記録です。
江永県は漢民族と少数民族のヤオ 族が混住している地域で、周囲はヤ オ族自治県に囲まれています。君子 女たちはみな漢民族の風習である纏 足をしていたことなどから、女書は 漢民族の文化だと思われています が、 押韻せず、声調の規則がある女 書の文体はヤオ族の歌に一致してい ます。このような点から女書文化は ヤオ族の影響を受けていると考える ことができます。
消え行く女書文化
女書文化は、女性が持つ豊富な想 像力と大きな創造力が反映されてお り、女書文字は女性たちの知恵の結 晶です。しかし、この世界で唯一の
前年息子が亡くなり、
翌年に夫も亡くなってしまった 前世悪いことをしたからだろうか 息子も夫もいなくて誰に頼れるというのか 朝起きてから暗くなるまで泣き続け 息子と夫を思い泣きながら時間を過ごす 昼間はまるで夢の中で過ごす
夜はまるで地獄にいるようだ
夜ベッドに横になり布団が涙でびしょ濡れに 自分の哀れは誰が知っているのだろうか
﹁女 書︵ ニュ ウ・ シュ ウ︶
﹂と は?
Philharmony May 2013
1755th Subscription Concert / NHK Hall 17th (Fri.) May, 7:00pm
18th (Sat.) May, 3:00pm 第 1755 回 NHKホール
5/17[金]開演 7:00pm 5/18[土]開演 3:00pm
[指揮] ウラディーミル・フェドセーエフ
[conductor] Vladimir Fedoseyev
Program C
[コンサートマスター]
堀 正文 [concertmaster]
Masafumi Hori
ショスタコーヴィチ
交響曲 第 1 番 へ短調 作品 10(32ʼ)
Ⅰ アレグレット―アレグロ・ノン・トロッポ
Ⅱ アレグロ―メノ・モッソ
Ⅲ レント―ラルゴ
Ⅳ レント̶アレグロ・モルト
Dmitry Shostakovich (1906-1975) Symphony No.1 f minor op.10
Ⅰ Allegretto - Allegro non troppo
Ⅱ Allegro - Meno mosso
Ⅲ Lento - Largo
Ⅳ Lento - Allegro molto 休憩 Intermission
Peter Ilich Tchaikovsky (1840-1893) Serenade for Strings C major op.48
Ⅰ Pezzo in forma di sonatina
Ⅱ Valse
Ⅲ Élégie
Ⅳ Finale (Tema russo)
Aleksandr Borodin (1833-1887)
“Prince Igor”, opera
-Overture, “Danses polovtsiennes”
チャイコフスキー
弦楽セレナード ハ長調 作品 48(32ʼ)
Ⅰ ソナチネ形式の小曲
Ⅱ ワルツ
Ⅲ エレジー
Ⅳ ロシア風の主題による終曲 ボロディン
歌劇「イーゴリ公」から
「序曲」「ダッタン人の踊り」(23ʼ)