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第4節不法行為による損害賠償

2.損害賠償請求権者

損害賠償の請求ができる者は、財産的損害か精神的損害かを問わず、原則として被害者本人です(被 害者が法人であるときも同様)。

ただし、生命侵害の場合には、被害者本人とは別に、次のように近親者にも固有の損害賠償請求権が 認められることがあります。

(1)生命侵害の場合

被害者本人が死亡した場合には、被害者が持つ損害賠償請求権は、財産的損害か精神的損害かを問 わず、請求権の放棄など特別の事情がない限り、相続人に相続されるというのが判例の考え方です。

① 父母・配偶者・子

被害者に認められる損害賠償請求権のほかに、生命を侵害された被害者の「父母、配偶者および 子」は、財産的損害がなかった場合でも、固有の慰謝料請求権を取得します(民法第711条)。

(注)「胎児」の場合、損害賠償の請求権上は、既に生まれたものとみなします(民法第721条)。

② 祖父母・孫・兄弟姉妹

被害者の「祖父母、孫および兄弟姉妹」には、民法第711条に定める近親者の慰謝料請求権は認め られません。

ただし、扶養請求権が侵害された場合や葬儀費用を支出した場合などには、損害賠償請求をする ことができます(民法第709条)。

(2)身体障害の場合

被害者本人が財産的損害および精神的損害についての損害賠償請求権を有するほか、被害者が幼児 や老人であって、その扶養義務者である父母または子が治療費などを負担した場合には、その損害の 賠償を請求できると考えられています。

なお、身体障害が死亡に匹敵するような精神的苦痛を与える場合には、近親者に慰謝料請求権が認 められます。

(参考)自賠責保険の被害者請求(16条請求)

自賠法第16条により、被害者は、加害車両の加入している保険会社に対し、直接、保険金額の範囲内で 損害賠償額の支払いを請求できます。

原則として、被害者請求できる者は、死亡の場合は被害者の法定相続人、傷害・後遺障害の場合は被害者 本人となります。また、当座の治療費などを賄うための費用についても、被害者請求をすることができます。

(参考)法人の損害賠償請求権

会社の代表取締役が不法行為により直接被害者となった場合、会社がいわゆる個人会社で、代表取締役 に代替性がなく、代表取締役と会社とが経済的に一体をなす等の事実関係があるときは、代表取締役の負 傷により会社が被る損害の請求を、その会社に認めた例があります(最判昭43.11.15)。

なお、法人には自然人のような精神的苦痛はあり得ませんが、その名誉や信用が毀損された場合、法人 は自然人の慰謝料に準じて、「財産以外の損害(民法第710条)」(無形損害)に対する損害賠償請求権を取 得すると解されています(最判昭39.1.28)。

3.損害賠償の範囲

(1)相当因果関係にある損害

不法行為が成立すると、加害者は被害者に対して損害の賠償をしなければなりませんが、1つの加 害行為から生じる損害は限りなく拡大していく可能性があります。そこで、損害賠償の対象とすべき 損害の範囲が問題となります。

これについては、「損害賠償の対象となる損害の範囲は、民法第416条を類推適用して、加害行為と 相当因果関係のある損害、すなわち加害行為の結果、通常生ずべき損害である」とするのが判例の態 度です(大審院判大15.5.22)。

(注)上記は、「富喜ふ う きまる事件」と呼ばれる判決ですが、最高裁も1973(昭和48)年6月7日判決をもって民法第416 条類推適用説を承認しました。以後、現在に至るまで変更はありません。

(2)損害額算定の基準時

損害額の算定にあたっては、価値が変動する物の滅失や損傷などの場合、どの時点の価格により金 銭に評価するのかということが問題となります。

この問題について判例は、原則として不法行為の時を基準として損害額を算定すべきとし、もし、

目的物の滅失・損傷の後に価格が騰貴したとか、より高価に転売することになっていたという特別の 事情があり、その事情の予見可能性があれば、その価格による損害賠償を請求することができるとし ています(最判昭32.1.31)。

(注)この場合の遅延利息は、原則として不法行為の時以後の期間に対する法定利率によって付さなければなら ないとされています。

4.損害額の算定

(1)財産的損害

財産的損害は、次のように算定されます。

所有権の侵害 (所有物の滅失・損傷)

・「滅失」の場合は、原則として「滅失時の交換価値」が損害額となり ます(最判昭32.1.31)。(注1)

・「損傷」の場合は、通常、その「修繕費用」が損害額となります。(注2)

賃借権の侵害 他人の不法占拠によって賃借権が侵害された場合は、賃料相当額が損 害額となります(大審院判昭7.7.7)。

担保権の侵害 抵当権などの担保権が侵害された場合は、その侵害によって債権が担保 されなくなった分に相当する額が損害額となります。

生命の侵害

積極的損害 死亡に至るまでの治療費、葬式費用、死体運搬費、墓碑建設費など(合 理的と認められる範囲内)が損害として認められます。

消極的損害 次の算式により算出した額が損害として認められます。(注3)

逸失利益=(死亡当時の年収―本人の年間生活費)×稼働可能年数

身体障害

次のような費用が損害として認められます。

・入院費、通院費、義足代、義⻭代、義眼代などの実費

・休学中の学習の遅れを取り戻すための家庭教師代

・治療などのために子どもを知人や保育施設に預けた場合にかかった 費用

・治療期間中の休業のため失った得べかりし利益、後遺障害が残った ため労働力が低下して失った得べかりし利益

そ の 他 詐欺・強迫による財産損害、不当告訴による拘禁中の得べかりし収入 の喪失、名誉・信用の毀損による得べかりし収入の喪失など

第4節不法行為による損害賠償

(注1)中古自動車の損害額については、原則として中古車市場における同種・同等の中古車を取得するのに要 する価格によるとされています(最判昭49.4.15)。

なお、休車等による損害についても、車両修理期間または代替車購入までの休業損害、代車借用料の賠 償が認められます(最判昭33.7.17)。

(注2)修繕が不能の場合、または修繕費用が被害物の被害直前の交換価値を超える場合には、滅失の場合と同 様となります。

(注3)逸失利益は、将来得られるべきものであるから、これを一時に請求する場合には、中間利息を控除する ことになります。

なお、死亡当時の年間収入を基礎として逸失利益を算出しますが、将来の昇給、物価の上昇などは法的 確実性がなく、通常、考慮されません。

(注4)前ページの表のほか、判例では、弁護士費用を損害額に含めることを認めています(最判昭44.2.27)。

改正民法では、逸失利益の算出に使用される中間利息控除は、その損害賠償請求権が生じた時点における 法定利率となります(前付7 Ⅲ2(1)②法定利率 参照)。

(2)非財産的損害(精神的損害:慰謝料)

非財産的損害の中心は精神的損害で、この精神的損害に対する賠償を「慰謝料」といいます。

慰謝料請求権は、生命、身体、自由または名誉が侵害された場合のほか、財産権が侵害された場合 にも認められることがあります(民法第710条)。

ただし、財産権の侵害の場合には、精神的苦痛が極めて大きいときに限られます。

この慰謝料の算定には、明確な基準はなく、加害の程度、当事者双方の資産、年齢、職業、社会的 地位など諸般の事情を考慮して裁判所が認定します。

なお、交通事故などについては、ある程度類型化されています。

5.過失相殺と損益相殺

不法行為の被害者にも過失がある場合や、被害者が不法行為により損害とともに利益をも受けている 場合があります。このような場合に、加害者・被害者間の損害賠償を公平に行うため、損害賠償額の算 定にあたり、過失相殺と損益相殺という調整が行われます。

(1)過失相殺

不法行為の被害者にも過失があったときは、損害賠償額を算定するにあたり、その過失を考慮す ることができます(民法第722条第2項)。これを「過失相殺」といいます。

被害者が過失により損害の発生や拡大を助⻑した場合、具体的公平を図る見地から損害賠償額の減 額が認められるものです。

(注)不法行為における過失相殺では、判例・通説は、加害者の損害賠償額の軽減ができるだけで、損害賠償責 任が否定されることはありません。これに対し、債務不履行の場合は、損害賠償額が軽減されるだけでな く、損害賠償責任が否定されることもあります(P.41、P.88 3(1)参照)。

(参考)改正民法

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