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 本章では,第3章で得られた知見を基に,「正方形の個数」問題を題 材とした一般化を志向する授業の設計を行う.それにより,実際の授業 場面で構造やそれに特徴付けられた一般化がどの様に達成されるかを観 ていきたい.

4­1.授業対象の選定

 一般化についてこれまで知見を纏めて来たが,第3章より一般化にはそ の過程である証明が大きく寄与していることが示唆された

 一般化過程における証明に着目し,証明から条件を取り除いていくと いう手法を扱いにくい小学校6年生に対する授業,証明から条件を取り 除いていくという手法が可能になる中学校2年生,組み合わせの概念が 必要となる高等学校2年生を対象にした授業をそれぞれ設計していくこ とにする.

4­2.小学校第6学年における授業

 本授業では,説明しか持たない児童に対して,いかに一般化の指導を 行っていくかが問題となっている.説明の中からなぜ成り立つのか,と いう理由を取り出すことで,一般化の達成を図る.

4­3.中学校第2学年における授業

 本授業では,証明を習得した生徒に対して,証明から不必要な条件を 見出し取り出す事で一般化が出来る事を通じ,一般化のよさと証明のよ さを実感してもらう事を目的とする授業である.

4­4.高等学校第2学年における授業

 本授業では,本研究で取り上げたほぼ全ての一般化を取り扱う.『問 題についての一般化』に迎えるような支援を考察しつつ,一般化には3つ の種類がある事を実感してもらう事を目的とする授業である.

4­1.授業対象の設定

 一般化についてこれまで知見を纏めて来たが,第3章より一般化にはそ の過程である証明が大きく寄与していることが示唆された.特に『規則 性を取り出す一般化』の証明を行うことで,残りの一般化に向かうこと ができると考えられる.では,その様な点を踏まえた上で,「正方形の 個数」問題で授業を行うとすれば,一体どの様な児童・生徒に行うべき であろうか.

 例えば命題B1導出する一般化を授業で取り扱おうと考えたとする.こ の時,命題B1の結論を表現するものとしてΣが使われている.従前の指 導であれば,Σを使うから高等学校2年生における数列の学習で行う,

といったカリキュラムの編成法が考えられる.

 しかし,先ほども述べた通り一般化においてはその過程の証明が大切 であることから,命題A1から命題B1への一般化過程を見ていきたい.

すると,証明の過程で利用しているのは文字式・正方形の枚数を求める 計算くらいであることから,この証明は中学生でも十分に可能である.

よって,文字式を導入した後の中学1年生を対象とした授業においても 取り入れることは十分に可能である.このように,一般化を用いたカリ キュラムを編成するにあたっては,一般化の結果生まれる命題からカリ キュラムを編成していくのではなく,その過程である証明が可能である か,その証明を行うために必要な事項を習得しているかという点からカ リキュラムを編成できることが考えられる.

 では,証明の前段階である説明しか学んでいない段階の小学生に対し てはどうするかという疑問が浮かぶ.小学校あるいは中学校初期の段階 で学習者は素朴な説明を行っているが,その様な説明を利用することで 一般化するようにしたい.(本研究では扱わないが,一般化を通して説 明を演繹的な論法である証明へ変えていくような指導も考えられる.)

 そこで,その様な考えの基で授業を設計するにあたって,第3章で学 習指導場面に対して得られた示唆を基に,どの様な流れで実際の一般化 が行えそうかを次の表に纏めた.

 先ほど述べた通り,一般化には大別して集合を広げる一般化と,問題 を広げる一般化の2つが存在した.それを基に,横向きに集合を広げる 一般化を,縦向きに問題を一般にしていく一般化を考え,整理した.矢 印は一般化を表し,例えばA1→B1は命題A1からB1への集合を広げる ような一般化であることを表す.この表では矢印の向きのみを焦点にし ており,一般化の段階,つまり矢印の長さについては今回は考察の対象 外としている.ここで,斜めの矢印が存在しているので,その意図を説 明しておく.3­3において,一般化の過程では特殊を見るということが 行われていることを指摘した.ここでは,縦・横の枚数を限定しない命 題B1から,縦4・横8という特殊な場合について1度考えることで,長方 形の枚数に関する一般化への見通しを立てているので,左斜め下の矢印 とした.

 この表を,矢印つまり一般化で行われている証明に注目して授業を行 う対象を設定する.

 まず,命題B1→C1・B1→A2の繋がりに注目した.これらの一般化 は命題A1→B1間の一般化の証明から想起されるものでり,A1→B1間 の証明は文字式の知識や証明の手順といった学習が達成されていなけれ ば不可能である.

 現在のカリキュラム上,証明指導がなされるのは中学校に入ってから なので,小学校と中学校で異なる授業を展開する必要があると考えられ る.

 よって,小学校段階においては命題A1→B1→E/Fを取り扱うと考え られる.このとき,命題A1→B1を証明することはできなくても,説明 することを求めたい.その際,『正方形の1辺の長さが1増えると縦・横

の枚数が1枚ずつ減る』という関係が,文字式の考え方を用いるとより よい説明が出来ると考えられるので,次期学習指導要領で文字式の導入 が行われる小学校6年生を対象とした授業をまず考えたい.

 次に,命題B1から命題Cや命題A1へと一般化する場合を考える.前 述の通り命題A1からB1へ一般化する際の証明が出来る学習者である必 要がある.即ち文字式を利用でき,更に証明の指導が行われている中学 校2年生以上を対象に試みたい.この時,証明に触れたばかりの中学校2 年生に対して,証明から不必要な条件を取り除く活動を行うことで,一 般化の手法と証明のよさを感じることが出来るので,その様な活動であ る命題B1から命題C1・D・E・Fへと一般化するような授業を設計した い.

 また,命題B1から命題A1を経由して命題A2の証明をするにあたって は,辺同士の組み合わせに注目することから,組み合わせを習得してい る高等学校での授業が考えられる.組み合わせ自体は高等学校1年の数 学ⅠAで学ぶ単元であるが,それに加えてΣを扱えるようになっている と式の形で纏められる.よって,数列やΣを習得する高等学校2年生の 授業を考えたい.

 以上より3つの授業対象を考えた.実際にどの様な指導をすればよい か,指導案という形で考えていくことにする.

4­2.小学校第6学年における授業

・本時の目的

 「正方形の個数」問題を解く過程を通し,『規則性の構造』を見出し『規 則を取り出す一般化』を達成する過程を通して,□や△で見出した規則性を 式に表すことが出来る事や,なぜその様な式で求められるかを考えると様々 な場面についてその適用範囲が広がる『問題場面についての一般化』が出来 ることを実感し,算数数学において理由を考えることのよさを実感させる.

・本時の課題

 1辺の1の正方形が,縦に5枚・横に7枚ずつ並んでいます.それぞ れ,正方形がいくつあるかを工夫して求めなさい.

・本時で期待される数学的活動 自力解決D

 正方形の枚数を数えるなどの,計算以外の活動を通し正方形の枚数を求め られる.

自力解決C

 1 1の正方形が(縦の枚数) (横の枚数)で求められる事を通し,2 2以 上の正方

 形についても計算で求める事ができる.

自力解決B

 計算式から,正方形における1辺の長さと縦・横の枚数に関する法則を見つ  け出し,言葉や文字を用いた式で表現することができる.

自力解決A

 見つけ出した法則が,その他の場面にも適用できないかと考え,積極的に  広げていく事が出来る.

・本時の活動の流れ

活:児童の数学的活動     支:教師の支援   意:支援の意図 問題提示

支:この中(*上図)に正方形がいくつあるかな.

意:図形中に存在する1 1の正方形だけではない事に気づかせたい.

支:どんな大きさの正方形がありそうかな.

意:図中には1辺1〜5の5種類の正方形があることに気づかせたい.

また,ワークシート(別添)を配布する.

自力解決Dへ

自力解決Dから

自力解決D

活:数えるなどの計算以外の行為で枚数を求める事が出来る.

支:数え間違えや,書き漏らしはないかな.

支:1辺1の正方形の枚数はどうやって求めたのかな

意:計算をすることで枚数が正確に求められる事に気付かせたい.

自力解決C

活:2 2以上の正方形についても,計算を用いて枚数を求める事ができる.

支:縦・横の枚数から,うまく正方形の枚数を求めることができないかな.

意:縦の枚数 横の枚数で正方形の枚数が求められる事に気付かせたい.

支:式の値から何か読み取る事はできないかな.

意:式の値から,『規則性の構造』に注目させたい.

自力解決B

活:計算式から,1辺の長さと縦・横の枚数に関する法則を見つけ,

      言葉や文字の式で表現することができる.

支:見つけた法則を式で書くことはできないかな.

支:どんな表現を使えば,うまく表現できるかな.

意:言葉や文字を使う事で,表現が出来ることに気付かせたい.

支:そのような式が成り立つ,他の場面を考えることはできるかな?② 意:得た法則を活用する動機付けをさせたい.

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