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ヘモフィルスインフルエンザ菌b型ワクチン 作業チーム報告書
予防接種部会 ワクチン評価に関する小委員会
ヘモフィルスインフルエンザ菌 b 型ワクチン作業チーム
「ファクトシート追加編」
ヘモフィルスインフルエンザ菌b型(Hib)ワクチンの経済評価
(3)費用対効果推計 1.先行研究
Pubmedに収載された最近10年間に先進諸国で行われた研究による結果を
表1に示した。研究によって手法は様々である。国内では、神谷ら1)がHibワ クチン接種によるHib髄膜炎に対する費用削減効果を、決定木を用いて分析し ている。Hib髄膜炎の罹患率を人口10万人あたり8.5人とし、その14%に後 遺症が発生、4.7%が死亡すると仮定した場合、ワクチンの導入により後遺症と 死亡による生産損失を含めた疾病負担推計結果では、ワクチンを導入した場合 に年間82億円の費用削減が期待できると結論している。尚、この研究におい ては、ワクチン接種費用(技術料込み)を1回7,000円で4回接種、計28,000 円と設定し、分析において割引は採用していない。
国外では、Zhouら2)が同じく決定木を用い、米国で380万人の乳児に予防接 種を導入した場合の費用効果分析と費用便益分析を実施している。その結果、
支払者の視点、社会の視点いずれからも費用削減に働き、その削減費用はそれ ぞれ793億円、1,745億円としている。また、費用効果分析の結果では
1QALY獲得のためのコストは約29万円であり費用対効果に優れている結果と
なった。この分析においては髄膜炎の1歳未満の罹患率は10万人あたり101 人から179人とわが国の罹患率に比較し高いものであった。また、一人当たり のワクチン接種費用(技術料込み)を3~4回接種で計約8,000円と設定し、
割引率は年率3%を使用している。
韓国においても決定木を用いて費用便益分析を行っている3)。49万人の乳児 に対し一人当たりワクチン接種費用(技術料込み)を計3回接種で計5,200円 でワクチン接種を導入した場合、ワクチン導入費用は25億6千万円に対し、
医療費削減は19億8千万円であり、便益費用比は0.77と費用対効果は優れて いない結果となった。5,200円のワクチン接種費用は現行の接種費用が全員接 種となった場合に費用が35%削減されるということを見込んで接種費用を低め に設定したものである。尚、この研究において用いた5歳未満のHib感染症罹 患率は人口10万人当たり8.1であり、また割引率は年率5%を用いている。
スロベニアでは、5歳未満 Hib 感染症罹患率が 10万人当たり 16.4 人として、
18,200人の乳児にワクチン接種した場合の費用便益分析を行っている4)。そ
の結果、支払者の立場からは92万円費用増加に働くが、社会の視点では1,557 万円の削減に働く結果となった。尚、この研究では一人当たりのワクチン接種 費用(技術料込み)を3回接種で計2,050円と仮定し、割引率は年率5%を使 用している。
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表1Hibワクチンの医療経済評価の文献レビュー 国
筆頭著者, 年
ワクチン
対象者, 設定コスト
結果 日本
神谷 2006 1)
2,4,6ヶ月と1歳
(4回投与) 28,000円
社会の視点で82億円の費用削減 USA
Zhou 2002 2) 2,4,6ヶ月
(3回又は4回投与)
8,000円
支払者の視点で793億円の削 減、社会の視点で1,745億円の 削減
ワクチン接種により 113,664QALY獲得 Korea
Shin 2008 3) 2, 4ヶ月と1歳
(3回投与) 5,200円
社会の視点で6億2千万円ワク チンコストが上回る。便益費用 比0.77
Slovenia
Pokorn 20014) 2,4,6ヶ月
(3回投与) 2,050円
支払者の視点で92万円コストが 上回る。社会の視点では1,557 万円の削減。
注)換算レート(2010年10月4日現在)
日本 円 米 ドル ユーロ ウォン 100 1.198 0.871 1351 2.厚生労働科学研究班による分析
平成21年出生コホート(107.8万人)を対象に、Hibワクチンを投与した場 合と投与しなかった場合のQALY(quality-adjusted life year)並びに医療費 の比較を行った。先行研究に従い決定木モデルを使用し、Hib 感染症を菌血症、
髄膜炎、菌血症以外のHib非髄膜炎に分け、これまでに報告された疫学資料
5),6),7)から5歳未満罹患率、致死率、後遺症発生率などの疫学パラメータを設定
した。厚生労働科学研究「ワクチンの医療経済性の評価」研究班(班長 池田 俊也)で定めた「ワクチン接種の費用対効果推計法」に従い分析期間は生涯、
割引率は年率3%とし、感度分析で年率を0%から5%に変化させた場合の影響 を見た。また、医療費に関しては保健医療費のみを考慮した場合(支払者の視 点)と、保健医療費に加え、非保健医療費と生産性損失を考慮した場合(社会 の視点)に分けて分析を行った。急性医療費および後遺障害による医療費等に 関するデータは神谷らの先行研究に従った。また、ワクチン接種費用は、ワク チンの希望小売価格4,500円に技術料を3,780円とし、その合計に消費税5%
を加算した8,694円を一回分とし、4回接種計で一人当たり34,776円とした。
疫学パラメータについては、外来ベースの菌血症の罹患率を5歳未満人口10 万人当たり50人、そのうち髄膜炎により入院に至る罹患率を同 10人、菌血症、
喉頭蓋炎等の非髄膜炎により入院に至る罹患率を20人とした。入院したもの の致死率を2%、延命したもののうち、精神遅滞、麻痺、難聴がそれぞれ
3.5%、3.5%、5.0%の割合で出現するものとした。ワクチン接種率はMRワク
チンの現状値の 94.3%としたが、集団効果を考慮し100%のHib感染症抑制効 果があるものとした。その結果、この集団が5歳に到達するまでの菌血症によ
る外来受診数、髄膜炎入院者数、非髄膜炎による入院者数はそれぞれ、2,690 名、538名、1,076名と推計された。また、そのうち死亡数は34名、後遺障害 者数67名となり、これらはワクチン接種によりいずれも0名になるとした。
費用対効果の推計結果を表2に示す。効果に関しては、髄膜炎後の後遺症が 生じた場合の効用値(QOL値)を難聴(0.675)、精神遅滞(0.350)、麻痺
(0.310)としてQALYを計算した結果、ワクチンを投与した場合の損失 QALYは0となるため、ワクチン未接種の場合の損失QALYである2201.2が そのままQALY増分となる。一方、費用に関してはワクチン投与によって感染 症や後遺症にかかる費用が減ることによって、保健医療費としてはコホート全
体で総額106.7億円の削減となるが、ワクチン接種費用が348.3億円と高額と
なるために、増分費用効果比(ICER)は1,100万円/QALYとなった。これ は割引率を0%とした場合には280万円/QALYと大幅に減尐した。なお、今 回の推計では、ワクチン接種費用を任意接種下の現状にあわせて一人当たり
34,776円としたが、感度分析の結果からは一人当たり21,000円とすれば割引
率3%を採用しても1QALY獲得費用は500万円以下となり、費用対効果に優
れると判断されるレベルとなる。
一方、非保健医療費および家族等の生産性損失を加えて社会の視点より費用 比較分析を行った結果、ワクチン接種導入により、357.1 億円の増大となった。
さらに、死亡および後遺症による患者本人の生産性損失を考慮に入れて費用便 益分析を行った結果、便益費用比は0.366とコストが便益を上回る結果となっ た。
なお、ワクチン接種費用や出生数などの条件が今後も不変であると仮定した 場合の、将来における単年度費用推計の結果は次の通りである。(注:単年度 費用推計では、割引率は適用しない。)
定期接種を導入した際のワクチン接種費用の増分は年間約 353.6 億円である が、ワクチン接種費用以外の保健医療費は年間約 203.2 億円減尐し、一方、家 族等の生産性損失は年間約 88.0 億円増加することから、社会の視点では定期 接種化により1年あたり約 238.3 億円の費用増加となる。さらに本人の生産性 損失の減尐分(年間約 115.8 億円)も考慮すると、1年あたり約 122.6 億円の 費用増加となる。
表2 Hibワクチンの費用対効果推計
<費用効果分析> ワクチン接種費と医療費を考慮
支払者の視点 一人当たりとして計算 コホート全体 107.8万人
(円,QALY) (億円,QALY) 投与 非投与 増分 投与 非投与 増分 ワクチン接種費 32,370* 0 32,370 348.3 0.0 348.3
医療費 0 9,900 -9,900 0 106.8 -106.8
総コスト 32,370 9,900 22,470 348.3 106.8 242.2
損失QALY 0 0.002 0.002 0 2,201.2 2,201.2
4
1QALYを獲得するための費用:(348.3億円-106.8億円)/2,201.2 =1,100 万円
感度分析で割引率を0%から5%の間で変化させた場合、1QALYの獲得に必 要な費用は280万円~1,980万円となる。
*:接種率94.3%かつ接種時期によりコストを時間割引しているため34,766 円より減額。
<費用比較分析> 本人以外の生産性損失を追加
社会の視点 一人当たりとして計算 コホート全体 107.8万人
(円) (億円)
投与 非投与 増分 投与 非投与 増分 ワクチン接種費 32,370* 0 32,370 348.3 0 348.3 副反応費用 0 0 0 0 0 0 接種の生産性損失
(家族等) 14,120 0 14,120 152.2 0 152.2 投入費用合計 46,490 0 46,490 500.6 0 500.6
医療費 0 9,910 -9,910 0 106.8 -106.8
看護・介護の生産性
損失(家族等) 0 3,400 -3,400 0 36.7 -36.7 疾病費用合計 0 13,310 -13,310 0 143.5 -143.5
総費用 46,490 13,310 33,180 500.6 143.5 357.1
費用比較 357.1億円の増大
感度分析で割引率を0%から5%の間で変化させた場合、238.3億円~392.6億 円増大となる。
*:接種率94.3%かつ接種時期によりコストを時間割引しているため34,766 円より減額。
<費用便益分析> 本人の生産性損失をさらに追加
社会の視点 一人当たりとして計算 コホート全体 107.8万人
(円) (億円)
投与 非投与 増分 投与 非投与 増分 ワクチン接種費 32,370* 0 32,370 348.3 0 348.3 副反応費用 0 0 0 0 0 0 接種の生産性損
失(家族等) 14,120 0 14,120 152.2 0 152.2 投入費用合計 46,490 0 46,490 500.6 0 500.6
医療費 0 9,910 -9,910 0 106.8 -106.8
生産性損失(本
人含まず) 0 3,400 -3,400 0 36.7 -36.7 生産性損失(本
人) 0 3,710 -3,710 0 40.0 -40.0
便益費用合計 0 17,020 -17,020 0 183.4 -183.4 便益費用比:便益費用合計/投入費用合計=183.4億円/500.6億円=0.366 感度分析で割引率を0%から5%の間で変化させた場合、便益費用比は0.253~
0.759となる。
*:接種率94.3%かつ接種時期によりコストを時間割引しているため34,766 円より減額。