1 .レピュテーションに関する先行研究の問題点の特徴と 本研究における意義
1-1 先行研究の問題点の分類
本章ではⅡ章であげられたレピュテーションに関する先行研究の問題点をテーマに取り あげる。
レピュテーションに関する先行研究の問題点は、以下の3つに整理することができる。
① レピュテーションの定義の限定的な解釈の問題 ② レピュテーション・マネジメントの定義の不在の問題 ③ 類似概念の定義における混同の問題
これらの問題点は詰まるところ、1つの問題に集約することができる。それはいずれも概 念の定義に関する問題である。Ⅱ章で 3 つの特徴に分類したレピュテーションに関する先 行研究のそれぞれに、上記のような問題が存在している。
第一に、レピュテーションの定義の限定的な解釈の問題は、3つの特徴に分類した先行研 究のうち、レピュテーションの測定および評価に関する研究において見られる。それらの研 究のなかでは、コーポレート・レピュテーションが企業活動の結果であるとされており、企 業の総合評価指標としての役割に焦点があてられている。しかし、この解釈は限定的であり、
Fombrun and van Riel[2004]の指摘する、差別化の源泉としてのとらえ方がなされてい ないため、議論が測定および評価の範疇に留まっている。
第二に、レピュテーション・マネジメントの定義の不在の問題は、3つの特徴に分類した 先行研究のうち、レピュテーションのマネジメント方法に関する研究において見られる。そ れらの研究のなかでは、レピュテーションのマネジメントに対して、さまざまなフレームワ ークやマネジメント・ツールの導入が提案されているものの、レピュテーション・マネジメ ントそのものがいかなる概念であるのかが定義されていないため、既存のフレームワークや マネジメント・ツールとの異同点が明瞭でない。
第三に、類似概念の定義における混同の問題は、3 つの特徴に分類した先行研究のうち、
レピュテーションと類似概念との比較に関する研究において見られる。それらの研究のなか では、ブランドやコーポレート・イメージ、組織連想、無形資源などがレピュテーションと の比較対象とされている。なかでもブランドとの比較において、標章としてのブランドと、
それが有する価値であるブランド・エクイティとが混同されて用いられているため、レピュ テーションとブランドの関係が正確に分類されていない。Ⅱ章で統一的な見解が見出せなか ったのはこのためである。
1-2 先行研究における問題点についての考察の本研究における意義
これらの問題点を整理することは、Kaplan and Norton[1996; 2001; 2004; 2006; 2008]
のBSCのフレームワークをレピュテーション・マネジメントに用いるという本研究の議論 において、以下のようなアプローチを提供する。
① BSC によるレピュテーション・マネジメントにおいて、レピュテーションとは何 を意味するのか
② BSC によるレピュテーション・マネジメントにおいて、レピュテーション・マネ ジメントとは何を意味するのか
③ BSC によるレピュテーション・マネジメントにおいて、レピュテーションとブラ ンドとの関係をどのようにとらえるべきか
第一に、BSC によるレピュテーション・マネジメントにおいて、レピュテーションとは 何を意味するのかという問いに答えなければならない。そもそも管理対象が明らかでないか ぎり、管理することはできない。レピュテーションの測定および評価に関する研究のなかで は、レピュテーションが企業活動の結果という側面で限定的にとらえられている。本章では その点を明らかにし、BSC のフレームワークで管理するレピュテーションとはいかなる概 念であるのかを整理し直す。
第二に、BSCによるレピュテーション・マネジメントにおいて、BSCを用いる対象であ るレピュテーション・マネジメントとは何を意味するのかという問いに答えねばならない。
そもそも用いる対象が明らかでないかぎり、用いるという議論自体が成り立たない。レピュ テーションのマネジメント方法に関する研究のなかでは、レピュテーション・マネジメント の定義が明確になされておらず、既存のフレームワークやマネジメント・ツールとの異同点 が明確でない。本章ではあらためてこれらの異同点を比較し、BSC を用いる対象であるレ ピュテーション・マネジメントとはいかなる概念であるのかを整理し直す。
第三に、BSC によるレピュテーション・マネジメントにおいて、レピュテーションとブ ランドとの関係をどうとらえるべきかという問いに答えねばならない。BSC の議論におい て、ブランドはキーワードともいうべき重要な概念である。レピュテーションと類似概念と の比較に関する研究において、ブランドの定義における混同(標章としてのブランドと、そ れが有する価値であるブランド・エクイティとの混同)があるかぎり、BSC のフレームワ ークにおける価値提案の議論とかみ合わなくなる。本章では、ブランドの定義における混同 について取りあげ、BSC によるレピュテーション・マネジメントにおいて、レピュテーシ ョンとブランドとの関係をどのようにとらえるべきかを考察する。
これらの問題はそれぞれの概念の定義の問題に集約されるということはすでに述べた。
BSC によるレピュテーション・マネジメントの議論において、先行研究の問題点を整理し ながら、レピュテーションおよびレピュテーション・マネジメントの議論を取り巻く諸概念 を整理し直すことが本章の目的である。これらの概念を整理し直すことは以下に示される概 念同士の関係を明らかにすることを意味する。
① 企業活動の結果と競争優位の源泉としてのレピュテーションとの関係 ② 既存のマネジメント概念とレピュテーション・マネジメントとの関係 ③ ブランドとレピュテーションとの関係
本章2節から4節において、3つのレピュテーションに関する先行研究の問題点とその問 題に対して求められる企業の対応などを明らかにし、さらにレピュテーションおよびレピュ テーション・マネジメントの議論を取り巻く概念について3つに分類した関係を整理する。
2.レピュテーションの定義の限定的な解釈の問題
2-1 問題提起
レピュテーションの定義の限定的な解釈の問題は、3つの特徴に分類した先行研究のうち、
レピュテーションの測定および評価に関する研究において見られる。それらの研究のなかで は、コーポレート・レピュテーションが企業活動の結果であるとされており、企業の総合評 価指標としての役割に重点が置かれている。
このような解釈は限定的であり、レピュテーションの議論を測定および評価の段階に留め、
マネジメントの段階への議論の妨げとなっている。なぜなら、企業の総合評価指標としての レピュテーションは、あくまで企業活動の結果であり、結果をマネジメントすることはでき ないからである。レピュテーションをマネジメントするという議論をする際に、企業活動の
結果としてのレピュテーションの定義と、管理対象となりうるレピュテーションの定義とは 分ける必要がある。
レピュテーションの測定および評価から、マネジメントの段階へ議論を移行させるために は、企業は 2 つの問題に対応する必要がある。その問題とは、レピュテーション指標の多 面性による問題と多様性による問題である。
第一に、レピュテーション指標の多面性による問題について、Ⅱ章で指摘したように、企 業の総合評価指標とされている、Fortuneの「もっとも称賛される企業」や、The Wall Street
Journal による RQ℠スコアでは、財務業績から非財務指標にいたるまで、企業のあらゆる
側面に対する評価がなされる。これらは企業の総合的な評価を知ることができるという利点 を持つと同時に、評価項目の重要度が反映されないという問題点がある。Ⅱ章で指摘したよ うに、企業の特性や評価の主体によって、レピュテーションの評価項目の重要度は異なる。
ゆえに、企業の特性によっては総合評価に向かない企業も存在しうるであろうし、評価の主 体に偏りがある場合、自社のレピュテーションが正しく評価されない可能性もある。このよ うなレピュテーション指標の多面性に、Rhee and Valdez[2009]は、「レピュテーション の複雑性の描写」[p. 152]であると批判している。
また、このようなレピュテーションの多面性により、財務業績がレピュテーションに貢献 することはあっても、レピュテーションが財務業績に及ぼす影響力が小さいために、企業が レピュテーション・マネジメントの重要性を理解することが妨げられているという問題も指 摘されている。この点について、大柳[2006]は以下のように述べている。
企業活動の結果として計算されたコーポレート・レピュテーションの財務業績に与える影 響が、低くなることは当然の帰結である。なぜならRQ℠スコアなどは財務業績だけでなく、
非財務指標をも加味した結果だからである[大柳, 2006, p. 46]。
このような見解から、大柳[2006]はコーポレート・レピュテーションが財務業績に影 響を与えないと結論づけることは誤りであるとしている。
第二に、レピュテーション指標の多様性による問題について、Fombrun[2007]の調査 結果からも明らかなように、国や地域ごとあるいは雑誌、専門誌によってレピュテーション 指標が異なっているばかりか、同じ企業の順位がそれぞれにおいてまったく異なってしまう という状況がある。この点に関しては、Fombrun[2007]のいう世界的に統一された指標 を検討することも解決策の1つであろう。
レピュテーションの多面性および多様性の問題は、レピュテーションを、単にあらゆるス