第 4 章 結果と考察
4.1 試料の観察・分析
4.1.3 ラマン分光
Fig.4-6,Fig.4-7,Fig.4-8,Fig.4-9にラマン分光の結果を示す.
Fig.4-6,Fig.4-7は生成条件(1)で作成した試料を励起光波長488nmでラマンスペクトルを測定
したものである.Fig.4-8,Fig.4-9は生成条件(2)で作成した試料を,励起光波長488nmと532nm の2種類でラマンスペクトルを測定したものである.
1200 1300 1400 1500 1600 1700 1800 1900 0 1000
2000 3000 4000 5000
Raman Shift [cm –1 ]
Fig.4-6 ラマン分光(1)
50 100 150 200 250 300 200
400 600 800 1000 1200 1400 1600
Raman Shift [cm –1 ]
Fig.4-7 ラマン分光(2)
1.22nm
1.1nm
1200 1300 1400 1500 1600 1700 1800 1900 0
5000 10000 15000
Raman Shift [cm –1 ]
Fig.4-8 ラマン分光(3)
励起光波長 488nm
励起光波長 532nm
50 100 150 200 250 300 0
500 1000 1500 2000 2500 3000
Raman Shift [cm –1 ]
Fig.4-9 ラマン分光(4) 励起光波長
532nm
励起光波長 488nm 1.22nm
1.1nm
1.32nm 1.19nm
Fig.4-6 では 1592cm-1 付近に高いピークがみられる.これはグラファイトに特徴的なフォ ノン分散に帰属するため,Gバンド(graphite band)とよばれる.この強いピークは,結晶質の 炭素が多く存在することを表している.また,1564cm-1 付近にピークがみられるが,これは グラファイトのラマンスペクトルでは現れないピークである.このピークはカーボンナノチ ューブが持つ,カイラルベクトルChおよび,格子ベクトルTで記述される新たな周期性のた めに,ゾーンフォールディングが生じたために現れると考えられている.以上のことから,
この試料中には単層ナノチューブが存在すると考えることができる.理論的に 1592cm-1付近 のピークは単層ナノチューブの振動モードのうち,伸縮モードに帰属されるラマンスペクト ルであるとされている.
Fig.4-7では単層ナノチューブのブリージングモードの振動に帰属するラマンスペクトルを
測定した.2.3.2項で述べたように,この振動モードの振動数は直径に反比例し,基本的にカ イラリティー(n,m)には依存しない.2.3.2項の式(3)を用いて計算すると,183cm-1付近のピー クは,直径約 1.22nmの単層ナノチューブ,203cm-1付近のピークは直径約 1.1nmの単層ナノ チューブに帰属するスペクトルであると考えられる.
Fig.4-8では励起光波長488nm,532nmいずれにおいても1592cm-1付近にGバンド,1564 cm-1 付近にゾーンホールディングによると考えられるピークが現れているので,単層ナノチュー ブが存在すると考えられる.
1355cm- 1付近に小さな盛り上がりがみられるが,これは Dバンド(disorder band)と呼ばれ,
グラファイト面内の乱れ,欠陥に起因 している.GバンドとDバンドのラマ ンスペクトル強度の比 G/D が大きい ほど結晶質の炭素の割合が多い,すな わち単層ナノチューブの存在する割 合が多いと考えられる.Fig.4-6より生 成条件(1)の試料では G/D=24,Fig.4-8 より生成条件(2)の試料ではG/D=45で あるから,生成条件(2)の方が生成条件 (1)よりも単層ナノチューブの生成効 率が高いと考えることができ,これは SEMでの観察結果と一致する.
Fig.4-9はFig.4-7と同様に単層ナノ チューブのブリージングモードに帰 属するラマンスペクトルを測定した ものである.励起光波長488nmでは,
同じ波長で測定した Fig.4-7 と同じ様 に,183cm-1付近と203cm-1付近にピー クが現れているので,生成条件(1)で生
成した試料,生成条件(2)で生成した試 Fig.4-10 カーボンナノチューブ直径と バンドギャップエネルギー
料は,ともに同じ直径の単層ナノチューブを含んでいると考えられる.
励起光波長 532nmでは,169cm-1付近,188cm-1付近にピークがみられる.励起光波長を大 きくすると,励起光のエネルギーは小さくなる.また,単層ナノチューブのバンドギャップ エネルギーは直径が太くなるにつれて小さくなることを片浦らが理論的計算によって確かめ
ている.Fig.4-10に片浦らの計算結果を示した.図中の黒丸は金属的な単層ナノチューブ,白
丸は半導体的単層ナノチューブ,2 重丸はアームチェアー型単層ナノチューブである.この 結果をふまえると,励起光波長を大きくすると,対応するバンドギャップエネルギーは小さ くなり,スペクトルを発する単層ナノチューブの直径は太くなると考えられる.
実際に,2.2.3項の式(3)を用いると,169cm-1付近のピークから直径約1.32nm,188cm-1付近 のピークから直径約1.19nmの単層ナノチューブが存在すると考えられる.すなわち,励起光
波長488nmの場合より太い単層ナノチューブが検出されたことになる.これは理論的計算に
合った結果といえる.