III. 結果と考察
1. 先行研究で決定された配列との比較
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一方で,JO3のリードデータはL. lutraのmtgenomeにわずか146リードがマッピングされたのみ で,その被服度は0.96×となり,本研究においてJO3標本からmtgenome配列を決定できなかっ た.
本研究で決定したニホンカワウソおよびユーラシアカワウソのmtgenome全7配列の構成 は一般的な哺乳類のmtgenomeの特徴(13のタンパクコード遺伝子,22のtRNA,2つの
rRNA,CRおよびL-origin)と一致した(表3-6).タンパクコード遺伝子の途中に終止コドンは
なかったことから,本研究はこれら7個体(EO1–EO5,JO1およびJO2)の配列決定に成功した と考える.これらのmtgenome配列データはGenBankに登録されている(Accession Nos.
LC049377,LC049378,LC049952–LC049955および LC050126).
GenBankに登録されているユーラシアカワウソ(Accession Nos. EF672696とFJ236015)お
よびラッコ(Accession No. NC_009692)のmtgenome配列と本研究で決定したユーラシアカワウ ソおよびニホンカワウソのmtgenome7配列を比較した.配列を比較したところ,EF672696の配 列のみCOX3で5アミノ酸,ND6で4アミノ酸の欠失が確認された(図3-5).この欠失はラッ コ,ニホンカワウソおよびその他のユーラシアカワウソ6配列では確認されなかった.このこと
からEF672696の配列データは配列決定に重大な誤りがあると考えられる.そこで,本研究では
これ以降の解析からEF672696のデータを除外した.
ニホンカワウソ2個体の遺伝的特徴を見出すため,ニホンカワウソ(JO1およびJO2)と アジアに生息しているユーラシアカワウソ,スマトラカワウソ,コツメカワウソおよびビロード カワウソの配列と比較した.Koepfli et al.(2008)は上記4種を識別するND5遺伝子部分配列
(692 bp)とcytb遺伝子全長配列(1,140 bp)の遺伝的な特徴が明らかにしている.そこで本研 究は,彼らの種判別領域を用いニホンカワウソ配列の特徴を見出すこととした.配列を比較した ところ,ニホンカワウソ2個体(JO1およびJO2)は26の塩基サイトでユーラシアカワウソの 特徴的な塩基配列と(図3-6,黒色ハイライトで表示),JO1はさらに6つの塩基サイトでユーラ シアカワウソの特徴的な塩基配列と一致したことから,ニホンカワウソ,特にJO1はユーラシア カワウソと遺伝的にとても近縁であることが示唆された(図3-6,灰色ハイライトで表示).ま
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た,JO2はスマトラカワウソと3つの塩基サイト(図3-6,サイト番号11815,12332および
14244),ビロードカワウソと1つの塩基サイト(図3-6,サイト番号12319)で特徴的な塩基配
列を共有し,JO1およびJO2はそれぞれ異なる単一の塩基サイトでコツメカワウソと特徴的な塩 基配列を共有した[図3-6,サイト番号14277(JO2)および14740(JO1)].この結果から,ニホ ンカワウソはアジアに生息する4種のカワウソのうちユーラシアカワウソと多くの変異サイトを 共有しており,近縁であることが示唆された.
Suzuki et al.(1996)が愛媛県産ニホンカワウソ1個体から決定した3配列(c4,c5,
ph7)からcytb遺伝子の相同配列を推定した.推定のため,本研究では上記3配列,本研究で
決定した7配列,そして表3-4に示したカワウソ亜科11種のcytb遺伝子配列と比較を行った.
ps7は塩基サイト番号14389が欠失しており(図3-7,黒色ハイライトで表示),この欠失によ りフレームシフトが起きてph7のアミノ酸番号98をバリン(GTA)から終止コドン(TAG)に 変異させる.このことからps7をcytb遺伝子の相同配列ではないと結論した.c5の配列はc4 の配列とほぼ一致するが,2つのサイトで異なる塩基を示している(図3-7,灰色ハイライトで 表示).塩基サイト番号14288でc5はチミン,c4はシトシンを示すがユーラシアカワウソ,ス マトラカワウソ,JO1およびJO2はシトシンを示している.加えて,この塩基置換はc5のアミ ノ酸番号39でスレオニン(ACC)からイソロイシン(ATC)へアミノ酸の変異を引き起こす.
また,塩基サイト番号14359でc5はアデニンを示すが,カワウソ亜科11種,JO1およびJO2 のcytb遺伝子はチミンを示している.この塩基置換はc5のアミノ酸番号63でフェニルアラニ ン(TTC)からイソロイシン(ATC)へアミノ酸の変異を引き起こす.以上のことからc5は cytb遺伝子の相同配列ではないと推定した.一方で,c4とJO2の配列間で変異は確認されなか った.c4とJO2の配列は5つの塩基サイトにおいてユーラシアカワウソ8配列と異なった(図
3-7,太線で表示した領域).しかしながら,これらの変異はアミノ酸の変異を引き起こさない同
義置換であった.上記の配列比較結果から,c4がcytb遺伝子の相同配列であろうと推定した.
本研究ではc4の配列をLutra nippon(Ehime)として扱い,ND5+cytbデータセットに組み込 み系統樹を再構築した.
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