第 3 章 カノニカル分布 18
3.12 ミクロカノニカルの方法とカノニカルの方法との比較
この節ではミクロカノニカルアンサンブルとカノニカルアンサンブルで調和振動子 の熱力学を復習をかねて議論し、これらがきちんと一致することを示す。また量子力 学的な計算結果が高温で古典統計力学の結果と一致することを示す。
3.12.1 理論構造
ミクロカノニカルアンサンブルでは閉じた系を考えた。閉じた系とはエネルギーと 粒子数が一定と言うことである。この条件下で
1. S =kBlogW ≈kBlog Ωによって、エントロピーを定義する。W は状態の数で エネルギーE以下の状態数Ω(E)を用いてW =D∆E = Ω(E+ ∆E)−Ω(E)と して計算できる。∆Eは適当な幅でDは状態密度である。
2. ∂S/∂E = 1/T で温度を定義。
3. 上より温度T と内部エネルギーEの関係が分かる。またエネルギーとエントロ ピーの関係も分かる。状態方程式は∂E/∂V =−pより、導出できる。化学ポテ ンシャルµは、∂E/∂N =µから決定される。
一方カノニカルアンサンブルでは、エネルギー一定という条件を課さない。粒子数 は一定である。このとき、
1. 状態νの実現確率PνをPν ∝e−βϵν である 2. 分配関数ZをZ =P
νe−βϵνから計算する。これよりPν = e−βϵν/Zとなる 3. エントロピーをS =−kB
P
νPνlogPν から計算する 4. F = E−T S = P
νϵνPν +kBT P
νPνlogPν より、F =−kBT logZをうる。こ れより自由エネルギーが簡単に計算できる。内部エネルギーはE =−∂logZ/∂β で与えられる。
5. −∂F/∂T = S, −∂F/∂V = P, ∂F/∂N = µなどより、熱力学的諸量が計算で きる。
以下、1次元調和振動子を例にとり、具体的な計算を示そう。始めに復習しておくと 調和振動子とは、バネ運動している粒子のことである。量子力学的な議論から、その エネルギー準位は
ϵn = ¯hω
n+1 2
で与えられる。これがN 個集まるので E = ¯hω
XN i=1
ni+1
2
で系の全エネルギーは与えられる。
3.12.2 N 個の調和振動子 : ミクロカノニカル
このとき、E = ¯hωPN
i=1 ni+ 12
となる状態の数Wを求めなければならない。その ために、
M = E−N¯hω2
¯ hω とおく。状態数Wは
W = X∞ n1=0
· · · X∞
nN=0
δn1+n2+···+nN,M (3.51) となる。一般にこの手の数は重複組み合わせで計算できるが、ここでは面白い計算方 法を紹介する。まず、クロネッカーデルタは
δm,M = 1 2π
Z π
−π
dθei(M−m)θ (3.52)
より、
W =
X∞ n1=0
· · · X∞ nN=0
1 2π
Z π
−π
dθei(M−(n1+n2+···+nN))θ
= 1
2π Z π
−π
dθ X∞ n=0
e−inθ
!N
eiM θ
= 1
2π Z π
−π
dθ
1 1−e−iθ
N
eiM θ をうる。ここでTaylor展開の公式、
1 1−x
N
= 1 +N x+N(N + 1)
2! x2+· · ·+N(N + 1)· · ·(N +m−1)
m! xm+· · · (3.53) を用いると、
W = 1
2π2πN(N + 1)· · ·(N+M −1)
M! = (N +M −1)!
M!(N −1)! (3.54) をうる。エントロピーは
S = kBlogW
= kB[(N +M −1) log(N +M −1)−MlogM −(N −1) log(N −1)]
= kB
(N −1) logN +M −1
N −1 +MlogN +M −1 M
≈ kBN
log
1 + M N
+ M
N log
1 + N M
をうる。M = ¯hωE − N2 であったので、
S=kBN
"
log 1
2+ E N¯hω
+
E N¯hω − 1
2
log 1 + 1
E N¯hω − 12
!#
となる。もしくはM/N =nとおき、
S = kBN
log(1 +n) +nlog
1 + 1 n
= kBN[(n+ 1) log(1 +n)−nlogn]
をうる。
さて、温度は∂S/∂E = 1/T より、
1
T = ∂S
∂E = ∂n
∂E
∂S
∂n = kB
¯
hω logn+ 1 n となる。これより、
n+ 1
n = eβ¯hω, n = 1
eβ¯hω−1 (3.55)
が導かれる。ようやく物理の式らしくなってきた。内部エネルギーは E = N¯hω
eβ¯hω−1 +N¯hω
2 =N¯hω
1
eβ¯hω−1 +1 2
(3.56) である。比熱は
C = ∂E
∂T =N¯hω ¯hω kBT2
eβ¯hω
(eβ¯hω−1)2 =kBN x
2
2 1
sinh2(x/2) (3.57) である。ここでx=β¯hωとおいた。
3.12.3 N 個の調和振動子 : カノニカル
今見てきたように、ミクロカノニカルアンサンブルは計算がややこしい。同じ問題 でもカノニカルアンサンブルではもっと簡単に解ける。
調和振動子の集まりに対する分配関数は
Z = X
n1,n2,···,nN
e−βE
= X∞ n1=0
e−β¯hω(n1+1/2) X∞ n2=0
e−β¯hω(n2+1/2)· · ·
=
e−β¯hω/2 1−e−β¯hω
N
=
eβ¯hω/2 eβ¯hω−1
N
となる。これが分かると、自由エネルギーF は F = −kBTlogZ
= −N kBT log eβ¯hω/2−log(eβ¯hω−1)
= N
−hω¯
2 +kBT log(eβ¯hω −1)
となり、こうして
F =N ¯hω
2 +kBT log(1−e−β¯hω)
(3.58) となる。
次に内部エネルギーは
E = − ∂
∂β logZ
= −N ∂
∂β β¯hω
2 −log(eβ¯hω −1)
= −N ¯hω
2 − ¯hωeβ¯hω eβ¯hω−1
= N¯hω 1
2+ 1
eβ¯hω −1
エントロピーは
S = −∂F
∂T =−∂β
∂T
∂F
∂β
= N
kBT2
− 1
β2 log(1−e−β¯hω) + 1 β
¯
hωe−β¯hω 1−e−β¯hω
= N kB
−log(1−e−β¯hω) +β¯hω 1 eβ¯hω −1
前節と同様にn = 1/(eβ¯hω −1)とおくと、
S =kBN[(n+ 1) log(1 +n)−nlogn]
を再現する。
Problem 3.6 最後の表式を導け。
3.12.4 N 個の調和振動子 : ミクロカノニカル、古典系
今度は古典系に対して計算を行う。まず、調和振動子のハミルトニアンは H = p21
2m + p22
2m +· · · p2N
2m +mω2q12
2 +mω2q22
2 +· · ·+mω2qN2
2 (3.59)
である。このとき、エネルギーがE以下の状態の数Ω(E)は Ω = 1
hN Z
H(p,q)<E
dp1· · ·dpNdq1· · ·dqN (3.60) で与えられる。ここで
xi def=
rmω2
2 qi, yi def= r 1
2mpi (3.61)
とすると、半径rの2N 次元球の体積がr2NπN/N!となることを利用して、
Ω =
rmω2 2
r 1 2m
!−N
1 hN
Z
x21+···+y12<E
dx1· · ·dxNdy1· · ·dyN
=
2πE hω
N
1 N!
= E
¯ hω
N
1 N! となる。これより、エントロピーは
S =kBlog 1 N!
E
¯ hω
N
≈kBN
log E
¯
hωN + 1
(3.62) をうる。温度の定義から
1
T = ∂S
∂E = N kB
E , E =N kBT
となる。これは量子力学的表式で高温極限を取ったものと一致する(4章参照)。 Problem 3.7 エントロピーに対する量子力学の表式で高温極限を取ると、確かに古典 力学の表式になることを示せ。
3.12.5 N 個の調和振動子 : カノニカル、古典系
分配関数Zは
Z = 1
hN Z
· · · Z
dp1· · ·dpNdq1· · ·dqN
× exp
−β p21
2m + p22
2m +· · · p2N
2m +mω2q21
2 + mω2q22
2 +· · ·+mω2qN2 2
となる。これは以前計算したように簡単に Z = 1
hN
r2πm β
r 2π βmω2
N
= kBT
¯ hω
N
となるので、F =−kBT logZ =−kBT Nlog(kBT /¯hω)をうる。
量子力学の表式は(3.58)より、古典近似を行って、
F = N hω¯
2 +kBT log
1−1 +β¯hω−(β¯hω)2 2 +· · ·
≈ N hω¯
2 +kBT logβ¯hω+kBTlog(1−β¯hω/2)
≈ −N kBT logkBT
¯ hω
となるので、ちゃんと一致している。当然エントロピーも一致してる。