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1 概念・病理・病因

 マルファン症候群は,小児科医

Marfan

にちなんで命 名された(1896年).

 常染色体優性遺伝性疾患で,頻度は15,000~20,000 人に1人発生するとされるが,約20~30%は遺伝関係 が明らかではない.

  分 子 レ ベ ル で は

microfibril

の 主 要 構 成 成 分 で あ る

fibrillin-1

の異常があり652),653

fibrillin-1

遺伝子の様々 な変異が知られている654.しかし,遺伝子型と表現型 は必ずしも一致するわけではない655

microfibril

は弾性 線維の形成に関与するが,

fibrillin-1

遺伝子の変異によ り弾性線維の形成異常や構築異常,さらには平滑筋細胞 との結合に異常が発生することが知られている656),657. また,

fibrillin-1

transforming growth factor-

β(

TGF-

β)

transform

するシグナルを過剰に出すことが,それら

病 態 の 原 因 と の 知 見 も あ る658. さ ら に

matrix

metalloproteinase

MMP

)の発現亢進による

elastolysis

が生じ,弾性線維の構築の異常が助長されると考えられ ている659.大動脈は,弾性線維を豊富に有することか らこれらの異常の影響を強く受け,嚢胞状中膜壊死

cystic medial necrosis

)や弾性線維の構築の乱れ等の変 化を示す660),661.嚢胞状中膜壊死は大動脈中膜における 局所的な弾性線維の消失と酸性ムコ多糖類の沈着を示す 病変であり,大動脈輪拡張症に見られる頻度が高い28. また,マルファン症候群の大動脈解離症例では非マルフ ァン症候群のものに比し嚢胞状中膜壊死や弾性線維の配 列の異常が観察される頻度が高く,本症候群における解 離の発症や進展に大きく関与している可能性が指摘され ている16),653

2 病態

 マルファン症候群の特徴は,心血管病変,筋骨格異常 および眼病変を合併し,遺伝性発症を示す全身性の結合 織形成不全疾患である(表31).本症候群に特徴とされ る症候と遺伝性が認められるものを「典型」,満たない ものを「不全型」と称することがある.

(1)心血管病変:大動脈弁閉鎖不全(弁の粘液変性によ る場合と弁輪拡張による場合があり,約60%に見 られる),僧帽弁逸脱(前・後尖ともに逸脱が多い)

または閉鎖不全が生じ,頻度は約90%と高率であ る.大動脈では解離(

Stanford

分類では

A

型が多い)

や瘤形成(上行大動脈に多い)がある.また,大動 脈瘤径50mm以上では解離の発生頻度が高くなると されている.

(2)筋骨格異常:細長い体型で身長が高く(長身),上 下肢も長い.蜘蛛状指を呈し,胸郭変形(漏斗胸)

や脊椎側弯等も呈する.関節の過伸展,自然気胸も みられ,皮膚症状では皮膚線条等を認める.

(3)眼病変:水晶体亜脱臼または偏位が特徴的(約60%)

で,高度近視や網膜剥離も生じる.

(4)遺伝性:家族性が約70%で,もしくは遺伝子異常 が認められる.第15番染色体(15q21)にあるフィ ブリリンⅠ遺伝子の変異によって起こるとされて いる.

(5)腰仙骨部硬膜:

CT

スキャンまたは

MR

(磁気共鳴

画像)で硬膜(第5腰椎付近)の拡張が指摘されて いる.

3 診断法

 ゲント診断基準(表32)を参考にして,それら項目 をチェックして判定している662

 まず,家族歴・遺伝歴の有無を調査する.

 心血管径が最も重要で,心エコー検査で大動脈弁や僧 帽弁を観察する663.血管エコー検査では大動脈径を計 測(大動脈径40mmで専門医へ紹介)し,解離の有無も 判定する.

MRI

では,腰仙骨部硬膜をチェックし,胸 部

X

線写真や心電図検査も行う.

 身体所見で骨格・関節・筋異常の検索を行い,両腕を 広げた幅長が身長より長いことや蜘蛛状指(手首徴候=

wrist sign

;対側手首を握り,親指と小指が重なる,拇

指徴候=

thumb sign

;親指を折り曲げた時同指尖が手掌

尺側端より出る),中手骨比(

metacarpal index

;第2~ 5中手骨全長と同中央部幅の比>8),側弯・胸郭変形の 有無,皮膚線条等を観察する.胸部所見では気胸の既往,

ブラ(

bulla

)の有無等をチェックする.

 眼科では視力検査(近視),水晶体偏位や水晶体亜脱臼,

眼圧測定,隅角検査,視神経乳頭の観察等も併せて行う.

また,虹彩異常,網膜剥離の有無も重要である.

4 治療法

(表33)

 過激な運動を制限すること等が必要となるが,日常生 活は病態により異なる.病態の変化に応じて判定するが,

通常生活での制限を要することは少ない.

 内科治療としては,心疾患や動脈疾患への「血圧のコ ントロール」がある.βブロッカーが大動脈径の拡大を 抑制するとの報告から使用されるが,解離の予防に使用 することについては未だ客観的評価がない.しかし,血 圧の管理が必要な例では,βブロッカーを第一選択とす る.最近,

TGF-

β阻害薬であるアンジオテンシンⅡ受 容体拮抗薬(

ARB

)の臨床応用が小規模研究でなされ,

大動脈起始部拡張の進行を有意に遅延させたとの知見も 出されている664

 弁疾患がある場合等には,感染性心内膜炎の予防や心 不全の内科治療が必要なことがある665

 外科治療は,弁疾患や瘤に対して応用されるが,経過 観察時に時機を逸せぬように定期的に画像診断で判定す る.大動脈の治療方針として,組織の脆弱性,解離の発 症や再手術の可能性等幾つかの配慮すべき事項があり,

早期に積極的な手術適応(例;胸部大動脈瘤径50mmで 手術適応を考慮)等が要請される.

表 31 マルファン症候群の特徴

骨  格: 高身長,長い手足,クモ状指趾,側彎,漏斗胸,

鳩胸,関節の過伸展

循環器系: 僧帽弁逸脱,大動脈弁閉鎖不全,大動脈瘤,大動 脈解離

眼 症 状: 近視,水晶体偏位,水晶体亜脱臼,網膜剥離 そ の 他: 硬膜拡張症,自然気胸

 また,他の合併症があれば,眼,気胸や胸郭変形等に も各専門医の対応が必要である.

 さらに,本疾患の性格上,患者本人および家族への精 神的援助も,忘れてはならない対応の1つである.

2 炎症性腹部大動脈瘤

1 概念・病理・病因

 炎症性腹部大動脈瘤(

inflammatory abdominal aortic aneurysm; IAAA

)は,1935年に

James

666により尿毒症 を 来 た す 原 因 疾 患 の 1 つ と し て 報 告 さ れ,1972年 表 32 マルファン症候群と類縁疾患の診断のための改訂 Ghent 基準(2010)

家族歴がない場合;

(1)大動脈基部病変注1)(Z≧2)かつ 水晶体偏位 →「マルファン症候群」

(2)大動脈基部病変(Z≧2)かつ FBN1遺伝子変異注2) →「マルファン症候群」

(3)大動脈基部病変(Z≧2)かつ 身体兆候(≧7点)→「マルファン症候群」

(4)水晶体偏位 かつ 大動脈病変と関連するFBN1遺伝子変異注3) →「マルファン症候群」

・ 水晶体偏位があっても,大動脈病変と関連するFBN1遺伝子変異を認めない場合は,身体兆候の有無にかかわらず「水晶体偏位 症候群(ELS)」とする.

・ 大動脈基部病変が軽度で(バルサルバ洞径;Z<2),身体兆候(≧5点で骨格所見を含む)を認めるが,水晶体偏位を認めない 場合は 「MASS」注4)とする.

・ 僧帽弁逸脱を認めるが,大動脈基部病変が軽度で(バルサルバ洞径;Z<2),身体兆候を認めず(<5点),水晶体偏位も認めな い場合は 「僧帽弁逸脱症候群(MVPS)」とする.

家族歴注5)がある場合;

(5)水晶体偏位 かつ 家族歴 →「マルファン症候群」

(6)身体兆候(≧7点) かつ 家族歴 →「マルファン症候群」

(7)大動脈基部病変(20歳以上Z≧2,20歳未満Z≧3)かつ 家族歴 →「マルファン症候群」

* この場合の診断は,類縁疾患であるShprintzen-Goldberg症候群,Loeys-Dietz症候群,血管型エーラスダンロス症候群との鑑別 を必要とし,所見よりこれらの疾患が示唆される場合の判定は,TGFBR1/2遺伝子,COL3A1遺伝子,コラーゲン生化学分析な どの諸検査を経てから行うこと.なお,鑑別を要する疾患や遺伝子は,将来変更される可能性がある.

注1) 大動脈基部病変:大動脈基部径(バルサルバ洞径)の拡大(Zスコアで判定),または大動脈基部解離 注2) FBN1遺伝子変異:別表にくわしく規定される(仔細省略)

注3) 大動脈病変と関連するFBN1遺伝子変異:これまでに,大動脈病変を有する患者で検出されたFBN1遺伝子変異

注4) MASS:近視,僧帽弁逸脱,境界域の大動脈基部拡張(バルサルバ洞径;Z<2),皮膚線条,骨格系症状の表現型を有する

注5) もの家族歴:上記の(1)~(4)により,個別に診断された発端者を家族に有する

身体兆候(最大20点,7点以上で身体兆候ありと判定)

• 手首サイン陽性かつ親指サイン陽性  3点

  (手首サイン陽性または親指サイン陽性のいずれかのみ  1点)

• 鳩胸 2点

  (漏斗胸または胸郭非対称のみ 1点)

• 後足部の変形 2点

  (扁平足のみ  1点)

• 肺気胸 2点

• 脊髄硬膜拡張 1点

• 股臼底突出 2点

• 重度の側彎がない状態での,上節/下節比の低下+指極/身長比の上昇  1点

• 側彎または胸腰椎後彎 1点

• 肘関節の伸展制限 1点

• 特徴的顔貌(5つのうち3つ以上):長頭,眼球陥凹,眼瞼裂斜下,頬骨低形成,下顎後退  1点

• 皮膚線条 1点

• 近視(-3Dを超える) 1点

• 僧帽弁逸脱 1点

表 33 マルファン症候群の心血管病変に対する治療 Class Ⅰ

 1. 定期的な画像診断による循環器の評価 (Level C)

 2. 大動脈径の拡大防止にβ遮断薬を使用 (Level C)

 3. 運動制限を検討すること (Level C)

Class Ⅱa

 1. 大動脈解離の予防にβ遮断薬を使用 (Level C)

 2. 弁疾患がある場合に抜歯などを行う際の抗生剤の使用

(Level C)

 3. 大動脈基部が45mmを超えるものへの基部置換術

(Level C)

 4. 解離の既往歴または家族歴のある症例における,大動 脈基部40mm以上での基部置換術 (Level C)

 5. 妊娠を検討している女性における,大動脈基部40mm 以上での基部置換術 (Level C)

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