という極限が存在することになる.E[P(E|γ[0, t])|Fs] = P(E|γ[0, s]), 0≤∀s < t なので,この極 限もマルチンゲールである.伊藤の公式より
d
(gt(x1))2· · ·(gt(xn))2Bn(h)(gt(x1),· · · , gt(xn))
=
(gt(x1))2· · ·(gt(xn))2 ×
n j=1
2
gt(xj)dgt×Bn(h)(gt(x1),· · · , gt(xn)) +
(gt(x1))2· · ·(gt(xn))2 ×
n j=1
−√
κdBt+ 2 gt(xj)dt
∂
∂yj Bn(h)(y1,· · · , yn)
yj=gt(xj),1≤j≤n
+κ 2dt ∂2
∂yj2 Bn(h)(y1,· · · , yn)
yj=gt(xj),1≤j≤n
.
となる.ただしここで,(4.18) を用いた.(4.19) も用いると,上のSDEのドリフト項は n
j=1
−4 yj2 + 2
yj
∂
∂yj +κ 2
∂2
∂yj2
Bn(h)(y1,· · · , yn)
yj=gt(xj),1≤j≤n (4.22) に比例することが導かれる.
局所マルチンゲール性より,このドリフト項は零であるが,(4.14)で導入した微分演算子を用いる と,この条件は
κ
2L2−1Bn(h)−2L−2Bn(h) = 0 (4.23) と書ける.
いま,{LNBn(h)}N∈に対応して,ベクトル{NB}N∈を考えて,これがWitt代数を表現してい るものとする;
[N, M] = (N −M)N+M. (4.24)
すると,上のマルチンゲール性(4.23)は,2つのベクトル2−1B と−2B が独立ではないことを意味 する.つまり,この表現は退化表現であることになる.
κ
22−1−2−2
B = 0 より,
2 κ
22−1−2−2
B= 0 かつ 1 κ
22−1−2−2
B = 0 であるが,交換関係(4.24) より
2 κ
22−1−2−2
B = κ
2(2−12+ 6−11+ 60)−2(−22+ 40)
B 1
κ
22−1−2−2
B = κ
2(2−11+ 4−10+ 2−1)−2(−21+ 3−1)
B
である. これに,最高ウェイト h をもつ最高ウェイト表現の条件 NB= 0, N = 1,2,3,· · · ,
0B=hB (4.25)
を課すと,
2 κ
22−1−2−2
B = (3κ−8)hB 1
κ
22−1−2−2
B = (2κh+κ−6)−1B (4.26)
となるので,これらが零となることから κ= 8
3, h= 6−κ 2κ = 5
8 (4.27)
と定められることになる.この結果は,定理 3.2を再現するものである.つまり
SLE8/3 が共形制限性をもつ ⇐⇒ Witt代数のレベル 2 の退化表現 (4.28) という対応が見られたことになる.
注 4.2. 中心元 c を導入することによって,Witt 代数はビラソロ代数 [N,M] = (N−M)N+M + c
12N(N2−1)δN+M,0 (4.29) に拡大される.これに対応して,共形制限性をもつランダム曲線γ (およびその確率法則PD;A,B)も 複素BM (h= 1)やSLE8/3 (h= 5/8)以外のものに拡張したい.定理3.2と上で見たように,SLEκ
は κ= 8/3 のときにのみ共形制限性をもち,このときはc= 0 であった.よってSLEκ を拡張しな
ければならない.
制限指数h (これが共形次元,最高ウェイトである) とκ との関係は h= 6−κ
2κ
であり,hはκ >0 の単調減少関数である.また,定理3.1より P(γ ⊂H) = (ΦH(0))h
であるが,ΦH(0)<1 であるから,P(γ ⊂H) はh の単調減少関数ということである.よって曲線 γ は,h が大きくなるにつれて,H に収まりにくくなる(H\H にぶつかりやすくなる). つまり
κ < 8/3, h > 5/8 の場合には,SLE8/3 に何か別の曲線群を付け加えて「うまく太らせて」やれば,
望ましい共形制限性をもつ確率法則が得られる可能性がある.
0< κ <8/3のときは
λ(κ) =−c(κ) = (6−κ)(8−3κ) 2κ >0
となる.Werner らは,この λ の密度をもつBrownian loops の Poisson cloud を SLEκ に加えて やる方法を考案している.この方法は,共形場理論で議論されるストレス・テンソル(streee-energy
tensor)に対する新しい確率論的な解釈を与えるものである.詳しくは,文献[3, 12]などを参照せよ.
A 2 節に関する補足説明
A.1 リーマンの写像定理について
Cˆ をリーマン球とする.領域D(開集合とする)に対して,そのCˆ における補集合Cˆ\DがCˆ の連結部分 集合をなしているとき,D は単連結領域(simply commected domain)であるという.C上の原点を中心とする 単位円をD={z∈C:|z|<1}と記す.
定理 A.1 (Riemann mapping theorem) D がC全体ではない単連結領域であるとする.この D 内の1 点 ω∈D を選ぶ.このとき,D を単位円Dに写す共形変換で
f(w) = 0 かつ f(w)>0 (A.1)
であるものが存在し,それは一意的に定まる.
証明は[1, 5] などを参照せよ.
上半平面Hの有界部分集合Aにおいて,A=H∩Aであり,かつH\Aが単連結であるとき,Aをcompact H-hullという.compactH-hull全体の集合をQと書くことにする.A∈ Q自体は連結である必要はない.
A∈ Qが与えられているものとする.H\AはC全体ではない単連結領域なので,リーマンの写像定理(定 理 A.1)より
fA(1) :H\A → D という共形変換が存在することが保証されている.また,M¨obius変換
f(2)(z) = αz−αβ
z−β , |β|= 1, α∈H (A.2)
は
f(2):D → H
の共形変換である(f(2)(0) =αである). この2つを合成したfA(3)=f(2)◦f(1) は fA(3):H\A → H
なる共形変換である.
H\Aの境界は,Aの境界と実軸から成る.fA(1):H\A→Dによって,この境界は単位円周上{z∈C:|z|= 1}
に写されることになる.また,f(2):D→Hによって,単位円周はHの境界,すなわち実軸(および無限遠 点∞)に写ることになる.このことから,fA(3):H\A→Hによって,実軸上の点は実軸上の点に写されるこ とになる.(またAの境界も実軸上に写される.)
また,無限遠点∞は,(A.2)で与えられるfA(1) により単位円周上のいずれかの点に写されるが,f(2) では 特にz=β という単位円周上の点が∞に写される.よってf(2) のパラメータβ を調節することにより,
zlim→∞[fA(3)(z)−z] = 0
となるようにfA(3) を選ぶことができる.(これを流体力学的条件(hydrodynamic condition)と呼ぶ.)
以上ではfA(3) はH\A上で定義された関数であるが,これは実軸上z∈Rでは実関数であるので, シュバ ルツの鏡像原理によって下半平面に解析接続することができる.1/fA(3)(1/z)を考えると,これは原点0 を原
点 0に写すanalytic関数であるから,原点0の周りで次のようにテイラー展開できる.
1
fA(3)(1/z) =a1z+a2z2+z3z3+· · ·, aj∈R.
これより
fA(3)(z) =b1z+b0+b−1z−1+b−2z−2+· · ·, bj ∈R
という展開が得られる.ここで,z∈RのときにfA(3)(z)も実数であることから,係数aj, bj ∈Rである.
次に,H→HのM¨obius変換で∞を ∞に写すものを考えることにする。これは
f(4)(z) =d1z+d0, d1>0, d0∈R で与えられる.これとfA(3) との合成を考えると
[f(4)◦fA(3)](z) = f(4)(fA(3)(z))
= d1b1z+ (d1b0+d0) +d1b−1z−1+d1b−2z−2+· · · となるが,特に
d1b1= 1, d1b0+d0= 0 ⇐⇒ d1= 1
b1, d0=−b0 b1 と係数d0, d1 を選ぶことにする.こうして定められた共形変換を
gA:H\A → H (A.3)
と書くことにすると,これは流体力学的条件
zlim→∞[gA(z)−z] = 0 (A.4)
を満たし,
gA(z) =z+c−1z−1+c−2z−2+· · · , cj∈R (A.5) と展開されることになる.