第 6 章 マネー・ローンダリング事犯の動向
第 1 節 マネー・ローンダリング事犯の検挙状況等
第1項 組織的犯罪処罰法に係るマネー・ローンダリング事犯の検挙状況等 1 | 検挙状況
平成19年の組織的犯罪処罰法に係るマネー・ローンダリング事犯の検挙件数は、犯罪収益等の 仮装・隠匿罪137件(前年比+46件)及び犯罪収益等の収受罪40件(前年比−2件)の合計177件
(前年比+43件)を検挙し、法施行後の検挙件数は累計で582件となった。
第 6 章 マネー・ローンダリング事犯の動向
マネー・ローンダリングを防止するための効果的な対策を 講ずるためには、その規模や手口を把握することが必要とな る。そのための手段としてJAFICが利用しているのは、マネ ー・ローンダリングの検挙事例と疑わしい取引に関する情報 である。本章第1節では、このうちマネー・ローンダリング の検挙事例からみた現状を解説する。
我が国でマネー・ローンダリングが犯罪とされているの は、第2章で解説したとおり、組織的犯罪処罰法に定める不法収益等による経営支配 罪(9条)、犯罪収益等隠匿罪(10条)、犯罪収益等収受罪(11条)及び麻薬特例法 に定める薬物犯罪収益等隠匿罪(6条)、犯罪収益等収受罪(7条)である。これは犯 罪収益を移転する行為のすべてを捉えるものではないが、資金追跡が困難な場所への 送金や借名口座への入金などマネー・ローンダリングの典型とされる行為が含まれる ものとなっている。
マネー・ローンダリングがどの程度犯罪として検挙されているかをみることは、我 が国のマネー・ローンダリング対策の成果を知る一つの手がかりともなる。また、こ うした犯罪検挙の結果として、犯罪者の手元にあった犯罪収益がどの程度はく奪され ているかをみることも、同様に対策の成果を知る重要な手がかりとなる。そこで、本 章第2節では、犯罪収益のはく奪とこれを確保するための保全措置の状況について解 説する。
H12
不法収益等による経営支配(9条)犯罪収益等の仮装・隠匿(10条)
犯罪収益等の収受(11条)
0
(1)3 0
H13
0(5)10
(2)2
H14
0
(9)19
(7)9
H15
0
(25)45
(10)11
H16
0
(29)50
(11)15
H17
0
(21)65
(27)42
H18
1
(18)91
(35)42
H19
0
(35)137
(25)40
合計
1
(143)420
(117)161 図6−1 組織的犯罪処罰法に係るマネー・ローンダリング事犯検挙件数
組織的犯罪処罰法に係るマネー・ローンダリング事犯の検挙件数を前提犯罪ごとに見ると、出 資法・貸金業法違反等いわゆるヤミ金融事犯に係るものが49件と最も多く、続いて、振り込め詐 欺等の詐欺に係るものが38件、売春防止法違反に係るものが16件、さらに、わいせつ物頒布等事 犯が15件と続いている。平成18年と同様、ヤミ金融事犯、詐欺及び売春防止法違反が前提犯罪の 上位3類型であり、依然として、ヤミ金融事犯、振り込め詐欺等の詐欺、管理売春事犯が犯罪収 益の源泉となっていることがうかがえる(なお、麻薬特例法に係るマネー・ローンダリング犯罪 検挙件数については、本節第2項参照)。
2 | 検挙事例からみるマネー・ローンダリングの手口
(1)犯罪収益等の隠匿方法の例
平成19年には、犯罪収益等の隠匿形態として、日本企業と外国企業との貿易における決済方 法を巧みに利用した事件(事例7)、海外から送金された犯罪収益の取得に際し、売買代金の回 収を装い、その旨金融機関に対して申し向けた事件(事例8)、窃取又は詐欺行為により得た財 物を他人になりすまして売却した事件、不正に入手した他人の住民基本台帳カードを利用して 住宅ローンの融資を受けて購入したマンションの登記を同カード上に表示されている者の名義 で行った事件(事例3)、犯罪収益である現金を架空人名義で賃借しているガレージ、他人名義 の貸金庫又は親族の住居に隠匿していた事件、詐欺の被害金を架空の法人名義の私設私書箱に 郵送させていた事件(事例2)、詐欺の被害金を振り込ませていた借名口座から更に別の借名口 座へ犯罪収益等を移し替える事件、犯罪収益等である現金を実母名義で、実母名義の証券会社 の総合口座に入金した上、これを用いて株式を購入している事件がみられるなど、様々な方法 により犯罪収益の追及を回避しようとしている状況がうかがえる。
なお、特に架空名義口座・借名口座は、振り込め詐欺やインターネットオークション詐欺、
非対面型の薬物密売、ヤミ金融事犯など様々な犯罪における資金の入出金に利用されており、
依然としてマネー・ローンダリングの主要なインフラとなっている。
(2)国際的マネー・ローンダリング事件における我が国の金融機関に開設された口座の利用
平成19年には、日本国内に居住するナイジェリア人が日本人と結託して詐取した多数の銀行 口座を、海外での詐欺行為により得られた犯罪収益のマネー・ローンダリングに利用していた 隠匿事件(事例8)が検挙された。本件は、世界レベルでの治安に大きな影響を与えている国 際犯罪組織により海外において敢行されたと思料される犯罪に係る収益のマネー・ローンダリ ングに関し、海外捜査機関との協力によりその犯罪収益性を明らかにするとともに、犯罪収益 をマネー・ローンダリングの中継点である日本において捕捉した事件であるが、本件の検挙は、
マネー・ローンダリング対策における国際的協調の重要性及びこの種捜査における海外関係機 関との緊密な連携の重要性を改めて認識させることとなった。
こうした事件に的確に対処するためには、ICPOを通じての情報交換など外国治安機関と の捜査協力が重要であることはいうまでもないが、これを更に効果的なものとするため、JA FICでは、外国FIUとのMOU締結を推進することにより情報交換を活発に行っていくほ か、海外における情報収集も恒常的に実施することとしている。
3 | 暴力団構成員等が関与するマネー・ローンダリング事犯
平成19年中に組織的犯罪処罰法に係るマネー・ローンダリング事犯で検挙されたもののうち、
暴力団構成員等が関与したものは、犯罪収益等の仮装隠匿罪では35件(前年比+17件)、犯罪収益 等の収受罪では25件(前年比−10件)の合計60件(前年比+7件)で適用事件全体の33.9%を占め ている。
マネー・ローンダリング事犯の動向
暴力団構成員等が関与したマネー・ローンダリング事犯を前提犯罪別に見ると、主要な犯罪とし ては、ヤミ金融事犯が14件、売春防止法違反が13件、詐欺が11件のほか、賭博、恐喝、窃盗、わ いせつ物頒布等事犯、商標法違反、著作権法違反等、依然として暴力団組織は多様な犯罪に関与 し、マネー・ローンダリング事犯を敢行している実態がうかがえる。
(1)ヤミ金融による犯罪収益と暴力団
平成19年1月に施行された改正出資法により、業として行う著しい高金利の受領行為等に係 る罰則が新設されたが、依然として、暴力団構成員等はヤミ金融事犯による犯罪収益の隠匿事 件に多く関与している。隠匿の方法としては、被害者から違法に徴収した利息を借名口座に振 り込ませる方法が一般的であるが、その際、警察の追及を逃れるため、架空の建設業者名義の 口座を返済金の受入れ口座として指定した上、債務者にも架空の建設業者名義で振り込ませる 方法により、巧妙に犯罪収益を隠匿している事例もみられる。
(2)詐欺による犯罪収益と暴力団 ア 振り込め詐欺の事例
暴力団構成員等が関与した詐欺の犯罪収益に係るマネー・ローンダリング事犯の検挙11件 のうち、振り込め詐欺に係るものは5件であった。3月に警視庁が検挙した事件では、借名 口座への振込みのほか、架空の法人名義で開設した私設私書箱に現金書留を送付させる方法 により、犯罪収益の隠匿が行われており、既に本人確認が実施されている金融機関等を避け て、より犯罪収益の追跡が困難なマネー・ローンダリングの方法を模索している状況がみら れる。
イ 詐取金で購入した不動産の登記を、偽造した住民基本台帳カードの名義で行った事例 2月に警視庁及び埼玉県警が検挙した、暴力団員が路上生活者の住民票等を操作して、区 役所から自らの顔写真入りの住民基本台帳カードを入手していた事件では、同カードを利用 して金融機関から詐取した住宅ローンの貸付金を用いて購入した中古マンションの登記を、
カード上の人物に成りすまして同人名義で行う方法により、犯罪収益の隠匿が巧妙に行われ
6
章マ ネ ー ・ ロ ー ン ダ リ ン グ 事 犯 の 動 向
【事例1】(ヤミ金融の貸金業法違反(無登録)・出資法違反(高金利)事件に係る犯罪収益の隠匿)
無店舗型ヤミ金融(いわゆる090金融)を営んでいた山口組傘下組織構成員らが、顧客約 200名に対し、法定利息を7倍から100倍程度超える高金利で貸金業の登録を受けずに貸し付 け、その貸付金の利息等を同人らの管理する借名口座に顧客をして振り込ませたことから、
組織的犯罪処罰法違反(犯罪収益等隠匿)で検挙した。
(11月 京都)
【事例2】(振り込め詐欺(架空請求詐欺)事件に係る犯罪収益の隠匿)
山口組傘下組織準構成員らが、平成17年5月ころから平成18年5月ころまでの間、前後160 回にわたり、不特定多数人をして、会員負担金の支払い等名下に複数の架空法人名義の私設 私書箱宛に約1億8,000万円を郵送させたほか、平成18年4月ころから同年7月ころまでの間、
被疑者らが管理する借名口座に詐取金約5,000万円を入金させたことから、組織的犯罪処罰法 違反(犯罪収益等隠匿)で検挙した。
(3月 警視庁)