• 検索結果がありません。

マクロ政治変動はなぜ生じ、なぜ特定の結果に終わるのか

ドキュメント内 マクロ政治変動の国際比較 (ページ 65-154)

第1節  変動をめぐる問題の再定式化

さてこのように、それぞれ

3

タイプの初期状態と変動結果の組み合わせからなる計9つ のパターンでマクロ政治変動を整理するならば、あらためて、変動に関して明らかにされ るべき疑問とはどのように定式化されうるであろうか。

まず、既存研究では、変動の選定基準は体制変更のみとされ、ゆえに変動は多元制か一 元制という相互に排他的で集合的に網羅的な二種類の状態間の推移として概念化されるた め、転換「点」以上の幅を論理的にも時間的にも持ち得ず256、必然的に多元制崩壊という 問題と一元化という問題、そして一元制崩壊という問題と多元化という問題は、それぞれ 同義であった。よって一方の問題を解明することは他方の問題も解明することを意味して いる。例えばプシェヴォルスキらの研究では、各国の各年の状態を民主制か権威主義体制 のどちらかに分類したうえで、民主的と分類された期間から権威主義的と分類された期間 への切り替わりの時点、あるいはその逆方向の切り替わりの時点のみを変動とみなし257、 ある体制に基づく政治秩序が崩壊しても結果的に体制変更が起こらない場合は無視される ので、民主制の崩壊は常に独裁化、そして独裁制の死は必ず民主化となり、ここから論理 必然的に、民主制の崩壊の原因は独裁化の原因でもあり、独裁制の死因は民主化の原因と 同義として議論がすすめられていたのである。実際、もし彼らの分析枠組みで「帰結問題」

を「崩壊問題」と区別して論じたとしたらそれは重複となるであろう。

しかしながら、このような分析枠組みは、既述のとおり、体制変更のみに関心がある場 合はひとつの有効な手立てであるとしても、変動という言葉に崩壊の意味も含めて考える ならば適切とはいえない。そしてこの考えに沿って上述のように変動概念を再定義するな らば、変動の始まりと終わり、つまり既存状態の崩壊と変動の帰結は、時間的にずれる可 能性がでてくるだけでなく、また、論理的に表裏一体の関係にあるわけでもないので、崩 壊問題を論じれば帰結問題は省略できるということにはならない。両者は別個の問題とな る。

例えばある権威主義の時代が2つの独裁政権から構成されていた場合に、最初の一元制 の崩壊は、第二の一元制の崩壊とは異なり、多元化とイコールの関係にはないので、その 原因が多元化の原因と同じということにはならないはずである。逆に第二の一元制の発足

(一元化)は、第一の一元制の発足とは異なり、多元制の崩壊とイコールの関係にはない ので、その原因が多元制の死の原因と同じであるともいえないはずである(次ページ図 6 参照)。これは変動に時間的な幅があるか否かに関わらない。

また、より具体的な例で言うならば、

1969

年にリビアのイドリース国王の一元的体制は 崩壊したが、続いて現れたのはカダフィ大佐による一元的体制であったし、

1959

年のキュ ーバにおけるバティスタ独裁の崩壊は、カストロによる独裁に帰結している。これらは明 らかにひとつの一元制の死ではあっても多元化ではないため、それらをもたらした原因は、

256 これは分類が二分法の場合だけでなく、三分法の場合にも該当する。そこでは、中間形態が変動「期」として位 置づけられているわけではなく、単に静的なカテゴリーが3つに増えただけで、結局変動は「点」である。 

257 より正確に言えば、12 月 31 日の状態に基づいて分類されているので、切り替わった最初のカントリー・イヤーが 変動と位置づけられる。 

一元制の死因以上ではありえない。他方で、一元制の終焉でもあり多元化でもあった

1989

年の東欧諸国における変動では、共産党独裁の崩壊をもたらしたものがこれらの国での多 元化の原因でもあった、とすることは不可能ではない。しかしそれは結果論であって、こ れらの変動がリビアやキューバのように別の一元制に帰結した可能性も排除できないはず である。そうならずに多元化したのは、崩壊の原因とは別にこれらのケースを差異化する 何らかの要因が働いていたと考えられるのである。

民主化という結果にいたらなかった 独裁制の崩壊

変動

変動 変動

democratici

democratici authoritariani authoritariani authoritariani authoritarianj authoritarianj demoracticj democraticj democraticj authoritariank

A国 1978

1979 1980 1981 1982 1983 1984 1985 1986 1987 1988 西暦

(民主制の死=独裁化)

(独裁制の死=民主化)

(民主制の死=独裁化)

原因A = 原因B

原因C = 原因D

原因A = 原因B

図 6:ダイナミック・プロビットにおける変動概念と因果関係258 

このように変動を体制変更に限定しない場合には、ある状態の崩壊と、その次の状態の 発足という問題は、いかに時間的に近接していようと論理的には区別して考えねばならな い。そしてまず変動の開始に関しては、変動前の状態ごとに3つの問いが立てられる(表 6 左側の太線三枠)。すなわち、①なぜ、いつ、多元的システムは崩壊するのか、②なぜ、い つ、一元的システムは崩壊するのか、そして③なぜ、いつ、システムは誕生(ステイト・

レベルの政治ユニットとして発足)するのか、という問題である。他方、変動の終了に関 しても、帰結する状態ごとに3つの疑問が立てられる。すなわち、なぜ、変動の結果とし て、多元化、一元化、あるいはユニットとしての消滅に帰結したのか、という問いである。

ただし「変動後の状態」は、それぞれが因果関係を検証する際の比較の対象(negative case) であり、よって帰結する状態を従属変数としたこの3つの問いは、事実上ひとつの問いで

258 ダイナミック・プロビットでは、まず、A(独裁制)と D(民主制)に状態を二分したうえで、(t−1)時に D であった 国がt時に A への推移する確率 Pda(t)と、(t−1)時に A であった国がt時に A にとどまる確率 Paa(t)を算出し、そ こから1−Pda=Pdd、1−Paa=Pad を算出する。 

( ) ( )

( ) [ ( α β ) ]

β +

=

=

1 1 t aa

t da

X F t P

X F t

P

 

パラメーターβは Pda(独裁化)の係数で、パラメーター(α+β)は Paa の係数。よって、(−α−β)が Pad(民主 化)の係数となる。つまり(α+β)が大きいほど、民主化の確率は低い(Przeworski et al. 2000: 137-139.)。ただし、

ボイッシュはβを民主化のパラメーター、α+βを独裁制存続のパラメーターとしている(Boix 2003: 78, 81.)。 

ある(表 6右側の太線一枠)。

 

表 6:従属変数の位置関係 

状態 変動の開始=既存状態の崩壊 変動の終了=新たな状態への帰結 多元的システム なぜ、いつ、多元的システムは崩壊す

るのか(=多元的システムはどのような 場合に安定するのか)

なぜ、変動の結果、多元的システムに 帰結したのか(=なぜそれ以外の結果で はなかったのか)

一元的システム なぜ、いつ、一元的システムは崩壊す るのか(=一元的システムはどのような 場合に安定するのか)

なぜ、変動の結果、一元的システムに 帰結したのか(=なぜそれ以外の結果で はなかったのか)

非存在 なぜ、いつ、システムは誕生するのか

(=非存在という状態はどのような場 合に安定するのか)→統計的検証は困難

なぜ、変動の結果、システムは消滅し たのか(=なぜそれ以外の結果ではなか ったのか)

それに対して、変動の開始に関する3つの問いは、ひとつにまとめることはできない。

なぜなら「変動前の状態」同士は、この場合の因果関係を検証するための比較の対象では なく、どちらかのタイプの体制の崩壊原因を突き止めれば、問いそのものから、もう一方 のタイプの体制の崩壊原因も論理的に導き出せるというわけではないからである259。むし ろ体制横断的に崩壊を促進する因子などもあり得るだろう。もちろん、2つの政治体制が 対照的であることを考えれば、それぞれの崩壊が同じ要因の正反対の影響で説明できると する仮説を立てることはできるだろうが260、それを立証するにはシステムごとの検証が必 要である。

ただし、この変動の始まりに関する問いのうち、システム誕生に関する問い(表 6の左 下)は、理論的にはステイト・レベル以外であればあらゆるレベルの潜在的ユニットが因 果関係検証の際の比較の対象となりうるので、仮説は立てられても統計的に検証すること は困難である。そのためここで論じることは避けるので、最終的に、本研究での従属変数 は、多元的システムの崩壊時期と一元的システムの崩壊時期、そして変動の帰結の3つと いうことになる。次節においてまず変動の契機をめぐる因果関係を検証し、第

3

節におい て帰結をめぐる因果関係を検証することにしたい。

259 もっとも各問いは、それぞれ「既存のシステムがどのような場合に安定するのか」という問題とは表裏一体の関 係にあり、因果関係を検証する際の比較の対象も、それぞれ同一タイプで崩壊しなかった(安定している)ユニット もしくは「期間」となり、その答えも、変動前の状態ごとに論理的に同じ要因の強弱や存否で済む。 

260 例えば発展レベルが高いほど多元制は生存しやすく、一元制は崩壊しやすい、など。 

ドキュメント内 マクロ政治変動の国際比較 (ページ 65-154)

関連したドキュメント