第 3 章 アミノ酸により架橋されたバイオベースポリグルタミン酸ゲル 32
4.4 結果と考察
4.4.3 ポリ(カーボネート-ウレタン)の酵素分解
本章で合成したポリ(カーボネート-ウレタン)は、加水分解酵素により主鎖分解を起こ すことを期待して設計した。そこで、4.4.2で合成したPTeCUおよびPHCUを、アニソール に分散、溶解し、リパーゼ CA を用いた酵素分解試験を行った。このとき、加水分解に伴 う、脱炭酸反応を避けるため、無水アニソールを溶媒として使用した。PTeCU の酵素分解 反応前後の、SECクロマトグラムの変化をFigure 4.2に示した。PTeCUのポリマーのピーク が、オリゴマー領域にシフトしたことがわかる。しかし、PHCU はいずれも、PTeCU と同 条件ではリパーゼCAによってオリゴマーレベルまで分解されなかった。PHCUのアニソー ルへの溶解性が低かったことが一因として考えられる。
Figure 4.2 SEC profiles of the degradation products of 4 mg/mL PTeCU in anisol by 200 wt-% of lipase CA at 110 °C for 24 h. (a) before degradation. (b) after degradation.
酵素分解生成物の分子構造についてMALDI-TOF MS を用いて分析を行った。その結果を
Figure 4.3に示した。MALDI-TOF MSと1H NMRの測定結果から、分解生成物は、主に環状
オリゴマーから成っていると考えられる。例えば、397、513、655および771 m/zで観測さ れたピークは、環状オリゴマー由来と同定された。一方、371、487、629および745 m/zの ピークは、計算上、環状オリゴマーおよび末端水酸基を持つ鎖状オリゴマー、両方の分子 質量と一致する。しかし、1H NMRでは、末端水酸基に由来するメチレンプロトンのピーク はほとんど観測されなかった。PTeCUの酵素分解は、溶媒として無水アニソールを使用し、
反応系に水を添加しない、鎖状オリゴマーが生成しない条件で行っていることから、分解 生成物中には対応する鎖状構造は含まれていないと考えられる。また、類似した反応条件 で、構造規則性の高い、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリ(カーボネート-ウレタン)
15 20 25
Retention time (min) (a)
(b)
やポリ(エステル-ウレタン)を有機溶媒中でリパーゼを用いて酵素分解した場合、対応す る環状オリゴマーのみが選択的に生成され、ポリマーのケミカルリサイクルに利用できる ことが報告されている[17, 18, 20-23]。以上の結果から、これまで報告されている、酵素リパー ゼを用いた分解と分解生成物(環状オリゴマー)の再重合によるケミカルリサイクルシス
テム[17, 18, 20-23]が、PTeCUのような構造規則性の低いポリウレタンにも応用できる可能性が
あることが示された。
C O
NH 6 CH2 NH C
O
n C
O
O CH2 O 4
O CH2 O 4 m C
O NH
6 CH2 NH C
O
n C
O
O CH2 O 4
O CH2 O 4 m
cyclic oligomer: M = 258m + 116n
300 400 500 600 700 8 513 [M + Na+]
(m=1, n=2)
371 [M + Na+] (m=0, n=3)
629 [M + Na+] (m=1, n =3)
*
*
*
745 [M + Na+] (m=1,n=4)
771 [M + Na+] (m=2, n=2) 397 [M + Na+]
(m=1, n=1)
603 [M + Na+] (m=0, n =5) 487 [M + Na+]
(m=0,n=4)
655 [M + Na+] (m=2, n =1)
* 253 [M + Na+]
(m=0, n=2)
*
*
[m/z]
*:Matrix
Figure 4.3 MALDI-TOF mass spectrum of the degradation products of 4 mg/mL PTeCU in anisol by 200 wt-% of lipase CA at 110 °C for 24 h.
さらに、得られた酵素分解生成物についてBOD測定を行った。活性汚泥を用いて測定し たBOD値と計算したThODから求めた、ポリマーおよびオリゴマーの生分解度をFigure 4.4 に示した。PTeCUの酵素分解生成物の活性汚泥による生分解度は28日間で48 %に達した。
この結果から、PTeCU は、コンポスト条件のような適切な環境下で、低分子成分に加水分 解されれば、最終的に生分解可能であると考えられる。ポリ(カーボネート-ウレタン)の ソフトセグメントとして用いたoligo(TeC) diolは、1,4-ブタンジオールと炭酸ジエチルにリ パーゼ触媒を作用させて重合したが、このoligo(TeC) diol単独の場合には、活性汚泥によっ て容易に生分解され、Figure 4.4に示すように、BODによる生分解度は培養期間2週間以内
で60 %に達した。一方、PTeCUフィルム(厚さ100 μm)はBOD試験液中ではほとんど生
分解されず、生分解度は6 %程度にとどまった。今回のBOD試験条件下でPTeCUの生分解 が遅かったのは、PTeCU フィルムの疎水性が高く、微生物による攻撃を受けにくいためと 考えられる。これらの結果から、合成されたPTeCUは、耐水性が高く、かつ酵素分解可能 であり、潜在的に生分解性を有するポリウレタンであることが示唆された。
0 20 40 60 80 100
0 5 10 15 20 25 30
Cultivation time (day)
Biodegradability (%)
Figure 4.4 BOD biodegradability of oligo(TeC) diol (○), PTeCU (•), and the enzymatic degradation product of PTeCU (♦). The test was conducted using activated sludge at 25 °C.