1節 日系企業に対する提言
アンケートおよび日系企業へのインタビュー調査からわかるように、現在のベトナムに おいては外資企業が技術移転、人材育成を行えるような環境が整っていない。つまり専門 的人材が不足しているために企業内においては高度な技術が移転されておらず、企業間に おいても裾野産業が未発達であり、部品企業との技術協力関係も生まれていない。したが って日系企業の進出がベトナムの持続的発展に貢献していないケースが多いことがわかっ た。ベトナム人が自ら技術の革新と生産性の向上を遂げ、持続的経済発展を達成する為に は、産業を支える専門的人材と裾野産業の発展が不可欠である。
そこで私たちは日系企業に対して、「経営ビジョンを重視したベトナム人技術指導者の育 成」を提言したい。ここで述べる経営ビジョンとは、前章で述べたように日本の進んだ技
術を自国の技術と融合させて成長していこうという向上心と、それを具体的に PDCI(計
画、実行、確認、改善)として行動に移せることを指す。指導者とは①生産技術を持った 指導者と、②経営ノウハウを持った指導者を示す。アンケートの分析結果より、ただ人材 を育成するのではなく、より具体的に「ベトナム人指導者」の育成が必要であると考える。
いつまでも日本人が指導者として育成するのではなく、ベトナム人指導者によって育成し 続ける事が理想的である。
したがって、企業内技術移転においては生産技術に関して4章で述べたHonda Vietnam
のように多くの技術を日本人、ベトナム人双方で担当させ、ベトナム人が高度な生産技術 にも関わっていることが重要である。そして、その中でも特に経営ビジョンを持ったベト
ナム人を指導者として育成することで、将来的にベトナム人が技術者を育成できるように なり、そこからさらに新たなベトナム人指導者が生まれるという好循環が生まれる可能性 がある。経営ノウハウに関しても、中間管理職を積極的にベトナム人に任せることが必要 である。アンケートの結果より「日本的経営を現地に合わせて相当修正して導入している」
という企業が多くあったが、これはあくまで「日本人」がベトナム人に合ったものと判断 し、修正して導入したと判断できる。ベトナム人が自分達の社会に合った方法へアレンジ できるようになることが持続的に発展を遂げていく過程で重要である。
企業間技術移転においては、一般企業のように、QCD(品質、価格、調達)が整ってな
いために諦めるのではなく、経営ビジョンを持ち、PDCI(計画、実行、確認、改善)を 実行できる経営能力を持った経営者に目を向け、技術協力するべきだろう。ここから技術 協力関係が生まれ、外資の持つ生産技術、経営ノウハウが移転される。もちろん、企業間 技術移転においても企業内技術移転と同様、指導者を育成していくことは重要である。
以上のように、日系企業は『経営ビジョンを重視し、ベトナム人指導者を育成すること』
を重視するべきではないだろうか。技術移転の後にベトナム人指導者が増え、裾野産業が 発展し、現地企業から部品を調達できるようになれば、様々なメリットが期待できる。具
体的にベトナムで訪れたHonda Vietnam以外の企業の事例を述べると、ダンボールを製
造しているOjitex Haiphonは現地で部材調達をすることにより、コストの削減や時間の
短縮はもちろん、部品に問題が起きた時にすぐ対処できるようになった。近くにいるから こそ、頻繁に行き来し品質の改善指導が出来ることがメリットだと伺った。現地化を進め た結果、部材の調達コストが3割も削減できるようになり、部品の納入もスムーズに行え
るようになったようだ。ダンボールという製品は数日で納品しなければならない場合が多 いため、国外から部品を輸入するよりも現地から調達する方がメリットは大きい。Ojitex Haiphonは、部材の現地調達促進により成功した企業のひとつと言えるだろう。
しかし、全ての企業がHonda VietnamやOjitex Haiphonのように現地企業を育成でき
るわけではない。中小企業など資金面で余裕のないところもある。そこで、人材派遣費用 や人材育成費用を含めた資金面で限界がある中小企業については、JODC(海外貿易開発 協会16)などの機関を積極的に活用することでその問題は緩和できるのではないかと考え
る。
2節 政府に対する提言
日系企業と同時に、ベトナム政府も技術者養成学校などを設立し「ベトナム人指導者」
の育成に力を入れ、外資企業が技術移転をしやすい環境を整えなければならない。具体的
には、今までにベトナム政府と JICA(国際協力機構)が協力して JOVC(ベトナム・日
本人材協力センター17)を設立している。ここでは中間管理職クラスの人材育成を行って いるが、こういった指導者の育成をさらに強化するべきである。専門的人材の育成に関し ては、外資企業による進出や合弁企業の設立が進む中で技術労働者の能力向上が重要な課 題であるとの認識から、JICAの事業として「ハノイ工科短期大学機械技術者要請計画18」 を実施し、日本から専門家を派遣し育成を行っている。このような事業の促進をより積極
的に取り組むことが望ましい。
16 2003年設立。「海外の関連会社での生産性の向上、製品の品質向上、技術レベル等を向上させるため、
自社の従業員等を派遣している。」(JOVCのHPより一部抜粋)
17 JICAの技術協力のひとつ。「ビジネス」「コンピューター」「日本語」の教科で、市場経済化を狙う人 材を育成している。所在はホーチミン市。(同上)
18 ベトナム国からの要請により、2000.4.1〜2005.3.31の期間で行っている。
また、2003年にはより包括的なプロジェクトとして、ベトナム政府と日本政府が協力し
て「競争力強化のための投資環境整備に関する日越共同イニシアティブ」を立ち上げた。
2004年の中間報告では、個々のプロジェクトの達成度合いにばらつきはあるものの、投資
に対する規制の緩和など政策面では概ね達成されたようである。しかし、裾野産業への恩 典措置や、地場裾野企業のデータベース化などは未だ進展せず、ベトナム政府からの情報 提供がなされていないのが現状である。そして、日系企業がベトナム投資をする際に問題 としているのが「頻繁に変わる政府の投資政策」であるため、あまりにも安直な政策変更 は逆に信頼をなくしてしまう可能性がある。ベトナム政府、日本政府双方の協力と共に、
情報交換を強化し、投資環境を整えるべきである。
この提言により、直接投資は「経営ビジョン」を重視した技術移転により人材が育成さ れる。ここで「指導者」を育成することによりベトナム人による企業経営が可能になる。
そして、裾野産業が育成されることにより裾野産業内で競争が発生し、組み立て企業との 研究開発などが促進され、産業競争力が強化される。そうすれば、いずれはベトナムの自 立的発展、つまりベトナム人による持続的発展が実現されるのではないだろうか。
参考文献
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http://www.f.waseda.jp/tvttran/jp/jronbun/jronbun.html