これまで分析したキプロスとイタリアの事例からみる限りは、ベイルインという手 段が付け加わることで、小国における主要銀行の破綻に瀕した危機においては対応に おける大きな意味のある手段となりうる可能性があるものの、経済規模が大きな国に おいては、対応手段が一つ増えた以上の意味合いは見いだせなかったように思われ る。むしろ、イタリアのケースでみた通り、状況次第では、政治的なイシューとな り、本来のベイルインの機能が果たされないばかりか、問題がかえって複雑になる可 能性もあると思われた。もっとも、これまでのベイルインについての事例は、まだ数 少ないものであり、また、制度的にも改善が図られようことから、断定的に考えるこ とは控えるべきであろう。ただ、①政治的な問題が生じる可能性があること、②ベイ ルイン対象債券等の保有者が多くなればなるほど、その破綻時の効果とは逆に、ベイ ルインの実施には抵抗が大きくなること、③クロスボーダーの取引やマネーロンダリ ングの問題が含まれると事態が複雑化すること、などの点が、本稿でのこれまでのレ
ビューで明らかになったわけであり、ベイルインの活用において留意を要する。
最後に、金融危機対応のポイント・注意点を、必ずしもベイルインに関係しない点 も含めて、ごく簡潔に示すことで、結びに代えたい。
・国家経済規模と破綻の影響を比較したうえでの枠組みの構築が必要であり、危機が 深刻化している金融機関が国家経済規模との比較で十分大きい場合は、ベイルイン を含めてあらゆる手段を用いて早期に抜本的な対応を図ることが、対応コストの最 小化に繋がる可能性が高いこと。
・金融危機は、ある程度事態が深刻化すると展開が加速度的に早くなり、また市場で の危機の伝播も速いため、疑心暗鬼状態が生じてしまう可能性がある。このため、
市場伝達の速さを踏まえたうえでの早期の抜本的な対応(=ストレステストや市場 評価に耐えうるような対応)が必要であること。
・何らかのネガティブなフィードバップループが発生していることが判明した場合 は、早い段階でそれを遮断するよう努めないと、事態のさらなる悪化を食い止める ことができなくなる可能性があること。
・ベイルインについては、一部ステークホルダーに損失を与えることを背景に、政治 的な関与が発生する可能性が少なからずあることから、金融危機のフェーズにおい ては、政治的なイベントとの関係を遮断すべきであること。また、全般的な危機対 応の判断に当たっては、政治的な面に左右されることなく、金融経済的な側面から 専門家が決定を行う、あるいは、専門家の判断した対応プランを尊重することが望 ましいこと(政治が絡むと国内事情を優先する可能性もあることから、ベイルイン などを含めた専門性が求められるような案件を政治問題化させたり、国民投票など を絡めてはならないこと64))。
・上述の面から考えると、金融監督当局と政治とのコミュニケーションのチャネルを 常日頃から確立しておくことが必要であること。
・マーケットの反応についてみると、当該金融機関の規模と国家経済規模・マーケッ ト全体の規模との関係でかなり異なってくる可能性があるため、事前に想定するこ とは難しいが、突然、想定外の大きな変動等(CDS急騰、株価急落、スプレッド 拡大)が生じる可能性があることを踏まえて対応する必要があること、またマー ケットは政治的な動向にも敏感に反応しているので、当局等関係者は影響が出る可 能性がある各種金融市場を幅広くウォッチするのみならず、政治情勢にも目配りが 欠かせないこと。
・なお、ストレステストについては、保守的に行わなければマーケットが灰汁抜けし ない一方で、過大なストレスをかけると結果の公表がフィードバックループに繋が りかねない。このように、その後の影響がどのように出てくるか分からないことを 踏まえると、先入観や状況に対する歪んだ見方を持たず、客観性を持った視点から
64)可能であれば、予め政治から隔離する工夫を行っておくことが望ましいと思われる。
淡々と行うべきであろう。
ここで示した点は、金融危機対応における常識的な理解の範疇に止まっているが、
具体的な事例から確認できたことに一定の意義が見い出せたと思料される。
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