第 3 章 ハイ・インパクト・プラクティスの充実
4. グローバルスタディの展開-フィリピン・セブプログラム-
関西国際大学 教育学部 山本秀樹
4.1 授業概要
この科目は「グローバルスタディⅡ(フィリピン/セブ サービスラーニング)として、履修学 年を2年生以上として開講した。全学共通の科目であり、募集人員25名で、プログラムエントリ ーを経て36、教育学部教育福祉学科から13名、人間科学部人間心理学科から7名、人間科学部経営 学科から2名、合計22名の学生が履修登録をした。全体のスケジュールは次のとおりである。
オリエンテーション:2014年6月12日
事前学習:7月31日から8月8日まで15コマ
現地活動:2014年8月17日から8月28日まで12日間
事後学習:2014年10月1日
成果発表:2014年10月26日・11月16日
*授業時間外学修は除く
4.2 取組のねらい
学習目標は、「山間部のコミュニティでの生活支援をとおして、グローバル化と格差を考える」で ある。具体的には、フィリピンセブ島の山間部のコミュニティに滞在し、援農、小学校・高等学校 での文化交流授業、給食等のボランティア活動をとおして、現地の人々と日常的な交流を深めてい くことで、グローバル化と格差の実態と背景を理解し、社会的な役割と責任、貢献可能性を追求し ていく事とした。
この科目で目標とするベンチマーク37は「多様性理解」と「社会的能動性」である。「多様性理解」
では、「このクラスを選択したメンバーや現地で知り合った人々と誠実に向き合い、積極的かつ柔軟 にコミュニケーションをとって共感的な感覚や態度のもとに相互に協働できる関係を築いていくこ とができる」とした。「社会的能動性」では、「現地での活動をとおして、何が問題でどのような支 援が必要なのかを意識しながら、意欲をもって発展的に貢献活動に取り組むことができる」と位置 付けた。
36グローバルスタディのプログラムは全学共通科目である。学生は希望するプログラムにエントリーし、引率教員 の選考を経て、履修登録が可能となる。履修人数が定員に満たない場合は追加募集がかけられる。
37関西国際大学の共通教育と専門教育をとおして全学が共通に取り組む目標であり、「自律的な人間」「社会貢献で きる人間」「国際性を身に付けた人間」の3つの態度的能力と、「問題解決能力」「コミュニケーション能力」の2つ の能力を設定している。
KUIS学修ベンチマーク:http://www.kuins.ac.jp/kuinsHP/about/pdf/rublic2014.pdf
112 4.3 取組の内容
プログラムのながれは大きく分けて事前学習、現地活動、事後学習である。学生に、「自分たちの プログラム」であることを意識付けながら、自律的な取組を促していった。
①事前学習
事前学習はプログラムの取組に集中させることを目的として、春学期終了後の期間に4日間で 15コマ分設定した(表3-13参照)。活動地域に関する予備知識や活動計画の作成は、グループ毎 の宿題として授業時間外に取り組ませ、授業時間はそれら成果のプレゼンテーションにあてた。
このプログラムは2つの異なるキャンパス(三木キャンパスと尼崎キャンパス)から学生が参 加しており、初対面の学生がほとんどである。そこで、初回にはプログラム参加に向けた意思確 認とグループワークのルール説明、およびアイスブレイクを丁寧に行い、プログラムに参加する 学生の動機付けを図り、安全で安心な仲間であることの意識付けを促した。
現地活動のグループ分けは自律的に取り組ませた。グルーピングのルール(所属が異なる学科 専攻をバランスよく混成する)をもとに、学生同士が相談しながら8名1グループ、7名2グル ープの合計3グループを形成した。リーダー、サブリーダーは各1名ずつグループ内で決定し、
さらに、全体の統括リーダーを立候補者の中から投票の上、決定した。
表 3-13. グローバルスタディⅡ(フィリピン/セブ サービスラーニング)事前学修のながれ
グローバルスタディⅡ(フィリピン/セブ サービスラーニング)事前学修のながれ
2限目 3限目 4限目 備考
7月31日 アイスブレイク グループ形成と役割設定 プログラムのながれを理解する グループリーダー、統括リーダーとの 打ち合わせ
宿題 グループ毎の宿題 ①グローバル化と格差 ②活動地域の文化・風俗 ③活動地域の地理・歴史
8月4日 宿題プレゼン① 宿題プレゼン② 宿題プレゼン③
8月5日 現地活動計画作成① 現地活動計画作成② 現地活動計画作成③
宿題
8月7日 活動計画のプレゼン① 活動計画のプレゼン② 活動計画のプレゼン③
8月8日 直前準備① 直前準備② 直前準備③
・30分程度のプレゼンテーション
・10分程度のトピック紹介
グループ毎の活動計画作成
活動計画 のプレゼン アイスブレイク
グループ形成
プログラム参加者
による相互学習 活動計画の作成 授業時間外
学習 授業時間外
学習
②現地活動
現地活動は12日間の日程で実施した(表3-14参照)。まず、関西国際大学の協定校であるフ ィリピン大学セブ校を訪問し、同校の学生とともにセブ市の行政担当者から、セブ市におけるグ ローバル化の現状に関するレクチャーを受けた。
現地活動の大半であるボランティア活動は、セブ市の中心街から車で30 分程度のところに位
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置する山間部のボンボン村で実施した。内容は、援農、小学校・高等学校での文化交流授業、フ ィーディング(給食づくり)、ボンボン村高等学校の生徒とバディを組んだミッションチャレンジ である。援農では、小学生が実際に作物を育てながら学べる場づくりを目的として、小学校の敷 地の一角100坪程度を整地し、土入れと苗の植え込みを行い寄贈した。小学校・高等学校での文 化交流授業では、3つのグループが各々に1クラスずつ、合計3クラスを担当し、準備してきた 授業計画案に沿って、小学校と高等学校でそれぞれ2回実施した。フィーディング(給食づくり)
は2 回実施し、栄養不良の子どもを対象に、小学校とボンボン村内の一集落を訪問して行った。
ボンボン村高等学校の生徒とバディを組んだミッションチャレンジは、3回実施した。日本人学 生2名、現地高校生2名の計4名を1グループとし、ミッションの内容は学習目標に関連させ、
山間部のコミュニティ観察と生活実態を理解させることを意図して、「村のおすすめを 3 つ見つ ける」「家庭訪問して生活状況を観察する」「学習目標達成のための課題を各自で設定する」とし た。
表 3-14. グローバルスタディⅡ(フィリピン/セブ サービスラーニング)現地活動のながれ
グローバルスタディⅡ(フィリピン/セブ サービスラーニング)現地活動
AM PM
8月17日 日
8月18日 月
フィリピン大学セブ校訪問
・大学生との交流と講義受講
・講義「セブにおけるグローバル化の影響」
フィリピン大学セブ校付属高等学校訪問
・高校生との交流会
8月19日 火
ボンボン村訪問
・バランガイキャプテン表敬訪問
・現地活動オリエンテーション
ボンボン村小学校訪問
・援農作業の説明
・文化交流授業①
8月20日 水 ボンボン村小学校訪問
・援農作業①(整地)
ボンボン村高等学校訪問
・文化交流授業①
8月21日 木 祝日
ボンボン村小学校訪問
・援農作業②(土入れ)
ボンボン村高等学校の生徒とバディを組み行動 ミッションチャレンジ①「村のおすすめを3つみつける」
8月22日 金 ボンボン村高等学校訪問②
・文化交流授業
ボンボン村小学校訪問 スラム街訪問
・文化交流授業② ・家庭訪問
8月23日 土 ボンボン村小学校訪問
・援農作業③(苗の植え込み)
ボンボン村高等学校の生徒とバディを組み行動 ミッションチャレンジ②「家庭訪問して生活状況を観察する」
8月24日 日
8月25日 月 祝日
ボンボン村内の集落訪問
・フィーディング(給食づくり)①
ボンボン村高等学校の生徒とバディを組み行動 ミッションチャレンジ③「学習目標達成のための課題を各自
で設定する」
8月26日 火 ボンボン村小学校訪問
・フィーディング(給食づくり)② バランガイホールにてさよならパーティー
8月27日 水
8月28日 木
セブ市内視察
帰国 出国
終日自由行動
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③事後学習
帰国後、ふりかえりシートを用いて、学習目標とベンチマークが具体的にどのように達成でき たかの振り返りに取り組ませた。あわせて、活動のまとめを個人とグループで行った。個人では e-ポートフォリオに記事投稿させ、グループでは、学習目標を達成したエビデンスとしてのビデ オ作成を行わせた。
このプログラムの成績評価の観点は次のとおりである。
① 活動地域の事前学習:20%
② コミュニティ内での活動計画:20%
③ 現地活動記録:30%
④ 活動の振り返り・活動のまとめ(ビデオ):30%
4.4 取組の成果
「学生の主体的な活動と学修成果の獲得を意図した教室外プログラムの要件」(資料1-1参照)を もとに検討する。
「学習目標」
この科目は、関西国際大学のカリキュラムに位置付けられている、海外体験学習プログラム(グ ローバルスタディ)の1つである。世界の人々の多様な価値観や文化を理解し、自ら考え、行動で きる人間として学生が成長するために設けられたものであり、このプログラムの中で実施した、自 律的なグループ活動、海外での貢献活動や地域との交流は、大学が意図する目的に合致していると 言える。あわせて、全学共通のベンチマークの中から「多様性理解」「社会的能動性」を位置付けて おり、汎用能力の修得も設定できている。
「学習活動」
学習目標が達成できるよう、様々な経験や体験の機会を設けていった。当初、現地活動では、
援農、小学校・高等学校での文化交流授業、フィーディング(給食づくり)、ボンボン村高等学校 の生徒とバディを組んだミッションチャレンジを予定していたが、貧富の格差に関する理解をさ らに深めたいとの学生の要望を受けて、プログラムとしてスラム街への訪問も組み込んだ。
プログラム全体でふりかえりの構造化を図ることで(表3-15参照)、学生の自律的な活動を促 した。ふりかえりは、事前学習、現地活動、事後学習の各場面で設定し、個人とグループのふり かえりの機会を設定した。現地での活動期間中は、活動終了後に教員とリーダーによるミーティ ングを毎日実施し、そこから得られた気付きを各グループに持ち帰り、さらにグループミーティ ングの中で深めていった。あわせて、学生の個人的な悩みや相談は臨機応変に教員が対応した。
時には深夜に及ぶこともあったが、相互の信頼関係を強化する意味では大きな役割を果たした。