第 4 章 結論
A.1 ビリアルの公式による圧力計算
ビリアル圧力の定式化については小竹の教科書(14)に物理的な意味が明確にされている.任意の 空間V内に含まれる分子iの運動は,V内の分子による力をFV,V外の分子による力をFΛとする と,
i i V i
miv =F +F (A.1)
と表される.両辺に分子iの位置xiをかけて時間平均をとり,さらにV内の分子全体の総和をと ると,
∑
∑
∑
∈ ∈ ∈⋅ +
⋅
=
⋅
−
V i
i V i V
i
i i i V
i i i
m v v x F
F
x (A.2)
となる.但し,f(t)の時間平均は
∫
−( )
= t
t f d
f t τ τ
2
1 (t→∞) (A.3)
と定義する.(A.2)式の左辺はV内の分子がV外の分子から受ける力によるものである.この力を V内の分子について平均化し,すべて同じでかつ等方的に働くものとすると
pV
V i
i i
=3
⋅
−
∑
∈
F
x (A.4)
とかける.また,
T Nk
m B
V i
i i i
2 3 2
1 ⋅ =
∑
∈v
v (A.5)
iφ
i
V =−∇
F (A.6)
となることから,ビリアルの圧力式
∑
∈∇
⋅
−
=
V i
i i BT
Nk
pV x φ
3
1 (A.7)
が導かれる.(A.7)式の右辺第二項のポテンシャルについては,V 内部の分子からの寄与のみを考 慮する必要がある.このように定義される圧力は物理的に明確であるが,空間のサイズに強く依 存することが知られており,二次元Lennard-Jones系についても,最低数百個のサイズでようやく 一定に落ち着くことが知られている(15).
一方,周期境界条件の小システムの分子挙動よりマクロなシステムの圧力を求めるべき考え方 は従来から明らかとなっており(7),(A.7)式の右辺のポテンシャルについて,周期境界を超えてイ メージセル中の分子からの寄与を含めればよい.この方法関しては,領域の大きさに依存しない 一定の値を得ることができるものの,本来内部分子からの寄与のみを考えるべきところを外部領
域の分子からの寄与も加えるため,物理的意味を喪失しているようではある.しかし,小さなシ ステムからマクロ量を予測するという意味では,以下の通り極めて明確である.
今,ポテンシャル項に寄与のある外部領域を考える.少なくとも Lennard-Jones ポテンシャル に関しては,積分範囲はr2に比例するものの,力がr-7に比例することからこの領域は有限値に収 まる.系の大きさを大きくしていくと,相対的にこの外部領域の全体に対する寄与がLに反比例 して減少していき,極限を考えると,この外部領域は無視でき,内部分子のポテンシャル寄与の みで求める圧力と等しくなる.
全方位周期境界条件のシミュレーションにおいて,二つの方法で計算した圧力をFig. A.1に示す.
なお計算条件は,密度ρ = 1013.8 kg/m3,温度T = 150 Kである.前者の方法では系が大きくなるに 従って減少しているが,後者の方法では分子数256個の系においても,平均計算の時間さえ十分 に取れば一定値になっている.またこれらの差はN1/3∝Lに反比例して減少している.この直線を 外挿すると,この系において数%以内の精度で,物理的に明瞭な内部分子のポテンシャル寄与の みからマクロな圧力を計算するためには十万から百万程度の分子が必要となる.
10
210
310
45 6 7 8 9 10 20 30 40
50 20 30 40 50 60 70 80 90100
Number of Molecules
P re s s u re (M P a )
System Size L (Å)
Internal Only Periodic Addition Difference
3 1
Fig. A.1 Estimation of macroscopic pressure.
本研究では,物理的意味の明らかな壁面にかかる圧力を求めるとともに,マクロな熱力学的
Spinodal 曲線との比較のため,マクロな圧力の予測として,壁の影響を受けない中央部の領域に
ついて後者の方法を応用することにより,ポテンシャル項に外部分子からのポテンシャルを 1/2 加えるという方法で圧力を求めた.
また,実際の計算中ではカットオフ Lennard-Jones ポテンシャルを用いているが,圧力の計算 にはカットオフしないLennard-Jonesポテンシャルを用いた.