第三章 欧州連合新規加盟国各国の ICT 普及動向
第四部 ヒアリング調査
先方(◯)
MOST財団 (Foundation of Mobile Open Society Through Wireless Technology)
ヤコブ・ルブダ氏(研究プロジェクトマネージャー兼コンサルタント)
当方(△)
NICTパリ事務所所長 藤田清太郎
ONOSO研究員 小野浩太郎
場所
ワルシャワ(先方事務所)
日時
2011年2月16日 目的・問題意識
中欧・東欧諸国における ICT 部門のサービスの普及状況、研究開発分野の現状 および政策取り組みの動向を知るために、ポーランドに本拠地を持つMOST財団96 のヤコブ・ルブダ氏にインタビューを行った。特にポーランドの現状について話を 伺ったが、ルブダ氏によれば、ポーランドの事情は他の中欧・東欧諸国の事情と類 似する点が多く、他国の事情を知るための参考になる。
概要
MOST 財団について
(△)まず、MOST財団の主な活動とあなたの担当業務について教えてほしい。
(◯)我々の主な活動は、欧州の移動体通信について調査を行い、関係者に情報を 提供したり、欧州の ICT 研究開発支援プロジェクトに参加する等して、中欧・東 欧諸国の提携活動を支援し、推進することである。我々は中欧・東欧諸国の政府と 提携し、行政機関、通信事業者やサービスプロバイダー等の産業界、研究開発機関 の間に立って活動している。我々はエンジニアでもソフトウェアの開発者でもなく、
研究開発組織ではない。
私の担当は研究開発プロジェクト支援であり、FP697の「ALIPRO」や「3C」98
96 http://www.most-program.org/
97 本議事録においては、EUの第六次枠組計画をFP6、そして第七次枠組計画をFP7と略す。
98 http://www.eu-ecss.eu/about/
を担当し、現在はFP7によって支援されている「HOLA !」99というプロジェクト を担当している。
(△)どのような経緯でMOST財団は設立されたのか。設立理念は何か。
(◯)元々は、2001年にポーランド通信事業者のPTC(Polska Telefonia Cyfrowa)、 Tモバイル(独)、ワルシャワ工科大学の主導で、MOSTというプログラムが立ち 上げられ、2003年に同プログラムを実施するための組織としてMOST財団が設立 された。
今日、無線通信は固定通信よりも急速に発展しつつあり、社会に大きなインパク トを与えている。例えば、もしコンピューターを持っていなくても携帯電話を持っ ていれば、インターネットにアクセスできる。よって、無線通信技術が社会に与え る影響をより深く調査し、分析して、社会への影響をよりよい方向に導くことが必 要なのではないか。以上のような考えがMOST財団の設立理念である。
( △ )MOST と い う 名 前 は 、「Mobile Open Society Through Wireless
Technology 」の省略だが、ここで、「Open Society」とはどのような意味だろうか。
政治的な意味を持つのか。
(◯)まず、断っておきたいことは、MOST 財団はいかなる政治活動も行ってい ないことである。我々は特定の政党を支援する政治組織ではないし、一定の政治組 織にも属していない。MOST 財団は、ポーランドの科学・高等教育省から研究開 発部門の資金援助を受けているが、政治活動を行うための援助は受けていないし、
特定の政党等からもない。MOST財団は「Open Society」の実現を目標とするが、
これは、利用が固定通信よりも自由な無線通信技術の推進を通して、民主主義の発 展、つまり、より多くの市民が提携し、政治に参加できる社会の実現を意味する。
(△)MOST財団はどれほど人員を要しているのか。
(◯)我々の組織の構成は非常に柔軟で、プロジェクト毎に専門家を雇用している。
事務には常勤の秘書が一名おり、理事会が意思決定機関として存在する。主に我々 は欧州内で活動しているので、全体の人数は非常に尐ない。
(△)MOST財団の収入源は何だろうか。
(◯)我々の組織は非営利組織であり、主に産業界、ポーランド政府、欧州委員会 等からの助成金によって活動している。
中欧・東欧諸国における ICT サービス普及状況、研究開発部門の現状および政策 動向について
« ポーランドのICT普及状況 »
(△)ポーランドの ICT 関連サービスの普及現状について簡単に教えてほしい。
まず、第三世代携帯電話(3G)によるモバイルインターネットの利用者は増加し ているだろうか。
(◯)増加している。2010年末の時点で、350万人が利用している。
(△)ポーランドの固定および移動体通信の事業者は幾つあるのか。
(◯)固定通信事業者に関しては、大規模の事業者が 4 つあり、小規模のものが 10から20ある。移動体通信事業者に関しては、大規模の事業者が4つで、小規模 のものが3つある。
(△)ポーランドでは、すでに LTEの商用化が始まっていると聞いたが、現在ど のような状況であるのか。
(◯)LTEの商用化は開始されている。LTE向けに周波数免許が通信事業者に与 えられ、事業者がLTE網の展開を開始している。
(△)ポーランドでは、どのように LTE技術を使用しているのか。主にデータ通 信向けに使用されるのか。
(◯)LTE技術は通話およびデータ通信に使用されうるが、現在LTE網を展開中 で、まだ実際には利用されていない。
(△)通信事業者が3Gの利用者が増加する前に、LTE網を展開することはありう るだろうか。つまり、3G を飛び越えて、4G のサービスを導入することはありう るだろうか。
(◯)それは非常にありうることである。
(△)ポーランドでWiMAX技術は普及しているのか。
(◯)ポーランドでは幾つかのサービスを除いては、WiMAX技術が使用されるこ とはあまりなく、大きな経済的インパクトを与えることはない。4GのLTE等と比 べて、WiMAXは重要な通信技術として認識されていない。
(△)モバイルテレビはポーランドで人気があるだろうか。
(◯)モバイルテレビに関心がある人々は現在とても尐ない。
欧州では、2008年から2009年にかけて、欧州委員会がDVB-H標準を利用する モバイルテレビの普及を推進したが、それは成功したとは言えない。唯一イタリア で、通信事業者「スリー(3)」がサービスを提供し、100万人まで契約者数を伸ば したが、現在は契約者を減らしている。ポーランドの状況は、ハンガリーとドイツ と似ている。モバイルテレビ放送の免許を、ポーランドでは「Info-TV-FM」社が 獲得し、ハンガリーでは「アンテナ・ハンガリア(Antenna Hungaria)」社が獲
得している。Info-TV-FM社は放送網事業者で、ホールセールサービスを提供して いるのだが、同社から商用放送のために放送網を借り受ける事業者は今のところま だいない。ポーランドの規制機関はモバイルテレビサービスの普及を促しているが、
通信事業者はそれに応じていない。事業者は、有効なビジネスモデルがないという 理由で、モバイルテレビ放送事業への参入を拒んでいるのである。その代わり、通 信事業者は動画のストリーミングサービスを選択し、LTE網の展開を待っている。
(△)NFC技術を利用した携帯端末による決済サービスは普及しているだろうか。
(◯)このサービスはまだ商用化されていないが、直に開始されるだろう。現在、
商店のレジに簡単にクレジットカードで決済できるシステムが導入されていると ころである。
(△)スマートフォンユーザーは増加しているだろうか。
(◯)増加している。これは、まずアプリケーションを簡単に購入できるアプリケ ーションストアサービスの成功に由来するだろう。また、アンドロイドOSを載せ た安価な端末が登場し、特にサムソンが多くの種類の端末を提供しているのもその 原因の一つである。携帯端末で E メールを見ることができるので、ビジネス向け に利用する人が多い。
(△)携帯端末の製造メーカーとしては、どこが人気があるだろうか。
(◯)ノキアやソニーエリクソンはとても人気があるし、またアンドロイドを搭載 した端末は人気がある。サムソンや LG 等の韓国のメーカーも人気がある。なお、
ポーランドの企業もスマートフォン向けにソフトウェアを開発している。
« ポーランドのICT政策 »
(△)ポーランドのICT政策について簡単に教えてほしい。
(◯)ポーランド政府は研究開発助成政策を策定しているが、それはナノおよびバ イオ技術等の他の分野も含んでおり、ICT部門のみの独立した政策を持っていない。
この政策は2008年に政府によって策定されたもので、200ページほどの大規模な 政策戦略である。この戦略においては、支援対象となる研究領域の優先順位等、研 究開発支援枠組みが定められている。ICT部門の優先研究分野としては、最先端電 気通信技術、行政サービス向けの情報システム、セキュリティシステム、デジタル 図書館のような文書および文化遺産のデジタル化等が挙げられている。以上はICT 部門の優先事項だが、他の部門でも ICT 関連の研究開発は行われる。例えば、衛 星通信を使用する位置情報技術サービスは、環境問題に関わる研究開発部門でも開 発されうるし、ICTの交通システムへの利用も他の研究開発部門に入る。