第 2 章 中米 6 ヶ国におけるコミュニティ防災分野を取り巻く環境
2.2 中米 6 ヶ国の防災体制
2.2.7 パナマ
(1) 防災に係る法律・政策・計画 1) 法律
国家市民保護システムは近隣住民を組織することにより自然災害および人為災害から人命 と資産を保護する目的で 1982年に法令22 号により内務司法省の中に創設された。同法は 2005年法令7号により再編され現在に至る。
法令 7 号は国家市民保護システムの組織、役割、行政と市民の義務、災害予防活動、リス ク調査、教育・訓練、リスク管理、災害時の活動について規定している。災害対応センタ ーには31組織の参加が規定されている。
法令7 号第2 条では、リスク管理システムの項目で市民参加を通じてリスク管理をコミュ ニティの文化や社会経済活動に折り込む事が提唱されている。第 4 条には国家市民保護シ ステム(SINAPROC:Sistema Nacional de Proteccion Civil)の目的にリスク管理過程に市民参 加を促進することが入っている。第25条には市民保護総局はSINAPROCの組織の調整を行
い、市民の間に防災文化を形成するための教育・広報活動についての永続的なプログラム の設計をすると記載している。第26条には、国・地方の市民保護局は、調査・指導・防災 文化の広報活動により市民や国家の自助・共助の精神の強化を支援するとしている。
2) 政策
パナマはCEPREDENACの中米統合防災政策を2010年6月のCEPREDENAC総会で承認し、
同年12月国家統合防災政策を承認した。
3) 計画
SINAPROCは国家統合防災政策を実施するための道具として、UNISDRやUNDPのビジョ
ンを考慮して国家災害管理計画2011-2015を作成した。計画では以下の6つの軸に沿った活 動計画、担当組織、国レベルの災害リスク分析が記述されている。付属に国レベルの各種 自然災害のハザードマップも添付されている。
計画・経済的投資過程でのリスク軽減 土地利用と重要社会インフラの脆弱性低減 リスク認識と防災文化の振興
環境管理と気候変動への適応 災害管理と復旧
リスク管理に関わる組織制度の強化
各州の災害対応計画が作成されている事も確認できた。災害別対応計画としては、津波対 応計画を作成している。分野別計画では、保健分野災害対応計画が確認できた。
(2) 防災に係る主要組織
パナマの防災機関は内務省に属するSINAPROCである。国からコミュニティまでの防災組 織の体制を図 2.2.7に示す。パナマシティにある本部には法務部、広報部、人事部、技術協 力部、管理財務部、非常事態災害部、防災部、コミュニティ組織部、情報室がある。本部 にはアカデミーがあり防災に関する教育訓練を行っている。気象観測データは ETESA が、
地震観測データはパナマ大学地球科学研究所がSINAPROCに転送し、警報はSINAPROCが 発令する。SINAPROCには31の機関が組織化されており、災害時には各組織の代表が災害 対策室に集合する。災害対策局は、コミュニケーション部門に分析・情報処理部門、オペ レーション局にロジスティクス・人道支援、インフラ、保健、緊急対応、治安部門、国外 支援調整局がある。SINAPROCが主導する国家防災会議は年に2回開催している。
SINAPROCは州レベルでは5つの地方事務所を持つ。パナマ州とチリキ州には市レベルの
事務所もあるが、他州での組織化はされていない。地方事務所は災害対策室および本部と のTV会議システムを持ち、教育部門の整備も進められている。法令7号では州の責任は記
載されているが、市の記述は殆どない。災害の頻度が少なく、国が直接介入する方式で対 応だったことも防災が国主導である一因と考えられる。SINAPROC では市レベルの防災組 織化も課題と認識している。
出典:調査団 図 2.2.7 コミュニティ防災活動に関する主要防災機関の組織体制(パナマ)
(3) 防災に係る政府関係機関および大学
防災に関係する政府機関は多数あるが、コミュニティ防災に関係する主要な機関について、
既往調査結果ならびに本調査で実施された現地調査等から以下の政府機関がコミュニティ 防災活動の実践とその全国展開にとり重要な役割を担う可能性がある、あるいは担うべき と考えられる。
1) 教育省 (MEDUCA:Ministerio de Educación)
教育省の環境教育部門は 22 年前に設立された。学校での環境問題の啓発、教育が目的で、
防災が子供から家庭に伝達されることも視野に入れている。1980年代-1990年代に自然災害 の内容も環境教育に入り始め1990年代からは災害管理の考え方が導入された。現在は環境 教育と災害管理の2つのテーマを扱っている。国内外の協力で 2010年12月に自然災害、
UP(地震津波情報)
ETESA(気象情報)
ANAM 他
緊急時地域事務所と 直接通信の場合あり 技術的な情報共有 SINAPROC
SINAPROC地方事務所 Chiriquí Colón Veraguas Coclé
Panamá Oeste
Municipio
Corregimiento
コミュニティ
人為災害を対象にした学校防災計画ガイド 4 種類を作成している。環境との関係で防災が 扱われており、環境での成功例は防災を推進する上で参考になる。
2) 環境庁 (ANAM: Autoridad Nacional de Ambiente)
ANAMは省の下のレベルの組織(庁に相当)で、Dirección Desarrollo de Agrícolaとして発足 したが、Instituto Nacionalになり、現在のANAMになった。職員は全国900人-1000人程で、
各州とComarcaに事務所があり、市レベルにおいても部署を持っている。環境法はLey 41
がある。ANAM は災害対策委員会にも属しており環境部門の被害調査を行う。教育省との 間には協定を持ち、環境教育やボランティアによる植林の支援など防災活動の支援も実施 している。環境は防災と類似した点が多く、歴史があるため、環境文化の促進やボランテ ィア制度など参考になる点は多い。
3) 厚生保健省 (MINSA: Ministerio de Salud)
農牧省は国家防災会議に登録されている。防災に関しては、避難所への食糧、水、衣料品 の手配に責務を持つ。地方に 14 の支所が存在し、各支所から本部に情報が伝わる。また、
地方支所から出先の全国にある事務所に連絡し、コミュニティに必要な情報を伝達してい る。24時間体制ではないが、防災ラジオで連絡が可能な地方支所もある。
4) 農牧省 (MIDA : Ministerio de Desarrollo Agropecuario)
農牧省は国家防災会議に参加しており、州レベルにおいても他省庁と連携している。農牧 業分野では、洪水・干ばつの両方の災害のダメージが大きい。長期予報の情報はETESAか らMIDA の技術分野に提供され、農牧業者、生産者に提供されている。MIDA でも問題意 識はあるが、能力強化の機会が少ないと考えている。国の政策として防災の強化を望んで おり、セクター連携を行っていく上で重要な省庁となり得る。環境部門の実務者がおり、
防災に関する関心は高い。
5) パナマ市長協会 (AMUPA: Asociación de Municipios de Panamá)
AMUPA は市長の連合組織で市長の教育を行っている。技術的内容については ESPIA から
技術者の協力も得ている。運営費用は市から集め12市の代表が委員会のメンバーになって いる。教材の文書はSINAPROCから得ている。AMUPA を通じた市長への防災教育やコミ ュニティ防災の自治体への展開の点で連携できる可能性はある。
6) 社会基金 (Caja Seguro Social)
社会基金はパナマの医療にかかる予算の 85-90%を出しており、保健省と同じ機能を持つ。
防災に関する部門に国家緊急事態管理部がある。患者の輸送も行う。60 の事務所があり、
各地で防災委員会がある。職員の数は28177人。事務所のうち避難計画があるのは70%、
災害対応計画があるのは 25%だが、計画作成で災害のシナリオがないのが課題である。災 害対応から災害管理へと活動が変化している。
7) 児 童 家 族 庁 (SENNIAF: Secretaría Nacional de Niñez, Adolescencia y de Familia)
SENNIAFは5年前に設立された組織で、子供の保護についての好例の紹介や防災、レジリ
エンスの強化について教育を行っている。事務所は現在パナマ市内のみであるが、今後は 地方の州都にも設置し2人ずつ配置する計画である。国家防災会議に参加する組織である。
防災に関しては、心理学の専門家、赤十字と共同で、被災した子供の心理面のケアに関す るワークショップを洪水被災地で開催した実績がある。将来的には子供の保護に関するマ ニュアルを作成し、政府の防災関係組織や市民組織に配布する計画を持っている。
8) 障害者庁 (SENADIS Secretaría Nacional de Discapacidad)
SENADIS は5 年前に設立された。すべての県に事務所を構えている。2015-2020 国家防災 計画の中には障害者に関する項目が含まれている。障害者でもアクセスできる避難所の選 定や、障害者向けの分かりやすい各種標識を製作し、全国に展開している。障害者や病人 用の避難情報伝達手段も検討している。災害弱者への対応を検討・推進していく上で、当 機関との連携は重要である。Directorや担当者は非常に熱心で、BOSAIプロジェクトで開か れるセミナーで、災害弱者に関する発表をしてもらうなどの活動が有効と考える。
9) パナマ大学(UP:Universidad de Panama)
パナマでの地震観測はパナマ大学地球科学研究所が行っている。広帯域地震計が 10 か所、
短周期地震計が 40 か所にあるが 24 時間体制ではない。パナマ大学は 1980 年代から
SINAPROC の技術アドバイザーである。また、火山・地滑りについて研究レベルのハザー
ドマップを作成している。耐震工学はパナマ工業大学(UTP:Universidad Tecnologica de Panama)、津波防災はパナマ国際海洋大学(UMIP:Universidad Maritima Internacional de Panama)で扱っている。
10) 電力送電会社(ETESA: Empresa de Transmisión de Electrica, S.A.)
パナマでは送電会社であるETESAが気象観測、警報に関する業務を担当している。気象・
水文・気候部門がある。気象部門は24時間体制であり、警報はSINAPROC経由で出される。
ホームページで観測結果および過去の観測記録を閲覧可能である。ETESA は中米で最もよ く整備された気象情報を持つ機関であり、技術者の能力も高いが災害情報の提供手段につ いては、改善の余地がある。災害情報に関する面で協力を得たい。