本研究の目的は、電子・陽電子衝突反応で光子とダークフォトンが生成される反応e++ e− →γ+A′を探索することである。ダークフォトンは崩壊しないでそのまま検出器をす り抜けるか、ダークセクターのより軽い粒子χ2個に崩壊する(A′ →χχ)。この場合もχ は信号を検出器に残さない。そのため、観測する事象は終状態に光子が一個でそれ以外に 何も粒子が検出されない反応(1光子生成反応)e++e−→γ+ invisibleである。
もし、ダークフォトンやダークマターが生成されていれば、終状態のinvisibleな系の質 量(Minv)の分布にそれに対応する特徴的な構造が見られることが期待される。終状態に 1光子のみが存在すること、それ以外の粒子が存在しないことを実験的に保証するのは難 しい作業であり、多くのバックグランドの可能性を検討する必要がある。また、ニュート リノ生成反応e++e−→γνν¯は信号と検出器レベルでは区別できないので、Minvの分布 の構造で区別することになる。本章では、研究に用いた信号事象とバックグランドのモン テカルロシミュレーションについて説明する。
4.1 信号事象の生成
信号事象e+e− →γ+ invisbleのモンテカルロ(以下MC:Monte Carlo)サンプルは独自 に作成したものを使用した。
SIMPモデルに基づくe+e− →γA′の生成断面積は次の式で与えられる。[14]。 σ(
e+e−→γ+ inv)
= 3αε2
s
∫
dcosθ
∫
dMinv2 Minv2
(Minv2 −m2V)2+m2VΓ2× ΓV→inv(Minv)
Minv
ΓV→e+e−(Minv) Minv
8−8β+ 3β2+β2cos 2θ
βsin2θ . (4.1)
ここでβは、β = 1−Minv2 /s、sはビームエネルギーの二乗、αは電磁相互作用の結合 定数、θは光子の散乱角、Minvはinvisible系の静止質量(光子の反跳質量)である。V はベ クトルの意味で、ここではダークフォトンを指し、mV はダークフォトンの質量である。
ΓV→invとΓV→e+e−はそれぞれ、ダークフォトンがダークセクター粒子に崩壊する場合と、
e+e−に崩壊する場合の崩壊幅を示す。信号事象の生成断面積σは1/βに依存する。
SIMPモデルに依らない一般的なダークフォトンの生成断面積はMinv2 の中をデルタ関 数δ(Minv2 −MA2′) で置き換えることにより、
σ(
e+e− →γ+ inv)
= 3αε2
s
∫
dcosθ8−8β+ 3β2+β2cos 2θ
βsin2θ , (4.2)
で与えられる。この式でβ= 1(Minv = 1)、ε= 1とすればe+e− →γγの断面積に一致する。
結合定数εを1とした時の、信号事象の生成断面積σを図4.1に示す。σはMinv ∼10 GeV 付近で急激に大きくなる。また、図4.2に示したdσ/dθ分布を見ると、θ = 0, π付近で断 面積が上昇することが分かる。
信号事象の生成は0 GeVから8 GeVまでの計12点において、決まったダークフォト ンの質量MA′についてMinv =MA′として行った。各質量点における発生事象数は10,000 イベントずつである。発生角度等事象発生条件の詳細を表4.1に示す。生成した1光子に ついて、重心系における散乱角θγは式(4.2)より
f(θ) = 8−8β+ 3β2 +β2cos 2θ
βsin2θ , (4.3)
に従って[15◦,165◦]の範囲で発生させ、散乱角ϕγは[0◦,360◦]の範囲で一様に分布させ た。図4.1は15◦ < θγ <165◦の時の断面積である。粒子生成にはbasf2[27] release-03-02-33 の環境下においてParticleGungenerator を使用し、重心系で生成した事象は実験室 系にローレンツ変換する。生成された粒子が検出器の物質中でどのように振る舞うかのシ ミュレーションには、Belle II測定器の構造や信号生成過程を詳しく再現したシミュレー ションプログラムGEANT4を用いた。
0 2 4 6 8 10
Minv [GeV]
0 20 40 60 80 100 120 140 160
A') [nb]γ→(e+e- σ
*)|<0.966 θγ
|cos(
∈=1
Production cross section
図 4.1: Production cross section σ
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3
(rad) θ
0 5 10 15 20 25 30 35 40 45
Minv 7GeV 5GeV 3GeV 1GeV 100MeV
図 4.2: dσ/dθdistribution
表 4.1: e+e− →γ+invisble事象の生成 θγ∗(度) θ[15◦,165◦],
according to θγ = 8−8β+3ββsin2+β2θ2cos 2θ
ϕ∗γ(度) ϕ[0◦,360◦],一様分布
MA′ (GeV) 0, 0.2, 0.5, 1, 1.7, 2.5, 3, 4, 5, 6, 7, 8 イベント数 10,000 for eachMA′
合計 120,000
4.2 バックグラウンド事象の MC
バックグラウンドの見積もりに使用したプロセスの一覧を表4.2に示す。これらのMC サンプルはBelle IIで共同で用いられているもので、MC12+Phase3という名称で呼ば れており、Belle IIの検出器の構成をよく反映している。表にはビームの衝突エネルギー がΥ(4S)の質量に等しいとき(10.58 GeV)の断面積を示した。
表 4.2: バックグラウンドの見積もりに使用したPhase 3 MC12 サンプル Physics process Cross section [nb] ∫
Ldt [fb−1] Criteria Generator e+e− →e+e−(γ) 300±3 0.16 10◦ < θ∗e <170◦, BABAYAGA.NLO
Ee∗ >0.15 GeV
e+e−→γγ(γ) 4.99±0.05 6.47 10◦ < θ∗γ <170◦, BABAYAGA.NLO Eγ∗ >0.15 GeV
e+e−→µ+µ−(γ) 1.148 47.91 - KKMC
e+e− →e+e−e+e− 39.7±0.1 5.04 Wll >0.5 GeV AAFH e+e−→e+e−µ+µ− 18.9±0.1 5.29 Wll >0.5 GeV AAFH
次章で述べるように、 e+e− → γγ(γ)反応がバックグランドとして最も重要である。
e+e− →e+e−(γ)事象についても、この事象は生成断面積がとても大きくバックグラウン ドとなり得る(5.2参照)。
本研究で使用したMC12サンプルは、特に信号事象探索の障害になる事象(e+、e−が ビームパイプ方向に飛んで観測されず、1光子事象のようにみえるなど)を考慮して生成 されたものは含まれていない。この事象は以下で説明する信号事象の選択条件により除か れると予想されるが、今後確認が必要である。
生成された粒子が検出器の物質中でどのように振る舞うかのシミュレーションには、シ グナルサンプル同様GEANT4を用いた。その後、データ解析で用いるのと同様のプログラ ムで事象の選別と分布の解析を行った。解析の詳細を次章で説明する。