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ニッケルめっきの実験方法の開発 18)

硫硫酸銅溶液の電気抵抗の変化(Cu-‐‑‒Cu極)

第4節 ニッケルめっきの実験方法の開発 18)

今回実施した調査の中で,ニッケルめっきは実験条件を変えることにより,

ニッケル析出と水素発生が同時におこる興味深い系である96)

しかし,従来の教科書で扱われていた電気分解の実験では,電解槽を用いる と電極の質量は容易に測定できるが気体は捕集できず,ホフマンの電解装置で は発生した気体量は測定できるが反応を中断して電極の質量を測るのは難しい。

そこで,ペットボトルとプラスチック注射器を用いて,ニッケルと水素ガス を同時に定量できる簡易装置を考案した。この装置を用いると,金属析出量と 気体発生量を同時に測定可能である。

4ー1 自作簡易装置の作製

陽極 陰極

図5−10:ペットボトルと注射器で作製した容器

① 500 mL 用ペットボトルの中ほどに 5 cm×5 cm の窓を 開ける

② 1.5 cm×4.0 cm のニッケル板の一端を 5.0 mm ほど 折り曲げて,図5−11のようにボトルの窓枠にひっ かけて固定し陽極とする。このとき溶液に浸る陽極

③ ボーラーでボトルキャップに穴をあけ,直径 0.50 cm のニッケル 棒(ホフマン電気分解装置用の丸い電極を活用して平板をキャッ プの外側にするとコードが接続しやすい)をはめ込み,接着剤(ボ ンド GP プラスチック用)で固定して陰極とする。溶液に浸す陰 極棒の表面積は6.5 cm2であった(図5−12)。

図5−12:陰極の作り方

④ 10 mL 用のプラスチック注射器の先端を接着剤(同上)でふさいで液が漏れ ないようにして,ボトル内に入れておく。

⑤ 溶液 100 mL を容器に入れた時は,注射器を横にして溶液中に完全に浸し,

内部の空気を抜いて注射器内を溶液で満たしてから,注射器を陰極にかぶせ る。

⑥ ボトルを逆さにしてスタンドに設置する(図5−13)。このとき注射器が陰 極にかぶさったままで空気が入らないようにする。

⑦ 反応を止めたときは,注射器内にたまった気体が失われないように注意しな がら,図5−14のようにボトルを横にして注射器を立て,窓から先端を出 すと目盛りから発生した水素量を読みやすい。またキャップをはずして電極 の質量を測り,溶液はボトルの口から回収できる。

図5−14:目盛の読み方

4−2 測定手順

① 水 500 mL にホウ酸 5.0 g と塩化アンモニウム 5.0 g を溶かした溶液を 5 個 に分ける。

② それぞれに硫酸ニッケル・六水和物 2.5 g, 5.0 g, 10 g, 20 g, 30 g を溶 かす。

③ 各溶液 100 mL をペットボトルの装置に入れ, 溶液で満たした注射器を陰極 にかぶせる。

④ 0.20 A または 0.50 A の電流を 10 分間通じる。(反応が進むにつれて電流お よび電圧が変化するので,一定電流になるように調節した。)

⑥ 注射器内に発生した水素の体積と陰極のニッケル棒の質量を測る。

4−3 結果と考察

金属のイオン化列に従うとニッケルは水素よりもイオンになりやすく,対応 する標準電極電位は-0.257 V (—24.80 kJ/mol) 97)98)である。しかし,電極で何 が反応するかは標準電極電位と物質の濃度で決まる75)とされている。

ニッケル電極を用いた硫酸ニッケル溶液の電気分解では,陽極では以下の反 応が起こって極板の質量が軽くなった。

Ni → Ni2+ + 2e-(電極電位 E1 陰極では

Ni2+ + 2e- → Ni ・・・①式(電極電位—E1) 2H+ + 2e-→ H2 ・・・②式(電極電位—E2) (pH によってH2O + 2e-→ H2 + 2 OH-) の両反応の競合が考えられる。

電極電位はネルンストの式で求めることができ,

E0:標準電極電位(V)

R:気体定数(8.3 JK-1mol-1) T:絶対温度(K)

z:移動電子数

a:還元側および酸化側の活量(モル濃度) F:ファラデー定数(96485 Cmol-1

例えば 0.038 mol/L 硫酸ニッケル溶液は pH 4.28 なので,計算式に代入すると ニッケルの電極電位 E1

E0(Ni) =-0.257 V, aOX = 0.038 mol/L, ared = 1, より E1 = −0.30 V

水素の電極電位 E2は,

E0(H) = 0 V, aOX = 10-4.28 mol/L, ared = 1, より E2 = −0.25 V

となり,ニッケルが水素よりもイオンになりやすい状態であるが,ニッケル電 極表面における水素過電圧が 0.14 V98)加わるので,ニッケル析出が優先される。

液温 24~26 oC において,ニッケルイオン濃度を変化させた実験結果を図5−

15および図5−16に示した。

硫酸ニッケル溶液濃度が低い時は主に水素ガスが発生し,溶液濃度が高いと ニッケルの析出が優先された。また今回の実験では,0.20 A(約 31 mA/cm2) で 0.40〜0.50 mol/L 以上,0.50 A(約 77 mA/cm)では 0.70〜0.80 mol/L 以 上の硫酸ニッケル溶液であれば水素ガスはほとんど発生せず,また濃度をこれ 以上濃くしてもニッケル生成量の増加は少ない。「めっき」を目的とした実験 において,水素発生をおさえてニッケル析出を増やすのに必要なニッケルイオ ン濃度の理論的根拠を与える。

なお確認のためホウ酸を加えていない溶液を電気分解すると,反応が進むに つれて溶液が中性〜アルカリ性に変化し,水酸化ニッケル(II)が沈殿してしま った。一方ホウ酸を含む電解液はすべて pH 5.60 以下に保たれており,これは ホウ酸の緩衝作用によると考えられる。また,電気分解では溶液内に電流が流 れ始めるまでゆっくり反応開始させた方がよいが,ここでは授業時間内の生徒 実験を想定して,電流を流れやすくするため塩化アンモニウムを加えた。

ただし表5−10に示されるように,電気分解による陰極の質量増加量をニッ ケルのみとしたときの生成ニッケル析出量(nNi)と発生した水素量(nH2)を加算 した生成量の値(nNi+nH2)を理論値と比較すると誤差が生じ,ニッケル析出量 が理論値よりも多くなる傾向があった。ニッケルイオン濃度が大きくなるとニ ッケル電極表面が黒っぽくなる。注射器が狭いため緩衝作用が十分ではなく水 酸化ニッケルが付着した可能性がある。

図5−15:溶液濃度と析出したニッケルの質量

0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1 0.12

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2

析出したニッケル量(g)

ニッケルイオン濃度(mol/L)

0.5Aの場合 0.2Aの場合

0 4 8 12 16 20 24

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2

発生した水素量(mL)

0.5Aの場合

0.2Aの場合

4−4 まとめ

今回開発した実験装置は,ペットボトルとプラスチック注射器を活用した簡 易器具であるが,金属析出量と気体発生量を同時に測定可能で,得られた実験 結果から電気分解における反応の起こりやすさが溶液濃度に大きく依存して変 化することを明らかにできた。さらにニッケルめっきにおいて水素の発生をお さえてニッケルの析出を増やすニッケルイオン濃度条件について考察可能であ る。

今までの教科書に記述されていない実験内容であるが,ひとつの電極で競合 する反応がおきること,電極反応の起こりやすさが標準電極電位と濃度によっ て変化することを確認する活用例となる。また精密な測定装置ではなく日用品 を工夫することで実施が容易であり,発展的な探究につながると示唆される。

表5−5:実験結果と理論値との比較 0.2 A × 10 分 (理論値:0.00062 mol)

溶液濃度(mol/L) Ni 析出量 (mol) H2 発生量 (mol) 電解の変化量(mol)

0 0 0.00063 0.00063 0.094 0.00051 0.00025 0.00076 0.19 0.00068 0.00010 0.00078 0.37 0.00085 0.00002 0.00087 0.70 0.00085 0.000007 0.00086 1.01 0.00085 0.000001 0.00085

0.5 A × 10 分 (理論値:0.0016 mol)

溶液濃度(mol/L) Ni 析出量 (mol) H2 発生量 (mol) 電解の変化量(mol)

0.19 0.00119 0.00031 0.00150 0.37 0.00136 0.00013 0.00149 0.70 0.00170 0.00002 0.00172 1.01 0.00180 0.000004 0.00180

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