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3.ドイツ保険契約法における自殺免責の機能的構造

多数の事案において成功していない。裁判所は,専門家の鑑定書によって

自由な意思決定の排除の有無を判断しており,そのことから,裁判所選任

の鑑定人が自由な意思決定を否定する明確かつ説得的な鑑定意見を述べる

ことが必ずしも多くないことが推測される。

精神障害状態でなくとも該当する場合があるかのようにも思われるが,事 はそう簡単ではない。その点が顕在化するのが立証段階である。

⑵ 証明責任・立証の面の法的機能構造

自殺であることの証明責任を負う保険者は,厳格証明の一般原則通りに 立証することを要する。それは,覆すことができない確実性ではなく,実 際生活に用いられる程度の確実性であって,疑いを完全に排除するわけで はないが,疑いに沈黙を命ずる程度の確実性があればよいとされる。通常 は,間接証拠に基づいて証明することになり,縊死事例のような生命を 失った経緯・方法から自殺推認が可能な典型例などでは,実質的に一応 の証明にも近づく面がある

152)

。その意味で,類型的に自殺を推認させる 事情,たとえば,自殺方法や,経済的動機を推察させる事情などがある ときは,その形から自殺立証の困難が克服される場合が相応に考えられ る。

これに対して,自由な意思決定の排除の立証責任を負う保険給付請求者 側は,やはり通常は間接証拠による立証になり,被保険者の意思決定が制 御不能な衝動・表象に支配されていたかどうかなどに加えて,理解可能な 動機の可能性もおよそ否定できる状態にもっていかなければならない。保 険者側は,自殺に理解可能な動機の可能性があれば,必ずしも動機の特定 にまで至らなくとも,多くの裁判例は,自由な意思決定の排除を認めてい ない

153)

。加えて,鑑定人による精神状態の鑑定は,精神医学の専門家が 被保険者の自殺当時の精神状態を判定できるだけの事実資料の確定が必要 であるとされており,これが揃わないときは,鑑定人による鑑定の依頼が できないとされる

154)

。あるいは自由な意思決定が排除されていたことが 引き出せるかもしれないという可能性に賭けた模索的証明を行うための鑑

152) 本稿Ⅱ.⚒.B (1)(2)(4)参照。

153) 本稿Ⅱ.⚓.(2)~(4)(6)参照。

154) 本稿Ⅱ.⚓.(4)参照。

定書依頼は認められない

155)

。もちろん,保険給付請求者側の私的鑑定人 による鑑定書が提出されることは妨げられないから,これによって裁判所 の判断に影響を及ぼすことは可能であるが,これも自殺当時の事情が説得 力のある水準で認定できることが前提になろう。一方的な推論のみを行う 鑑定書によって裁判所がそれを根拠に判断することは考えにくい。そうす ると,実体法の側面では,判例・学説が,被保険者の自由な意思決定の排 除が相当にありうる定式を解釈上述べていたとしても,証明責任・立証段 階の解釈適用を見る限りは,被保険者の自由な意思決定の排除が認められ ることは,かなり難しいと思われる

156)

。精神医学の見地から,現在の証 明責任分配が実態に合っていないという批判がある

157)

のも,その点を反 映した見解であると考えられる。

このことは,確かに保険給付請求者側にとって相当の負担であり,自由 な意思決定の排除の立証が容易でないこと,換言すれば,その限りで,中 には自由な意思決定がなかったことが実態である場合があったとしても,

立証困難のため保険給付請求権が実現しにくいことは,ドイツ法の課題で あろう。しかし,自殺免責が客観的危険除外との性質決定を前提にして,

契約締結当初の⚓年以内に限定された範囲での自殺免責であるという点を 再び想起すれば,免責の期限を切ったことによる法律関係の明確化・安定 化という面からは,遺族の保護を理由に保険者免責の例外が広がりすぎる ことは,歓迎すべきことではないし,とりわけ,生命保険契約の締結当初 の自殺に保険給付が多くなることが適切でないことはいうまでもなく,

――精神医学からの批判はあるが――生命保険の制度的健全性を確保する 見地からも,ドイツ保険契約法の現在の解釈・運用が妥当性を欠くとまで はいえないと思う。被保険者の自由な意思決定の排除が立証された場合

155) 本稿Ⅱ.⚓.(4)参照。

156) もっとも,立証段階の運用レベルでは,立証の巧拙や特別な事情が影響して,裁判所の 判断が,ときには通常の判決例の線から外れる場合もありうるから,そのことが判決の予 測可能性を難しくし,見通しが効きにくいといわれる原因になっているのであろう。

157) 本稿Ⅱ.⚓.(5)参照。

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