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4. ブロックチェーンの技術特性と質的影響に関する整理

5.5 トレーサビリティと透明性の飛躍的向上

ブロックチェーン技術は、過去のデータに現在のデータを紐付けることによって情報の 信頼性を確保する。また、資産の二重使用を防止するために、資産の転々流通の履歴を網羅 的に管理する。これは、ある情報や資産、価値がどのように利用されてきたのかを、順を追 って追跡することが可能になることを示す。こうした特性の活用は、サプライチェーンや食 品偽装対策におけるブロックチェーン利用という形で一部実用化されつつある。

日本経済新聞等によると16、東京海上日動火災保険は4月から、福岡県でブロックチェー ン技術を使って医療情報の取引記録を共有し、蓄積するという実証実験を始める。患者の同 意をとったうえで、治療内容や入通院日数などの情報を医療機関と共有する。医療情報をブ

16 国際大学GLOCOM ブロックチェーン経済研究ラボ 定期レポート

http://www.nikkei.com/article/DGXLASGC21H01_T20C17A1EE8000/

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ロックチェーン技術によって共有することで、契約者からの保険金の請求に自動的に対応 できるようになり、契約者の負担軽減につながるほか、不正請求の防止にも役立つとしてい る。ブロックチェーンは情報の改ざんが困難であることから、契約者からの請求や証跡の情 報をうまく登録できれば、審査業務を大幅に効率化することもできると考えられる。しかし、

登録する情報そのものの信憑性を保証することはできない。本取り組みでは IoT とも連携 するとされているが、情報登録にできるだけ人手を介さないようにすることで、情報の信頼 性を担保する試みと見ることもできる。

また、Coindesk等によると17、世界の小売大手ウォルマートは、年間投資家イベントでブ

ロックチェーンを使ったテストについてプレゼンテーションを行った。同社は、2016 年か

ら、IBM、清華大学と北京大学と協力して、中国の巨大な豚肉市場を中心にブロックチェー

ンを利用したサプライチェーン・アプリケーションの実証実験を行ってきた。ウォルマート はブロックチェーンを今後様々な分野への展開を検討している。ウォルマートは、この技術 により、食品の追跡管理に要する日数や時間を短縮し、販売不可能な製品が発見された場合 に、効果的な対応が可能になると説明した。「これは、食品業界のトレーサビリティと透明 性を高めながら、食品業界における消費者の信頼を保つために必要な、正確かつ迅速な回収 を可能にするのに役立つだろう」、と同社は語ったとしている。ウォルマート社は無人配送 車の追跡技術にも、ブロックチェーンの応用として検討している。

同 様 の 例 は 、 中 国 の 巨 大 EC 企 業 の ア リ バ バ で も 試 み ら れ て い る 。 ア リ バ バ は

PriccewaterhouseCoopers、Blackmores、Australia Postと手を組み、中国で売られている偽造食

品への対抗に乗り出している。これを伝えたBlockchain Newsによると18、ブロックチェー ンを利用し、食品がどのように製造されたかや、サプライチェーンを追跡することで、生産 者と消費者の間の透明性を向上させることができる。

ブロックチェーンによる透明性は一方ではプライバシーや情報セキュリティ上の問題を

17 国際大学GLOCOM ブロックチェーン経済研究ラボ 定期レポート

http://www.coindesk.com/walmart-blockchain-food-tracking-test-results-encouraging/

http://www.coindesk.com/walmart-wants-to-track-delivery-drones-with-blockchain-tech/

https://www.technologyreview.jp/s/31247/the-worlds-largest-shipping-company-trials-blockchain-to-track-cargo/

https://www.provenance.org/

18 国際大学GLOCOM ブロックチェーン経済研究ラボ 定期レポート

https://www.ibm.com/blogs/blockchain/2016/11/leveraging-blockchain-improve-food-supply-chain-traceability/

http://www.the-blockchain.com/2017/03/30/alibaba-tackle-counterfeit-food-china-blockchain/

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孕んでいるが、トレーサビリティや説明責任という観点では活用可能性があり、どのように 両立させるかが今後の課題である。

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6.技術的展開に関するシナリオ

ブロックチェーン技術は完成されたものではなく、むしろ始まったばかりであり、現在も 日進月歩の進化を続けている最中である。そのため、今後どのように技術が発展していくか、

そのシナリオを一定程度想定しておくことが、今後のロードマップの作成や戦略策定を行 う上で不可欠である。そこで、委員会やワーキンググループでの議論をもとに、今後のブロ ックチェーン技術の発展シナリオを整理した。

具体的には2030年までをターゲットとして、ブロックチェーンが提供する機能がどのよ うに進化するかを検討した結果、フェーズ1から3までの3期に分けて考えることとした。

図8 技術的展開のシナリオ

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