本研究のデータとなる児童相談所保管の虐待相談記録は、国立社会保障・人口問題研究所(以下、社人研)が 平成29 年度一般会計予算で実施した、「『一億総活躍社会』実現に向けた総合的研究」プロジェクトにて収集さ れた。エリア毎に抽出した児童相談所に対して、研究計画について事前に説明を行い、学術目的に限りデータを 利用することを条件に、9 つの児童相談所から協力の承諾を得た。研究の実施にあたっては、社人研の研究倫理 委員会の承認を受けている。
分析対象となる資料の提供は、①平成28年度からさかのぼる形で、各児童相談所が保管する相談記録より、
一時保護後に親子分離に至ったケースと至っていないものとを同数無作為抽出し、②コピーを取り、固有名詞等 を全て匿名化した上で、③さらにそのコピーを社人研に提供、という手順で行われた。1つの児童相談所につき、
その規模に応じて9件から30件、総計189件の匿名化された記録のコピーの提供を受け、本研究の分析対象と した。
3 分析
被説明変数は「一時保護後に親子分離に至ったか否か」である。上述のとおり、本研究のデータは、被説明変 数の値ごとに層化した上でケースが無作為抽出されているため、被説明変数の周辺分布自体は意味を持たない。
ただし、こうしたデータ構造はケースコントロール法のそれと類似しており、オッズ比の特性を利用すれば、被 説明変数に対する共変量の効果を推定できる。
説明変数は先行研究のサーベイを通じて選定した。具体的には、児童相談所所在地域、記録の開始年月日、虐 待種別、家族構成、子どもの情報(性別、年齢、発達障害の有無、精神疾患の有無、問題行動の有無など)、家族 構成員の情報(子どもとの関係、年齢、同別居)、主たる虐待者の情報(子どもとの関係、年齢、婚姻歴、発達障 害の有無、精神疾患の有無)、近居親族の有無、過去の相談歴とその内容、などを説明変数として用いる。
当日は、以上の手順で生成されたデータの基礎的な集計結果を示した上で議論を行う。
キーワード:児童相談所、虐待相談記録、親子分離の規定要因 自由報告(3)
⑨福祉とケアの社会化(3353教室)
家族/社会福祉のインターフェイスにおける「家庭であること」の諸相
―社会的養護の担い手の語りをもとに―
○安藤藍(首都大学東京)
1.問題の所在と目的
近年、子育てや介護等のケアの社会的配分について、脱私事化、脱家族化、社会化といったことばを伴いつつ 再考する政策的・実証的知見が蓄積されている。なかでも子育て領域は、「家族」の価値が根強い領域であると考 えられるが、介護などと比較すると蓄積はまだ浅いように思われる。本研究でフィールドとするのは子どもの領 域、とくに社会的養護である。
児童虐待へのまなざしの強化が久しい昨今、社会的養護では養子縁組や里親といった家庭養護推進の機運がま すます高まっている。実の親による子育てを最優先に支援し、それが困難な場合には「家庭と同様の環境におけ る養育の推進」として養子縁組や里親、ファミリーホームの養育推進を明言した児童福祉法が施行され、新しい 社会的養育ビジョンも示された。これにたいして実際の養育現場では、「家庭(的)であること」について議論が 重ねられている。どうであれば家庭的といえるのか、という疑問が呈されるのは、「『小規模化』『家庭的養護』を キーワードとして、施設養護、里親養護の実施体制は『ボーダーレス』時代に差し掛かっているように感じる」
(小木曽・梅山2012)という実施体制にも一因があろう。しかし、「家庭であり職場であり、かつ施設/制度であ るという3つの特徴の混在した空間」(Dorrer et.al 2010)という点に留意して「家庭(的)であること」の実践 を捉えようとした知見は、日本では十分にあるとはいいがたい。本研究は、社会的養護の担い手である養育者の 立場から、社会福祉のエージェントとして、ときに仕事でもあり、制度でもありつつ子どものために「家庭(的)
であること」をいかにして成し遂げようとしているのかを考察することを目指す。
2.対象と方法
社会的養護のなかでも家庭養護に分類されるファミリーホーム(以下FHと表記)を対象とした。開設数を増 やしつつあり、第二種社会福祉事業として多人数養育を行うものである。2017年~2018年にかけて半構造化イ ンタビュー調査を実施した。調査協力者は、FH 18ケース27名(養育者夫婦や複数の養育者同席含む)、FH開 設準備中の里親1名である。調査協力者には、これまでの研究活動・当事者支援のNPO活動より得たネットワ ークから紹介を得て出会ったケース、FH 連絡協議会事務局の許可を得て会合に集った養育者らに依頼したケー スなどの4つの方法で接触をもった。FHを開いた経緯などの基本事項のほか、子どもとの関係に対する認識、
FHの専門性の認識、昨今の家庭養護推進の理念についての認識などを聞き取った。
3.分析結果
FHのタイプ別(里親型、施設職員経験者型〔個人〕/法人設立型〔社会福祉法人、NPO法人など〕、夫婦/
単身/夫婦以外の複数の大人、等)に、養育上「家庭であること」やこれに関する語彙(「夫婦」「家族」等)を どのように意味づけ、使用しているのかに着目する。分析のなかでは、夫婦でないものは家庭とみなしにくいと いう考えがある一方、たとえ夫婦で養育していても「おうちにはならないよね」「家庭ではない、家庭養護」と考 えるケースもあった。夫婦以外の複数の養育者が主たる養育を分担するケースのなかには、夫婦と子どもという 家族像にとらわれないありように独自の価値を見出すものもある。このほか、先行研究にもあるように食事の場 面のほか、日常生活上の様々な場面で、Doing family、Display family(Finch 2007)概念などを手掛かりにさ らに分析をすすめ、当日は具体的な事例についても報告する。
謝 辞
本研究は、科研費17K1798800の助成を受けた。調査研究にご協力賜りました皆様に深く感謝申し上げます。
キーワード:家庭、社会的養護、家族と社会福祉 自由報告(3)
⑨福祉とケアの社会化(3353教室)
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養育里親の家族認知
大日義晴(日本女子大学)
1.研究の背景
2000 年代以降、里親制度の改革とともに、里親への委託は大幅に拡充する傾向にある。厚生労働省は、2011 年に発表した「里親委託ガイドライン」において、施設よりも里親を優先すべきであるという方針を明示してい る。家庭養護推進の主旨は、より家庭的な環境が提供されることが、子どもの養育上望ましいと、捉える点にあ る。ただし、里親制度には、里親ならびに里子に対するアンビバレントな要請が含まれるため、日常生活におい てさまざまな葛藤を経験することが、複数の先行研究で指摘されている(和泉2006; 安藤2017)。
2.研究の目的とリサーチ・クエスチョン
本報告では、里親が経験する葛藤のうち、家族認知を取り上げる。本報告の目的は、家庭養護における家族認 知の実態とその発達的変化を把握し、その規定要因を明らかにすることを通じて、養育里親家庭の関係構造とそ の課題を考察することである。具体的なリサーチ・クエスチョンは、「養育里親は、受託中の里子および措置解除 後の里子を、どの程度家族メンバーの一員として認識しているか、また、どういった条件の下で、家族メンバー としてみなす傾向が高くなるか」と設定した。
3.方法とデータ
ここでは、主に家族認知に関する計量的研究の分析枠組みを援用する。具体的な従属変数として、現在受託中 および受託が終了した里子について、「この方は、今現在、『あなたの家族の一員』だと思いますか。(○は各1つ だけ)」とたずねた設問を用いた、主観的な家族認知のあり方に着目する。
分析に用いるデータは、「養育里親の登録・研修・支援に関する調査」である。本調査は、日本国内で養育里親 として登録されている個人を対象とし、2017年11月に実施された。有効回収数は2,230人で、有効回収率は51.6%
であった。このうち、未受託のケースを除いた、現在子どもを委託されている回答者(n=1,204, 54.0%)において、
年齢が1番上~3番目の子ども(n=1,625)についての回答、および、既に委託が終了した回答者(n=918, 51.2%)
における一番最近委託が終了した子どもについての回答をそれぞれ分析対象とした。
4.結果
まず、現在受託中の里子については、「家族の一員」かという設問に対し、92.1%が「はい」と回答しており、
つづいて6.5%が「どちらともいえない・わからない」、1.5%が「いいえ」と回答している。一方、委託が終了し
た子どもについては、37.2%が「はい」と回答しており、25.9%が「どちらともいえない・わからない」、36.9%が
「いいえ」と回答している。また、委託が終了した子どもについて、家族認知の有無についての3カテゴリーを 従属変数とした多項ロジット分析をおこなったところ、①措置解除理由、②委託/解除の時期、③回答者の属性
(実子の有無など)などの要因が、家族の一員とは言えないとみなす認知に対して、有意な効果をもつことが確 かめられた。
以上から、養育里親の、里子についての家族認知は、受託期間中は家族の一員であるとみなすが、措置解除後 に家族とみなす比率が大きく低下するという、独自の発達的変化を辿ることが示唆された。
付記: 本報告は、「養育里親の登録・研修・支援に関する調査」(研究代表者:三輪清子)の成果の一部をまと めたものである。本調査の実施にあたり、明治学院大学の倫理審査(承認番号:SW17-03)を経た。また調査の 実施にあたり、Key Assets Internationalの助成・後援を受けた。
(キーワード:養育里親、家族認知、家庭養護)
自由報告(3)
⑨福祉とケアの社会化(3353教室)