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第 3 章 地域銀行の合併、経営統合と効率性

4. データ

本章では、地方銀行および第二地方銀行を分析対象とし、1998 年度から2009 年度まで のアンバランスド・パネルデータを使用する。銀行の財務データは、『全国銀行財務諸表分 析(各年度版)』および『日経NEEDS金融財務データ』から得たが、これらの中にデータ が含まれていない場合は、各銀行の『有価証券報告書』を参照した。ただし、足利銀行に ついては国有化期間があるため、サンプルからは除外する15。また、合併後の存続銀行は別 銀行として扱った。

次に、総費用および生産物、投入要素価格の定義と出所を説明する。総費用(𝑇𝐶)は、

銀行の損益計算書のうち費用に含まれる項目である預金利息と人件費、物件費の合計と定 義する。

生産物(𝑦)および投入物の定義に関しては、銀行を資本、労働を投入物として預金、商 業貸出、不動産貸出を生産する主体として捉える生産アプローチや、資本、労働と預金を 投入要素として貸出金や有価証券による運用を生産する主体として捉える金融仲介アプロ ーチなどが存在する。本章では、日本の銀行業に関する先行研究の多くで用いられている 後者の金融仲介アプローチを採用し、フロー変数に基づいて定義する。地方銀行および第 二地方銀行において銀行収益の柱となるのは、貸出による収益、貸出以外の国債や有価証 券等の運用による収益、為替等にかかわる手数料収入による収益である。したがって、本 章では、貸出金利息(𝑦1)、貸出以外の運用収益(=資金運用収益-貸出金利息;𝑦2)、役務 取引等収益(𝑦3)を銀行の生産物として使用することにした。

投入要素価格については、投入要素と定義される預金と資本、労働に対応するように、

それぞれ、預金調達価格(𝑤1)および賃金率(𝑤2)、資本レンタル価格(𝑤3)として定義す る。預金調達価格は、預金利息を預金残高で除した値とした。賃金率は、人件費を従業員 数で除した値とした。資本レンタル価格は、物件費を動産・不動産合計で除したものと定 義する。ただし、2006年度以降、貸借対照表の資産の部における動産・不動産合計の項目

15 ただし、わかしお銀行(2001年度)、東京スター銀行(2001、2002年度)、関西さわや か銀行(2000年度)については、一部の変数が収集できなかったため、サンプルからは除 外することとした。

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は、有形固定資産となり、定義も変更されている点には留意する必要がある。

以上のデータに関して、ストック変数は前期末と今期末の平均値を使用する。合併があ った銀行については、便宜上、合併前の銀行の数値を合計したものを使用して前期末と今 期末の平均値を計算することにした。生産物および投入要素価格、総費用は、平均値が 1 となるように基準化し、指数化している。また、各変数にはGDPデフレータ(金融・保険 業;平成12暦年基準、連鎖方式)で除して実質化したものを使用する。

以上の方法で計算された各変数の基本統計量を図表3-2に示した。この図表から、総費 用、各生産物については、地方銀行のほうが第二地方銀行よりも大きくなっており、銀行 の規模が反映されていると考えられる。投入要素価格をみると、資金調達価格は第二地方 銀行のほうが、賃金率や資本レンタル価格は、地方銀行のほうが大きくなっていることが 分かる。

5. 推定結果

5.1 確率的フロンティア・モデルの推定結果と効率性の推移

以上のような推定モデルとデータを使用し、地方銀行と第二地方銀行からなる全銀行を データセットとして、確率的フロンティア費用関数を推定する。推定には、stata12を使用 した。

(6)式で示される費用関数について、一つだけの統計的誤差項( 𝑣 + 𝑢 )を含む推定式と してOLS推定し、残差項( 𝑣 + 𝑢 )の歪度を求めた。費用関数における非効率性の存在を 確認するためである。費用関数の残差の歪度はプラスの値を取ることが求められる。実際 に残差項の歪度を求めたところ、費用関数については0.4969と正の値が得られたため、確 率的フロンティア・モデルによる推計を行うことに妥当性があると考えられる。

確率的フロンティア費用関数の推計結果は図表3-3に示したとおりである。3節で提示 した(3)式から(5)式で表される費用関数に課される制約を満たしているか否かについてワル ド検定を行った。その結果、データの平均値において評価した場合1%の有意水準で生産物 および投入要素価格に関する単調性、投入要素価格に関する凹性の全ての制約を満たして いることが確認された。

また 、本章で 選択した確率 的フロン ティア・モデ ルの妥当 性を確認する ために 、

Coelli(1995)で示された尤度比検定16を行った。その結果、帰無仮説𝐻0: 𝛤 = 0に関する尤度

16 Coelli(1995)で提示されたのは、尤度比検定統計量(𝐿𝑅)が自由度 𝐽 の混合カイ二乗分

布に従うことを利用した検定である。𝐿𝑅 = −2(ln(𝐻0) − ln(𝐻1))と定義される。ln(𝐻0)は帰 無仮説で制約されたモデルで最大化され対数尤度、ln(𝐻1)は対立仮説で制約されたモデルの 最大化された対数尤度の値である。𝐽は、検定の対象となる制約の数である。非効率性(𝑢) の有無を確認するための𝛤(= 𝜎𝑢2⁄(𝜎𝑢2+ 𝜎𝑣2))に関する検定では、非効率性が切断正規分布に

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比検定統計量𝐿𝑅が1409.31となり、1%水準(自由度3の場合、10.501)で帰無仮説が棄却 された。したがって、確率的フロンティア・モデルの妥当性が支持される。また、𝐻0: 𝜇 = 0 およびH0: 𝜂 = 0という帰無仮説に関する尤度比検定統計量𝐿𝑅𝜇、𝐿𝑅𝜂がそれぞれ、84.76、3.11 となり有意水準 5%(自由度 1の場合、2.705)で帰無仮説が棄却された。したがって、本 章で定式化した非効率性が切断正規分布に従うことおよび時間に応じて変化するという

time-varying モデルが支持された。非効率性の変化の方向と大きさを示す 𝜂 の推定値は

−0.006と10%水準で有意にゼロとは異なるマイナスの値となっており、推定期間中におい

て地方銀行および第二地方銀行では費用効率性が経年的に低下していたことが分かる。

以上の確率的フロンティア費用関数の推定結果から、Coelli(1996)による定義に基づいて 費用効率性指標を計測した。図表3-4は、標本に含まれる全ての銀行について各年度の費 用効率性の記述統計を示したものである。さらに、図表3-9には各行の効率性の推移を示 した。全銀行の平均値の推移をみると、𝜂の推定結果から明らかであるが、推定期間中の1998 年度から2009年度にかけて費用効率性は悪化している。

確率的フロンティア費用関数の推定値に基づいて計測された規模の経済性および範囲の 経済性の計算結果を図表3-5に示した。まず、規模の経済性をみると、全体の規模の経済 性および各生産物に関する規模の経済性すべてにおいて、マイナスの値となった。また、

ワルド検定の結果、統計的に有意にゼロと異なっている。この結果は、上田(2006)等、地方 銀行等の規模が小さい銀行において規模の経済性があるとした先行研究と同様の結果であ る。

次に、範囲の経済性についてみる。貸出と貸出以外の運用との間ではプラスの値となっ ているものの、ワルド検定の結果、統計的に有意にゼロとは異ならないため、範囲の経済 性も不経済性も確認されない。一方、貸出と役務取引、貸出以外の運用と役務取引の組み 合わせについては、統計的に有意にゼロと異なるプラスの値を取っている。これは、範囲 の不経済性を支持していることを意味する。

以上の結果は、地域銀行においては合併といった規模を拡大するような戦略を取ること が合理的であることを示唆している。それでは、経営統合により費用効率性は改善したの であろうか。この点について、次節で検討する。

従い、時間に応じて変化することを仮定したtime-varyingモデルの場合、帰無仮説𝐻0: 𝛤 = 0、

対立仮説𝐻1: 𝛤 > 0について、自由度 3 の混合カイ二乗分布に従うことを利用した片側検定

を行う。そして、𝑢の確率分布として半正規分布か切断正規分布かの選択に関する検定は 𝐻0: 𝜇 = 0、𝐻1: 𝜇 ≠ 0の両側検定となる。また、𝑢が時間によって変化しないtime-invariant モデルか変化するtime-varying モデルかの選択に関する検定は、𝐻0: 𝜂 = 0、𝐻1: 𝜂 ≠ 0の両 側検定となる。なお、混合カイ二乗分布の分布表については、Kodde and Palm(1986), Table1 を参照した。

62 5.2 経営再編と費用効率性について

5.2.1 多重比較分析

本節では、地方銀行、第二地方銀行を(1)合併銀行、(2)金融持株会社により統合されてい るが、複数の銀行のまま営業している銀行、(3)その他の銀行の 3つに分類したうえで、費 用効率性を比較する。(1)、(2)に分類されるのは、複数の銀行による経営統合が行われた場 合のみとする。2003 年 11月設立のほくぎんフィナンシャル・グループのように傘下にあ る銀行が1 行のみの金融持株会社も存在するが、本章では(3)その他の銀行に分類すること とする。また、金融持株会社による経営統合の後、合併した銀行については、金融持株会 社によって経営統合がなされていた期間は(2)に分類する。なお、比較を行う年度において 合併もしくは金融持株会社方式による統合から2年以上経過した銀行を(1)、(2)の分類対象 とする。これは、再編直後の 1 年目にはその効果がまだ十分に発揮されていない可能性を 考慮したためである。したがって、1998年度から2008年度までに再編が行われた銀行(図 表3-1のなみはや銀行から北洋銀行まで)を対象とする。

各銀行を 3 つのグループに分類し、各年度の費用効率性の基本統計量を示したものが図 表3-6である。費用効率性の平均値を単純に比較すると、2002年度から2004年度を除き、

経営統合を行っていない(3)その他の銀行が最も費用効率的であるようにみえる。しかし、

経営統合を行っていない銀行は費用効率性のばらつきが大きく様々な銀行が含まれている と考えられる。

この費用効率性の平均値に基づく議論が統計的にも支持されるのか否かを検証するため に、クラスカル・ウォリス(Kruskal-Wallis)検定を行う。これは、対応のない 3 群以上 のデータの間で統計的に有意な差があるか否かを検定するものである17。標本数の制約から、

検定を行うのは2004年度以降とする。検定の結果、2004年度から2007年度までの4年間 においては有意な差がないという結果が得られた。つまり、再編の形態に関わらず、再編 を行った銀行とそうでない銀行との間で費用効率性に差はないということになる。その一 方で、2008年度、2009年度では統計的に有意な差があることが分かった。両年度の費用効 率性をみると(3)その他の銀行が最も費用効率的であり、(1)合併行、(2)金融持株会社方式に より統合した銀行でより費用非効率的な値となっている。

ただし、クラスカル・ウォリス検定ではいずれの群間に差があるのかは分からないので、

2008、2009年度の費用効率性を対象にスティール・ドゥワス(Steel-Dwass)の検定を行

った。その結果、図表3-6に示したとおりいずれの年度においても(2) 金融持株会社方式 による統合銀行と(3)その他の銀行との間で、有意水準5%で統計的に有意な差が認められた。

つまり、金融持株会社による経営統合を実施した銀行では、経営再編を行っていないその 他の銀行よりも費用非効率的であったということを意味している。この結果は、金融持株 会社の傘下にはない独立した銀行の方が、持株会社傘下にある銀行よりも費用効率的であ

17 クラスカル・ウォリス検定、スティール・ドゥワス検定および多重比較分析全般に関し ては、永田・吉田(1997)が詳しい。

ドキュメント内 金融システムの不安定化と地域銀行経営 (ページ 63-91)

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