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ディーゼルエンジン噴射スケジュールの多目的最適化

DRMOGA

7.2 ディーゼルエンジン噴射スケジュールの多目的最適化

デ ィーゼルエンジンをはじめとするデ ィーゼル機器は,燃費,耐久性といった特徴のた め小型から大型まで幅広く用いられている.しかしながら,近年,東京都の排ガス規制に 見られるように,これらのデ ィーゼル機器に対して環境面からの厳しい要求が高まってい る.そのため,これらのデ ィーゼル機器の排出する窒素酸化物(NOx),すすなど の排出量 を減少させることは急務となっている.

排ガス中のこうした物質を削減するための対策とし ては,大きく分けて次の3方向の研 究開発がある42)

1) デ ィーゼル燃焼の改善 2) 使用燃料の検討 3) 後処理装置の開発

本節では,このうちディーゼル燃焼の改善に着目した排気特性の最適化を試みる.ディー ゼル機関の燃焼改善のための対策には,噴射の特性設定が行われる.この噴射の特性設定 には,多くのパラメータのチューニングとそれに伴う膨大なシミュレーション実験が必要 となるため,一般には計算機上のシミュレーションを用いた最適設計が行われる.

デ ィーゼル燃焼の改善のために考慮すべきことは,排気特性と熱効率であり,すなわち 燃費率の効率化,NOx,すすの低減化が目的となる.しかしながら,デ ィーゼル燃焼のシ ミュレーションには多くの計算が必要となる上,多くの場合,最適パラメータ設計のため の明確な方法論も確立されていない.そのため,これまでに行われてきたデ ィーゼル機関 の最適パラメータ設計の多くは,3目的のうち1つの目的のみに注目し ,その他の目的を 制約条件とする単一目的最適化であった43–45

そのため,本節では燃費率,NOx排出,すす排出の最適化を同時に行う3目的最適化を 試みる.実験では,多段階噴射を想定し ,燃料噴射期間内に噴射率を任意に変化させるこ とが可能であるものとした.噴射率を変更することにより,燃費率,NOx排出量,すす排 出量が最小となる設定の探索を行う.経験的に,これら3目的間には互いにトレード オフ の関係があることが 知られている.例えば,NOxは高温の下で完全燃焼に近づくほど 発生 量が増加するのに対して,すすは低温で不完全燃焼状態になると生成されるという全く正 反対の性質を持っているため,NOxとすすの両方に関する最適値を得ることはできない.

上記の3目的デ ィーゼルエンジン噴射スケジュール最適化に対し ,6章において述べた NCGAの適用を試みた.また,計算負荷を軽減するために32台のPCにより構成される クラスタ計算機を用いた並列計算を行った.

7.2.1 ディーゼル燃焼モデル

デ ィーゼル,ガソリンに限らず自動車など の大型機械のエンジンのほとんどは,吸入・

圧縮・燃焼・排気の4つの行程をくり返す,4サイクルエンジンである.ただし,この行程 をさらに細かく分類した場合,ディーゼルとガソリンに2つの違いをあげ ることができる.

それは燃料と空気を混合するタイミングと,混合気を爆発させる方法である.

ディーゼルエンジンは空気のみを燃焼室に送り込んで圧縮し,その後燃料と混合する.こ れに対して多くのガソリンエンジンでは,あらかじめ燃料と空気を混合して燃焼室に送り 込み,圧縮する.デ ィーゼルエンジンのように空気のみを圧縮すると,圧縮時の自然発火 が原因となるノッキング1 が起こらないため、圧縮比2 をより高めることができる.さらに ノッキングがないとシリンダ径の制限も受けないため,排気量を増やして出力を高めるこ とも可能となる.

また,混合気を爆発させる方法について見た場合,デ ィーゼルエンジンは圧縮した空気 に高圧力で燃料を噴射し 自然発火させる.対して,ガソリンエンジンは圧縮した混合気に 点火プラグで着火する.デ ィーゼルエンジンのような自己着火の場合,多点で同時に燃焼 するため,可燃範囲が広く,点火系の故障に起因するミスファイヤがない.しかし一方で,

騒音が大きくなるという問題もある.

これら2つの異なりに起因するデ ィーゼルエンジン燃焼のガソリンエンジン燃焼と比較 した場合の利点,欠点を以下に示す.

利点 CO2,CO,HCの排出量が少ない.

デ ィーゼルエンジンは,燃料に対し て空気の量が充分な状態で燃焼するため酸素が 不足による不完全燃焼が起こりにくい.そのためCO,HCの排出量が少ない.また,

燃費効率に優れているため,CO2の排出量もガソリンエンジンと比較して少ない.

欠点 NOx・PM(Particulate Matter)を多く排出する

ディーゼルエンジンは点火装置を使わず自己着火によって燃焼を行う構造上,燃焼段 階が「 着火遅れ期間」「 予混合燃焼期間」「 拡散燃焼期間」「 後燃え期間」の4つに分 かれる.この中の「 予混合燃焼期間」に爆発的な燃焼で高い熱発生を起こし ,シリン

1ガソリンエンジンで,圧縮時に点火プラグから離れた部分の混合気が自然発火し,燃焼室全体のガ スが瞬 間的に燃焼し,キンキンやカリカリなど の音が発生する現象.

2燃焼室の圧縮前の最大容積と、圧縮後の最小容積の比.圧縮比が高いほど 出力が大きくなる.

ダ内の温度が急激に上昇する.この時,NOxが生成される3 .一方,デ ィーゼルエ ンジンでは,空気と燃料の混合気体を用いるのではなく,シリンダ内に燃料を噴射し て燃料と空気を混ぜ合わせるため混合状態が不均一になり易い.さらに,「 拡散燃焼 期間」と「 後燃え期間」ではシリンダ内の温度と圧力が低下するため,そのため,低 温状態の不完全燃焼において発生しやすいPMが多く発生する.

上記のように,デ ィーゼル燃焼モデルにはガソリン燃焼モデルと比較してNOx,PMが 多量に発生するという問題点がある.特に,NOx,PMは条例など の排ガス規制の対象と なっており,その削減は急務である.

以下,NOxおよびPMの簡単な説明を示す.

NOx NO、NO2、N2O、N2O2など の酸化窒素の総称.高温下で窒素と酸素が結合して発 生する.特性とし て,高温で完全燃焼に近づくほど 発生量が増加するため,発生量を おさえるには燃焼温度を下げ る必要がある.

PM Particulate Matter:粒子状物質の略.排出される炭素粒子のまわりに,燃料の燃焼

中間生成物など ,さまざ まな化合物が付着したもので ,黒煙(Soot)もPMの一種 である.PMは,低温で不完全燃焼状態になると生成される.

一方,熱発生率の予測とNOxおよび PMなど の排気有害成分の予測を行うためには,

デ ィーゼル燃焼現象のモデル化が必要となる.しかしながら,デ ィーゼル燃焼現象のすべ てを数学的に記述することは現在のところ不可能である.これまでに,多くのデ ィーゼル 燃焼のモデルが 提案されているが,それらは次の3つに分類できる42)

1) 熱力学的モデル(Thermodynamic Model):

熱発生率のみを予測するもので,燃焼室内で行っている事象を全体とし て把握し,その 時間的推移を追う.

2) 現象論的モデル(Phenomenological Model) :

デ ィーゼル燃焼現象の基本構成要素について,実験的に求めた実験式を主として計算に 用いる.比較的短い時間で解析が可能である.

3) 詳細多次元モデル(Detailed Multidimensional Model):

物理的・化学的課程を支配するすべての微分方程式を解くことでエンジンの特性の三次 元構造を明らかにする.解析には膨大な計算が必要となる.

3NOxは,ガソリンエンジンでも排出されるが,後処理技術の確立により低減されている.

NCGA