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ダイヤモンド壁による圧縮

第 3 章 単一フラーレンの解析 18

3.2 圧縮シミュレーション

3.2.2 ダイヤモンド壁による圧縮

解析条件

 頂点保持による圧縮同様,n=3〜6のフラーレンを対象に,剛体ダイヤモンド壁を用 いて圧縮シミュレーションを行った.まずxy方向周期境界条件下で,ダイヤモンド壁 を各フラーレンの下0.44[nm]の位置にセットし,さらに20000[fs]の緩和計算を行う.

その後,図3.8に示すように新たなダイヤモンド壁をフラーレンの上1[nm]の位置に 配置し,これを下降させることで圧縮シミュレーションを行う.押し込みは対象の直 径Dに対して3/4Dまで行った.ダイヤモンド壁の厚さは0.7[nm]とし,その下降速 度は1.0×104[nm/fs]とした. セルの周期方向の寸法は7.1[nm]であり,圧縮してつ ぶれてもフラーレン同士は相互作用しない大きさであることを確認している.

フラーレンとダイヤモンド壁との間では,共有結合的な反応は考慮せず,Van der

Waals力のみを考慮した.各原子の初速度はMaxwell Boltzmann分布に従って乱数で

与えており,温度は10[K],積分の時間ステップは全て1.0[fs]である.

7.1nm y

z

x

1nm

Fig.3.8 Schematic of wall compression (C1500).

解析結果

 図3.9にC540の圧縮シミュレーション中に生じる応力と変位の関係と変形の様子を まとめて示す.図3.9(ii)のスナップショットは図3.9(i)中に矢印で示した各点にそれ ぞれ対応している.図3.9(i)の横軸の変位は初期位置を0としており,縦軸の応力は 上下端の五員環を固定した前節の図3.6の2倍程度のスケールとなっている.図3.9(i) の応力を見ると,(a)の変位0.6[nm]近傍では負の値を示しているが,これはVan der

Waals力の引力によるものである.本研究で用いたポテンシャルでは,Van der Waals

力は原子間の距離が0.37[nm]以上であれば引力を,以下であれば斥力を生じる.この ため変位0.6[nm]近傍(1[nm]-0.37[nm])で応力が上昇に転じている.(a)から急激に上 昇を始めた応力は(d)の変位1.15[nm]近傍で一つの応力ピークを示す.この応力ピー ク前後の構造を図3.9(ii)の(d),(e)で確認すると,前項の図3.2(ii)に示したのと同様 の五員環群が上下共に球の内側にへこんで筒状の形状となっている.その後,再び上 昇に転じた応力の傾きは,(f)の変位1.7[nm]近傍においてさらに変化するが,これは

図3.9(ii)の(f)に示すように,へこんだ上下の面同士が作用し始めるためである.

図3.10にC960の圧縮シミュレーション中の応力−変位関係と変形の様子をまとめ て示す.図3.10(i)の応力−変位関係を見ると,(a),(b)間で下降しながらも(c)に向 かって応力上昇し,その後は(c)から(e)まであまり上昇せずに進む.(a),(b)間の応 答を図3.10(ii)で確認すると,前節の図3.3(ii)の(b)同様に,最上部の五員環が内側に 向かってへこんでいる.応力は(e)で再上昇し,(f)で小さな応力ピークを示した後に,

(h)から再び上昇に転じる.(e)で応力勾配が大きくなるのは,先のC540と同様に筒状 の形状になったフラーレンの両端面が相互作用しはじめたためであるが,(f)で応力が わずかに下降したのは,図3.10(ii)の(f)で示したように互いにずれたためである.(g)

→(h)で応力が再び上昇するのは,互いにずれることができなくなるまで圧縮された ときである.

図3.11にC1500の圧縮シミュレーションの結果を示す.全体的な傾向はC960によく 似ているが,最後の応力上昇前の小さな応力ピークがほとんどない.図3.11(ii)の(f) を見ると,原子数が多いために対面の原子同士が流動的に動いて蛇腹を形成している のがわかる.

図3.12にC2160の圧縮シミュレーションの結果を示す.全体的な応答は似ているが,

他のフラーレンに比べあまり応力上昇せずに進み,(h)から継続的な上昇を始める.一 つ目のピーク前後の構造を図3.12(ii)の(c),(d)で確認すると,前節の図3.5(ii)に示 したのと同様の五員環群が球の内側にへこんでいる.また二つ目のピーク前後の構造

を図3.12(ii)の(f),(g)で確認すると,互いに作用していた両端面の均衡がくずれ,下

面が再び外側に折れ返している.終盤(h)の応力が再上昇し始める点では,図3.12(ii) の(h)にあるように,折れ返った部分が下端に到達しており,その後(i)では赤い点線 で囲った側面のスペースも,(h)では余裕があったのに対し,Van der Waals相互作用 する距離まで狭まっていた.

図3.13に全てのフラーレンの応力−変位関係をまとめて再掲する.C2160を除き,い ずれも前節の図3.6と同様,ひずみ0.2近傍におけるピークとそれぞれ近い値をとっ ており,フラーレンの構成単位近傍の五員環群の座屈による応答が表れている.また C540は変位1.85[nm],C960は変位2.5[nm],C1500は変位2.9[nm],C2160は変位3.7[nm]

から応力が急上昇する.このときの構造(C540は図3.9(ii)の(f),C960は図3.10(ii)の (h),C1500は図3.11(ii)の(f),C2160は図3.9(ii)の(i))を図3.14に再掲する.C540は上 下面が接近して相互作用し始めるときであるが,その他のフラーレンは折りたたまれ た内部の隙間がなくなった点に対応する.特にC1500,C2160は原子数が多いために対 面の原子同士が流動的に動いて複雑な形状を示している.こうした柔軟な変形により,

いずれのフラーレンでも圧縮後に結合が解けて空孔を生じたり,新たに遷移が発生し て結合の切り替わりが起こるような変化はなかった.

(d)

(c) (e)

(f)

(b)

-σCompressive stress, , GPa (a)

Displacement of upper wall, nm C540

0 2 4

0 2 4

(i) Stress - displacement curve of C540 under compression.

(d) 1.15nm indentation (e) 1.4nm indentation (f) 1.85nm indentation (a) 0.6nm indentation (b) 0.85nm indentation (c) 0.9nm indentation

y z

x

(ii) Snapshots of C540 under compression.

Fig.3.9 Compression of C540 by diamond wall.

(c)

(b) (a)

(d) (f)

(g)

(e) (h)

Compressive stress, , GPa-σ

Displacement of upper wall, nm C960

0 2 4

0 2 4

(i) Stress - displacement curve of C960 under compression.

(e) 2.0nm indentation (f) 2.3nm indentation (g) 2.4nm indentation (h) 2.5nm indentation (a) 0.85nm indentation

y z

x

(d) 1.8nm indentation (b) 0.95nm indentation (c) 1.3nm indentation

(ii) Snapshots of C960 under compression.

Fig.3.10 Compression of C960 by diamond wall.

(c)

(b) (a)

(d) (e) (f)

Compressive stress, , GPa-σ

Displacement of upper wall, nm C1500

0 2 4

0 2 4

(i) Stress - displacement curve of C1500 under compression.

(d) 1.7nm indentation (e) 2.2nm indentation (f) 2.9nm indentation (a) 0.8nm indentation (b) 0.85nm indentation (c) 1.4nm indentation

y z

x

(ii) Snapshots of C1500 under compression.

Fig.3.11 Compression of C1500 by diamond wall.

(c)

(b) (a)

(d) (e) (h) (f)

(g)

Compressive stress, , GPa-σ

Displacement of upper wall, nm C2160

0 2 4

0 2 4

(i)

(i) Stress - displacement curve of C2160 under compression.

(e) 2.6nm indentation (f) 2.9nm indentation

(h) 3.3nm indentation (g) 3.0nm indentation

(a) 0.8nm indentation

y z

x

(d) 2.2nm indentation

(b) 0.85nm indentation (c) 1.9nm indentation

(i) 3.7nm indentation (ii) Snapshots of C2160 under compression.

Fig.3.12 Compression of C2160 by diamond wall.

C o m p re ss iv e st re ss , , G P a - σ

Displacement of upper wall, nm

C540 C960 C1500 C2160

0 2 4

0 2 4

Fig.3.13 Stress - displacement curves of fullerenes under compression.

y z

x

(a) C

540

(b) C

960

(c) C

1500

(d) C

2160

Fig.3.14 Snapshots of fullerenes at the point just before the drastic stress increase.

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