4.1 はじめに
単結晶ダイヤモンドは不純物の添加により電気特性を制御でき,ワイドギャップ 半導体としての性質を有するため,パワーデバイスへの応用が期待されている 1).1 章の表1.1に示したように,ワイドバンドギャップ半導体材料として近年開発が進ん でいる炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)に比べてもダイヤモンドは高い熱 伝導性,絶縁破壊電界強度などを有しており,優れた省エネ効果など付加価値の大き な半導体を実現することができる.半導体材料はひずみのない研磨面であることが 必須条件であり,より高品位な平坦化研磨加工技術が必要とされる.しかし,ダイヤ モンドは物質中でもっとも硬く,熱的,化学的にも安定であるため加工が極めて困難 な材料であり,加工やエッチングが困難である.特に,化学的な作用を複合的に与え て超精密研磨を行うCMP技術の適用はほとんど報告されていない.これまでに熱化 学反応を利用した研磨およびレーザーやイオンビーム,放電などの高エネルギービーム を用いた研磨など,さまざまな方法が研究されてきた.しかし,熱化学反応を利用した方 法の多くは,1000℃近い高温領域での反応を利用するため実験装置が大規模になり,コス ト面での実用化は難しい.
筆者は単結晶ダイヤモンドやPCDに対してUVアシスト研磨を行い,優れた到達 面粗さや高い研磨レートを実現している2)3).しかし,いずれも3mm角~5mm角の 小さいダイヤモンドである.半導体として利用される基板には大面積化が求められ ている.現在,デバイス用ダイヤモンドはマイクロ波プラズマCVD法とダイレクト ウェハ法によりウェハの大面積化が進んでいる.1つの種結晶からは 10 mm角のダ イヤモンドウェハを作り出すことができており,更なる大面積化に対応すべく,モザ イクウェハの作製が行われている4)5).モザイクウェハとは複数の単結晶ダイヤモン ドを接合し,それを成長させることで大面積化したウェハのことである.モザイクウ ェハの接合部表面にはうねりや傷が存在するため,これを超平滑,超平坦に研磨する 新しい研磨技術も求められている.
本章では,10mm角以上の大口径ダイヤモンドウェハに対応させたUVアシスト研 磨について述べる.マイクロ波プラズマ CVD法により作製された10 mm角のダイ ヤモンドウェハおよび複数の基板を接合して 20mm 角まで大口径化したダイヤモン ドウェハ(以下,モザイクウェハ)に対してUVアシスト研磨を行い,研磨特性を評 価した.また,4.5mm角のIb(100)単結晶ダイヤモンド試料にUVアシスト研磨を行 い,X線トポグラフィー(XRT)を用いてウェハの欠陥を評価した.
測定機器は光学顕微鏡,白色型位相干渉顕微鏡(Zygo,NewView7300,以下Zygo), 原子間力顕微鏡(島津製作所,SPM-9700),X線トポグラフィー(フォトンファクト
リー BL-15C)を用いた.
- 84 - 4.2 10 ㎜角ダイヤモンドウェハの研磨特性
マイクロ波プラズマ CVD法により作製された10 mm角のダイヤモンドウェハの UVアシスト研磨に用いた横型UVアシスト研磨装置を図4.1に示す.紫外光を石英 板の裏側から加工面に照射し,ダイヤモンド試料と石英板をバネで押し付け,互いに 同一方向へ回転させている.研磨中の押し付け力は共和電業製小型ロードセル
LMA-A-50Nにより常時確認した.石英板は直径50mm,厚さ3mmであり,波長200nm付
近でのUV透過率は紫外可視近赤外分光光度計(島津製作所,UV-3600)により約90%
であることを確認している.UV光源はウシオ電機製UV照射装置SP-9であり,光 ファイバー出口での照度は1200mW/cm2(浜松ホトニクス(株)製 UV照度計
C6080-02,センサーFD1398 (中心感度248nm))であるが,基板表面では石英板および空
気により吸収されるため約300mW/cm2まで減衰する.実験条件を表4.1に示す.
図4.1 横型UVアシスト研磨装置
表4.1 10mm角ダイヤモンドのUV研磨条件
Specimen 10mm×10mm×t1.0mm
Diamond wafer Rotational
speed
Diamond
substrate 1250rpm
Quartz disk 1875rpm
Polishing pressure 1.0MPa
UVアシスト研磨を30 min行った結果を図4.2(a)~(c)に,また,その後全面研磨が 完了するまでの研磨面の表面粗さの推移を図4.3(a)~(f)に示す.図4.2(a)のように,研 磨前の試料は前処理の加工痕や傷,模様,穴などが目立つ.30 min のUVアシスト 研磨により,図4.2(b)に示すように,傷や模様の取り除かれた領域がはっきりと観察 できる.本試料は,図4.3(a)のZygoのスティッチング像からわかるように,ウェハ 中心部が低く,外周部から研磨が進行している.図4.2(c)は研磨により平坦化した領 域の境目を Zygo により測定したものであり.傷の取り除かれた領域 A と平坦化が
- 85 -
なされていない領域Bで比べると,研磨が行われた領域Aの面粗さが向上している ことがわかる.
図4.3(c)に示す 9.5hrで,試料全体のうねりや,加工痕,傷を取り除くことができ
た.また,図4.3(d)および(f)の微小領域の観察結果から,うねりの大きな研磨痕が取 り除かれた後に微小な凹凸が除去されて平滑な面が得られることがわかる.図4.4に 11hr研磨後の表面のAFMの測定結果を示す.極微小領域においても平滑な面を得る ことができ,0.067 nmRa,0.826 nmRzの非常に良好な平滑面を獲得した.
(a)UV加工前 (b)UV加工後
(c)境界面のZygo像 (測定範囲: 696 μm×522 μm) (A:0.31 nmRa, 4.09 nmRz B:8.48 nmRa, 1139.15 nmRz)
図4.2 ダイヤモンドウェハの光学顕微鏡像およびZygo像(UV研磨30min)
- 86 -
(a) (b)
UV研磨前
(c) (d)
9.5 hr UV研磨後
(e) (f)
11 hr UV研磨後
図4.3 UV研磨時間の増加によるダイヤモンド基板の表面性状の推移 (測定範囲:(a),(c),(e):10mm×10mm)
(測定範囲:(b),(d),(f):72μm×54μm)
12 m
-12 m 2.46mRa 18.65 mRz
12 m
-12 m 0.118mRa 1.408 mRz
12 m
-12 m 0.088mRa 1.377 mRz
9.151 nmRa 820.23 nmRz
-2 nm 2 nm
0.484 nmRa 42.731 nmRz
-2 nm 2 nm
0.181 nmRa 2.670 nmRz
-2 nm 2 nm
- 87 -
図4.4 11hr UV研磨後のダイヤモンドウェハ AFM像 (測定範囲:1.0µm×1.0µm)
4.3 モザイクウェハの研磨
前節で述べたように,1つの種基板を成長させた10 mm角のダイヤモンドウェハ に対して UV アシスト研磨が適用できることが確かめられた.次に,モザイクウェ ハの接合部に対するUVアシスト研磨の可否について調べた.
モザイクウェハの UV アシストのUVアシスト研磨に用いた大形 UVアシスト研 磨装置(縦型4号UVアシスト研磨装置)を図4.5に示す.本装置は大型のダイヤモ ンドウェハを UV 研磨するために筆者らが新しく開発したものある.相対速度を向 上させるため,石英板を直径350 mmとした.また,UVアシスト研磨の研磨レート や到達面粗さは研磨部の雰囲気状態に依存するため,研磨中の湿度や酸素濃度を大 型密閉容器により定常化し,研磨の安定化を図った.石英板の下側から UV を照射 し,ダイヤモンドウェハを石英に0.3 MPaの圧力で押し付け,互いに同一方向に回転 させて研磨を行う.石英は直径350 mm,厚さ5 mmであり,波長200 nm付近での UV透過率は紫外可視近赤外分光光度計(島津製作所,UV-3600)により約90%であ ることを確認している.UV光源はウシオ電機製UV照射装置SP-9を3本照射して おり,光ファイバー出口での照度は 260 mW/cm2(浜松ホトニクス(株)製UV 照度計
C6080-02,センサーFD1398(中心感度248 nm))であるが,基板表面では石英板および空
気により吸収されるため約200 mW/cm2まで減衰する.実験条件を表4.2に示す.
0.067 nmRa 0.826 nmRz
- 88 -
(a)装置の全体図 (b)研磨部の拡大図
図4.5 縦型4号 UV研磨装置
表4.2 モザイクウェハのUV研磨実験条件
Specimen
20mm×19.5mm×t1.0(triangle)接合部の研磨 21.3mm×16.7mm×0.7mm 基板全面の研磨
Mosaic diamond wafer Rotational
speed
Diamond substrate 1250rpm
Quartz disk 1875rpm
Polishing pressure 1.0MPa
4.3.1 モザイクウェハ接合部の研磨特性
図4.6にモザイクウェハ接合部の研磨実験で用いたモザイクウェハの画像を示す.
図4.6(a)は試料全体の写真であり,中央付近に縦に接合部が存在する.図 4.6(b)に接
合部の光学顕微鏡写真を示す.接合部には傷のような模様が入っており,試料表面に は前節で示した10 mm角ダイヤモンド基板と同様に前処理による加工痕が認められ
る.図4.7(a)~(c)にUVアシスト研磨前後における接合部のZygo像を示す.試料のう
ねりが大きく,観察箇所まで平坦化されるのに69 hr という長い研磨時間を要した.
図4.7(a)~(c)のラインプロファイルを抽出したものが図4.7(d)である.図4.7(a)では中
心のうねりが大きく,200 nm程度の高低差が存在し,中心に傷のようなものが確認 できる.UV アシスト研磨後の図 4.7(b)では,図 4.7(a)で観察された高低差や傷が取 り除かれ,フラットな面を得ることができている.その後,77 hrのプロファイルで は微小な凹凸が取り除かれており,さらに平滑な面を得ることができた.
以上のように,モザイクウェハに対して UV アシスト研磨を行い,接合部に割れ や欠けなどのダメージを生じることなく,1つの種基板からできた基板と同様にUV アシスト研磨できることが確認できた.
UV
Diamond wafer Air spindle
Quartz plate
- 89 -
(a)基板全体の外観 (b)接合部の拡大図
図4.6 接合部研磨実験で用いたモザイクウェハの光学顕微鏡像
(a)UV研磨前
(b) 69hr UV研磨後 (c) 77hrUV研磨後
(d)
(d)接合部のラインプロファイル
図4.7 UV研磨時間の増加によるモザイクウェハ接合部表面性状の推移 (測定範囲:696µm×522µm)
0.5 mm 20 mm
19.5 mm
Junction
0 0.2 0.4 0.6
-100 -50 0 50 100
Height (nm)
Distance (mm)
- 0 hr
-69 hr
-77 hr
- 90 - 4.3.2 モザイクウェハ全面の研磨特性
図4.8にモザイクウェハ全面の研磨実験で用いたモザイクウェハの画像を示す.こ のモザイクウェハはダイヤモンド基板を 4 枚接合した種基板から作製したものであ り,ウェハサイズは21.3 mm×16.7 mm×0.7 mmである.UVアシスト研磨の研磨レー トは雰囲気中の酸素濃度が高いほど増加する6)ため,本実験では図4.9に示すような 小型のアクリルパイプ製のチャンバーをウェハ近傍に新たに設置し,酸素濃度を確 実に高くしてUVアシスト研磨を行った.
O2 100%の条件下で UV アシスト研磨を 33 hr 行った基板全面の Zygo 像を図
4.10(a)~(c)に示す.図4.10(a)(b)を比較すると,研磨前に存在した大きなうねりは取り
除かれ,平坦化されていることがわかる.また,図 4.10(c)は全高さデータの累積ヒ ストグラムを示す.本試料はうねりの方向が一方向でないことから,ラインプロファ イルでは特徴が示せないため,高さデータの累積ヒストグラムを用いた.研磨前は-4 mから3 mまでゆるやかに増加しているのに対し,研磨後は-0.5 mから0.5 m の高さの幅の中に収束している.このことからも面全体が平坦になっていることが わかる.基板の微小領域のZygo像を図4.11(a)~(d)に示す.中心付近の微小領域の測 定画像を図4.11(d)(e)に,外周の微小領域の測定画像を図4.11(f)(g)に示す.試料の外 周部,中心部に関係なく,研磨前に存在したスクラッチや凸部は取り除かれ,表面粗 さが向上していることがわかる.また,接合部に割れなども生じずにモザイクウェハ の全面研磨に成功した.
図4.8 実験に使用したモザイクウェハの画像
5 mm